恋愛小説のヒロインに転生した私が、攻略対象を諦めたら、やがて財界に恐れられる危険人物に執着されました
Osuwari
恋愛スクールラブ
2026年09月16日
公開日
3.4万字
連載中
冬月美咲が恋愛小説の世界に転生したその日、医師から長い食事制限のリストを渡された。
昼食はいつも、茹でた鶏むね肉、湯通しした野菜、雑穀ご飯。味付けはほとんどなく、塩の量まで厳密に決められていた。
システムは告げた。
――九条玲央を攻略しなければ、電撃ペナルティ。
彼女は十二分も列に並び、揚げたてのコロッケを二つ買った。
こんがりとした黄金色の衣はサクサクで、マッシュポテトはまだ湯気を立てている。
彼女は一口も食べず、二つとも九条玲央に渡した。
彼は一目見ると、道端の食べ物は不衛生だと嫌がり、そのままゴミ箱に捨てた。
「貧乏人と長く一緒にいると、お前の基準もその程度まで落ちるのか?」
彼女がしゃがんでコロッケを拾おうとしたとき、廊下の端に佐伯一が立っていた。
毎朝五時に起きて彼女のために豚の生姜焼きを作り、一番いい肉をこっそり彼女の前に押し出していた少年。
彼は、教室で美咲が九条玲央に告げた偽りの告白を聞いてしまった。
彼は自分で殻を剥いたエビも、揚げたてのチキンも、小さく切ったカボチャも、すべて捨てた。
弁当箱をゴミ箱に叩き込んだ。
ご飯からはまだ湯気が立っていた。
三日後、彼は退学届に自分の名前を書いた。
そして美咲は知らなかった。
十年後、彼が九条家を買収し、かつて彼女のコロッケを捨てた男を、彼女の部署のごく普通の社員にしてしまうことを。
世間では、財界の人間たちは彼を「生きた閻魔」と呼んで恐れている。
けれど家では、彼が送るのは犬のスタンプばかり。
「鯛茶漬け、ひとつ残しておこうか?」
――君が捨てたのはコロッケ。
僕が拾ったのは、残りの人生すべてだった。