姉が私のウェディングドレスを着て婚約者とキスし――私は誰も見向きしない車椅子御曹司と結婚し、彼らは死んだ
Minto
恋愛現代恋愛
2026年09月08日
公開日
2.2万字
連載中
最も憎しみ合ったあの頃。
水無月夢莱と黒瀬知也は、愛すれば愛するほど、憎しみも深めていった。
初めての夜。
彼が彼女の身体に無数の傷跡を残せば、夢莱は彼の喉元に噛み跡を刻んだ。
誕生日。
彼が彼女のために呼んだ男性モデルの足を折れば、夢莱は彼の新しい恋人の顔を傷つけた。
母の命日。
彼が彼女の母親の遺品をすべて捨てれば、夢莱は彼の初恋相手が残したラブレターを引き裂いた。
二人は賭けをしていた。
先に婚約を破棄した方は、結婚相手が「年老いて身体の不自由な役立たず」になる。
そんな約束だった。
けれど、誰も予想していなかった。
先に頭を下げ、負けを認めたのが――水無月夢莱だったことを。
兄に強いられた彼女は、ある男と結婚することを決めた。
その相手は、車椅子の男。
理由はただ一つ。
若年性認知症の診断を受けたその日。
意識が朦朧とする中、ウェディングドレス店の前に立った夢莱は、そこで一組の男女を見た。
自分のドレスを身にまとい、抱き合う二人を。
男は――黒瀬知也。
そして女は――
異母姉の芙美だった。
夢莱はこれまでの人生で、誰にも覚えてもらえたことがなかった。
好きな食べ物も。
寒がりなことも。
誰かに支えてほしいと思っていることも。
誰も知らなかった。
もう、この人生はこうやって終わるのだと思っていた。
神崎家の、半身不随だと噂される後継者に嫁ぎ、誰かに決められた人生を歩むだけの存在になるのだと。
けれど――
神崎久星は、空港の到着口に車椅子で現れなかった。
彼は、彼女の母が最期に託した願いを覚えていた。
彼女の好きな料理を覚えていた。
彼女が東京を離れた時の便名まで覚えていた。
「本当に大切に思う相手のことは、教えられなくても分かるものだ」
そう言って彼は、彼女の皿に料理を取り分ける。
「俺が三年間、歩けないふりをしていたのは、人から逃げるためじゃない」
「奪われたものを取り戻して――君を家へ迎えに行くためだった」