誕生日の夜、元彼は五千万円の借金の代わりに私を差し出した。だが関西一の財閥御曹司は三千万円と最高の結婚式で迎えた
余白の音
恋愛現代恋愛
2026年09月30日
公開日
2.5万字
連載中
二十七歳の誕生日。
桑原汐里は、恋人の岡崎燎に目隠しをされた。
「サプライズがある」
そう言われ、彼女は何も疑わなかった。
連れて行かれた先は、ホテルのスイートルーム。
そこで長い時間、彼を待ち続けた。
けれど、現れたのは――
知らない男だった。
遠野澄人。
しかし彼は汐里に触れなかった。
代わりに、一つの動画を見せた。
動画の中。
岡崎は麻雀卓の前に座り、賭けの書類に彼女の名前を書いていた。
「俺に勝ったら、こいつは好きにしていい」
彼女を“差し出す”ことで。
五千万円の借金を帳消しにするために。
誰かが尋ねた。
「じゃあ、白石芽依は?」
岡崎は椅子を蹴り倒し、怒鳴った。
「芽依は俺の心の中で唯一真っ白な百合なんだ」
「もしあいつに触れたら、指を全部切り落とす」
彼は汐里を賭けの駒にはできる。
でも、その女の髪一本には触れさせない。
六年間。
汐里は彼の命を救うため、一日に三つの仕事を掛け持ちした。
彼のために取引先を増やそうと、接待の席で酒を飲まされ、吐血するほど苦しんだ。
それでも、それが愛なのだと思っていた。
けれど。
宝石店で見つけてしまった。
一千万円の真珠のネックレス。
留め具には、白百合の彫刻が刻まれていた。
そして見てしまった。
彼が自分を突き飛ばした時、守っていたのは別の女性だった。
「どうせもう汚れてるんだ」
「今さら一回増えたところで問題ないだろ」
その夜。
汐里は一人で商店街を歩いた。
たこ焼きを一箱買い、泣きながら食べた。
その時。
誰かの手が、彼女の手から箱を取り上げた。
「無理して食べるなよ」
目の前に立っていたのは、遠野澄人だった。
かつて彼は、大学時代に彼女を助けてくれた不良のリーダー。
誰も近づこうとしなかった、危険な男。
「誕生日の夜」
「君は俺の彼女になるって約束しただろ」
「俺が彼女に会いに来るのは、そんなにおかしいか?」
汐里は知らなかった。
この日を迎えるために。
彼は八年間も待ち続けていたことを。