さかなゆめ
恋愛現代恋愛
2026年09月11日
公開日
5万字
連載中
楓夏は、持てるすべての愛を隼斗に捧げた。
彼の子を産み育て、家庭に尽くし、学業も夢も諦めた。
それなのに彼女を待っていたのは、片脚を失い、三年ものあいだ囚われるという残酷な運命だった。
誰よりも楓夏を憎んでいたはずの隼斗。
しかし大地震が起きた瞬間、彼は自らの身を盾にして彼女を守り、瓦礫の下に永遠に葬られた。
彼とともに、二人をつないでいた因縁までもが埋もれた――はずだった。
楓夏は仏前に跪き、三万日を超える歳月を祈り続けた。
艶やかな黒髪が白く染まり、長い生涯を終えた彼女が再び目を開けると、そこは二十一歳の自分と隼斗が結婚する、まさにその日だった。
もう二度と、同じ人生は歩まない。
そう誓った楓夏は、迷うことなく結婚式から逃げ出した。
隼斗が口のきけない自分を妻に迎えたのは、愛していたからではない。ただ、ほかに選択肢がなかっただけ。
周囲の人間にとって、楓夏は玉の輿に乗った幸運な娘にすぎなかった。
だから彼女が離婚を切り出すと、五十嵐家の誰もが諸手を挙げて賛成した。
――ただ一人、楓夏を最も嫌っているはずの隼斗を除いて。
愛していないはずなのに、彼は離婚を拒む。
いつも冷たい言葉で彼女を傷つけるくせに、五十嵐家の者たちが楓夏を侮辱するたび、彼は必ずその前に立ち、彼女を守る。
憎まれているのか、それとも――。
前世では知ることのできなかった彼の本心が、やり直した人生で少しずつ明らかになっていく。