凍り梨
恋愛現代恋愛
2026年10月20日
公開日
15.8万字
連載中
望月凪咲と望月拓真の結婚は、思いがけない偶然から始まった。
義姉の森川彩羽は結婚を拒み、義妹の森川彩乃はわがまま放題。そんな二人に代わり、思いがけず名家に嫁ぐことになったのが凪咲だった。
拓真は、L市屈指の名門・望月家の御曹司。誰もが見惚れる端正な顔立ちに、気品あふれる佇まい。まさに非の打ちどころのない男だった。
凪咲は、透き通るような肌と清楚な美貌を持つ。母の再婚によって新しい家族を得たが、二人の立場も世界もあまりに違う。釣り合わないはずの二人が、運命に導かれるように一枚の婚姻届で結ばれたのだ。
そんな二人の結婚には、それぞれ譲れない条件があった。
「妻に、俺を愛してほしくない」
それが拓真の望み。
「私の将来の夢を邪魔しないで」
それが凪咲の願いだった。
彼女の目標は、いつか院長になること。恋愛に振り回されるつもりなどなかった。
互いに干渉せず、愛情も求めない。そう約束した二人の結婚生活は、きっと穏やかで、何事もなく過ぎていくはずだった。
――ところが、婚姻届を提出して三か月後。
二人はついに、新居での生活を始めることに。
ある夜、拓真が目にしたのは、風呂上がりの凪咲が一人、部屋の片隅でカップ麺を食べている姿だった。小さな明かりだけが灯る部屋で、彼女は寂しげに顔を上げる。
「……帰ってきたの?」
その小さな顔を見つめた拓真は、静かに彼女へ歩み寄った。
「帰ってきたよ。君と一緒にいるために」
愛してほしくないと言ったはずの男が、いつの間にか彼女のそばに帰ることを選んでいた。
そして結婚から一年後、二人は盛大な結婚式を挙げる。
その夜、二人きりになった寝室では、灯りが揺れ、甘い空気が満ちていた。
拓真がそっと凪咲の唇に触れようとすると、彼女は慌てて顔を背ける。
「ちょっと、離れて! そんなにくっつかないで!」
「嫌だ」
普段は気品に満ちた御曹司が、まるで子どものように甘えた声を出す。
「暑くなんかないもん」
愛を求めないはずだった夫が、今では妻にくっつきたくてたまらない。
愛さない約束から始まった結婚が、いつしか甘く、抗えない恋へと変わっていく。
思いがけない結婚の先に待っていたのは、二人が予想もしなかった運命の恋だった。