さいいち
恋愛現代恋愛
2026年09月10日
公開日
14.3万字
連載中
結婚して三年。
瑠花は、誰よりも完璧な「阿部夫人」でいようと努力してきた。
夫・阿部奏汰のため、家族のため――。
どれだけ彼の冷たい態度を取られても耐え、義母からの嫌がらせや心ない言葉にも黙って耐え続けた。
けれど、そんな彼女の努力が報われることはなかった。
奏汰の心にいるのは、自分ではない。
幼馴染の坂本紗奈が帰ってきた瞬間、瑠花はすべてを悟った。
もう、この結婚にしがみつく意味なんてない。
「離婚してください」
そう告げたのは、瑠花が自分自身を取り戻すための決意だった。
しかし――離婚直前、奏汰は交通事故に遭う。
そして目覚めた彼は、すべての記憶を失っていた。
家族のことも、過去のことも忘れたはずなのに……。
なぜか、瑠花のことだけは覚えていた。
「離婚したい」
そう言う瑠花に、奏汰は戸惑う。
「また怒っているだけだろう?」
彼女が阿部家を出て行っても、奏汰は気づかない。
「瑠花がそんなことをするはずがない」
そう思っていた。
しかし、ある日――。
瑠花が別の男性に向けて見せた笑顔を見た瞬間、奏汰の心は大きく揺れる。
「俺の妻なのに……他の男を見るな」
「瑠花、どこにも行かないでくれ」
かつて彼女を傷つけた男が、今度は必死に愛を求め始める。
「寒いなら、俺が温める」
「怒っているなら、何でもする」
「お願いだから、俺を置いていかないで」
周囲はようやく気づく。
誰よりも瑠花を大切に想っていたのは、実は奏汰自身だったのだと。