「家にいるだけ」と言われた妻が、自分の名前で評価されるまで
菊池まりな
恋愛現代恋愛
2026年09月16日
公開日
1,276字
連載中
【短編】
結婚五年目。相沢千尋は、大手企業に勤める夫・圭介から「家にいるだけの妻」だと思われていた。
けれど本当の千尋は、自宅で海外企業向けの翻訳を手がけるフリーランスの翻訳者。家事も夫の仕事も支えながら、自分自身のキャリアも静かに積み重ねてきた。それでも夫の目に映る千尋は、いつまでも「趣味程度の内職をしている妻」でしかなかった。
「君は家にいるだけだから、何も分からないんだよ」
その一言をきっかけに、千尋は決意する。翌朝、夫の前に置かれたのは──離婚届。
離婚を機に、千尋は「妻」の肩書きを手放し、一人の翻訳者として本格的に仕事と向き合い始める。かつての取引先から声がかかり、思わぬことに元夫の会社からも仕事の依頼が舞い込む。「相沢さんにお願いしたい」──誰かの妻としてではなく、「相沢千尋」という名前で評価される日々。
一方の圭介は、妻の実力を初めて知り、戸惑いながらも彼女に謝罪し、やり直したいと願うようになる。しかし千尋の心はもう、過去には戻らない。
「誰かに必要とされるために生きる」のではなく、「自分が望む人生を選ぶ」。
離婚届を置いたあの朝から始まった、一人の女性の静かな逆転劇。