すでに作家としてスタートを切っている方々に、作家生活についてのさまざまなお話を聞く「ネオページ・インタビュー」。
今回は、「人はひとりでは生きられない」といった「咲樂」さんにお話を伺いました。
ーーまず、自己紹介をお願い致します。
咲樂 咲樂と申します。青春ガールズバンド百合小説『ロックにギターは必要ない!』を現代世界ジャンルで連載させて頂いております。
普段は別名義(本名)でソーシャルゲームのシナリオ原案や執筆で生計を立てながら、『咲樂』名義でWEB小説の連載、同人誌の制作と、個人宛ての仕事の依頼を受けております。
本業の方は規定で作品名を挙げられないので語れることは少ないのですが、『咲樂』に関しては2024年現在で2年程度の運用なので界隈ではぺーぺーです。主にPixivを中心に百合創作アカウントとして活動し、直近は同時連載の形で他のサービスも並行利用しています。また同人誌の制作や、アンソロジーへの寄稿を通して文学フリマなどの即売会にも参加しています。
最近はVTuberも始めました。名義は同じなので、興味がある人はぜひ検索してみてください。作家の仕事が忙しいので配信は不定期ですが。
ーー小説家を目指したきっかけは何ですか?
咲樂 もともと物語創作が好きで、小説はその一環という認識です。
とはいえ「文章」で表現することに道を定めたのは大学生ぐらいのころで、それまでは漫画を描いてみたり、ゲームを作ってみたり、映画を撮ってみたり、動画投稿サイトで紙芝居動画をあげてみたりと、いろいろな表現方法に挑戦していました。結果として、一番手についたのが今の界隈です。
大本のルーツを辿れば、幼いころに祖父がよく即興の昔話を寝物語に聞かせてくれていて、それが創作家を目指す最初のきっかけなのかなと今になっては思います。
私は‘’ゆとり世代‘’というやつで、小学校のころにあった「総合的学習の時間」という、自由研究を学校の授業時間でやるような授業がありました。そこで個人研究テーマとして、人生はじめての小説を書いたのが最も古いちゃんとした創作の記憶です。
ーー執筆活動で影響を受けた作家や作品はありますか?
咲樂 媒体・ジャンル問わずインプットを欠かさず、それぞれから少しずつ必要なものを拝借させていただいているので、広い意味ではあらゆる作家・作品と言えると思います。他のジャンルの作品で描かれている技法やテーマが自分の作品――特に人物描写で生きることが多いので、本当に好き嫌いなく何でもインプットすることを心がけています。
一方で、文章や台詞回しに関しては好き嫌いのこだわりが強く、美しいと感じた作家さんの文体は憧れと目標にしています。最たる例は皆川博子先生。本当に美しい文章を書かれる方です。文字がするっと身体に入って来るとは、彼女のような文章を言うのだろうと思います。短編も多く描かれている方なので興味のある方はぜひ。
元ラノベ作家の中では竹宮ゆゆこ先生を尊敬しております。今では一般文学で活躍されている先生ですが、その一般に移った後の文章が大好きです。パッションに溢れながらも流れるような言葉のセンスは、『とらドラ!』等を書かれていた頃よりもさらに精錬されて、より心に迫るようになってます。本当に尊敬しています。
ーーこれまでにどれくらいの作品を書かれましたか?特におすすめの作品とその理由を教えてください。
咲樂 仕事も含めるとかなりの数になるので、生涯作数に関しては分かりません。
咲樂名義の個人創作のみであれば、2年の活動で長編は新作の『ロックにギターは必要ない!』も含めて3本。中~短編が10本ほどです。
WEBですぐに読めるものであれば、咲樂名義の最初の作品である『365日のユリdiary』がなんだかんだでオススメでしょう。同級生の女の子に恋をしている女子高生の365日を、1話1日の進行でリアル365日連載を行った実験作でした。その後の作品群は、ここからキャラクターやテーマが派生していると言って良いくらい当時の全てを詰め込んだので、原点のような一作です。
本作は、もともとPixivで完結まで連載したあと、大幅な加筆修正を行ってAmazon kindleで電子書籍化しています。現在ネオページで並行連載中の『アスタラビスタベイビー』が完結した後に、当時のWEB連載版の方を転載していこうと思っています。ぜひお楽しみに。
ーー今回の作品で、読者に特に注目してほしい点は何ですか?
咲樂 咲樂の作品の恒久的なテーマのひとつに「人はひとりでは生きられない」というものがあります。『ロックにギターは必要ない!』もまた、ひとりでは立ち上がれない、前に進めない少女たちが、互いに支え――いや、ケツを蹴飛ばし合って未来へ向かって行く物語です。
しかし関わる相手が違えば、歩み方も、向かう方向も変わっていきます。本作は百合作品ではありますが、特定のカップリングを作らず、その時その時に出会ったキャラとの関係性で物語が展開していきます。
人はひとりでは生きられない。しかし、人生で関わる相手はたったひとりではない。だからこそ、いつ、誰と、どこへ歩むのか。
群像劇として、彼女たちの『選択』と『結果』を楽しんで頂けると嬉しいです。
ーー執筆に対する情熱が途切れたことはありましたか?また、どのように自分を励ますのですか?
咲樂 ありがたいことに、執筆が仕事にさせて頂けるようになったことで、実は創作へのモチベーション自体は常日頃からあまり高くありません。かといって低くもなく、言うなれば平板。生活の一部です。美味しいご飯とお酒のために文字を書いてる自動手記人形。
一方で、作中に出てくるキャラクターたちは、それぞれの人生を力強く生き抜くための情熱や、誰かに訴えかけたい叫びを持っています。その情熱を分けて貰い、物語という形で皆様に追体験して頂くのが私の作風です。
カッコいいこと言ってるようですが、事実なので誇張もしていません。なので励まし方は、情熱溢れるキャラクターを思いつくことでしょうか。彼女たちの情熱が、そのまま私の情熱です。
ーー執筆中で最も楽しい瞬間はいつですか?
咲樂 先の問いでも触れましたように、咲樂の作風はキャラの人生と、その中で出会った人々との関係性を描くものです。いや、描かせて頂いていると言っても良いでしょう。書きながら私自身が彼女たちの物語を垣間見る最初の読者になっています。
なので面白いシーンはキーボードを叩きながら爆笑してますし、感動するシーンはボロ泣きしています。そうしてできた作品は、ほぼ間違いなく良い作品に仕上がっているので、めちゃくちゃ面白かったな~という充実感で、その日のお酒が美味しくなります。
ーー長編作品を執筆する際に最も挑戦的だと感じることは何ですか?その際にどのような対策を取っていますか?
咲樂 長編短編関わらず、咲樂は映画の作劇術を用いることが多いので、プロットもエピソードの中身を詰めるより、読者感情の流れをグラフ化してチェックポイントを打ち込む形で定めます。チェックポイントからズレなければ、間のエピソードはその時のノリで書いても良いという塩梅です。
そのせいか、いわゆる「キャラが走り出す」ということがよく起こります。プロットを無視したり、プロットの流れに対して「いや、このキャラそんな事しないだろ」みたいなどん詰まりが起こったり、直面する困難は様々です。
そういう時は、キャラの人生として矛盾が無い展開を咲樂は選びます。「キャラの人生が物語であり、物語のためにキャラを動かすな」が私のモットーです。キャラが「違う」と言うのなら、私の考えたプロットなんてお節介おばさんの戯言みたいなもので、「違う」と言ったなりの道筋と新しい結末を一緒に考えるのが作者としての役目だと思っています。
ーー日常生活と執筆活動のバランスはどのように取っていますか?一日のうち、どれくらいの時間を執筆に割いていますか?
咲樂 バランスを考えた生活はしていません。書くべき時は書き、遊びたい時は遊ぶメリハリはつけていると思います。
仕事も含めて複数作を平行で執筆していることもあり、一日の過ごし方を細分化するよりも、それぞれの〆切までの長い期間の過ごし方が大切だと思っています。その中で自分なりにアメの日とムチの日を配分しているつもりです。
ただ、満足は創作の敵なので、今日は気合入れて書くと決めた日は、ご飯を決して満腹まで食べないようにしています。一方で、睡眠だけは絶対に毎日8時間前後確保します。眠らないと動けない人間なので……。このふたつが日常生活で気をつけていることでしょうか。
ーー周囲に執筆活動を支えてくれる、または応援してくれる人はいますか?
咲樂 独身なので支えてくれるとまで言われると難しいですが、学生の頃からの創作仲間や、同人や配信活動を始めたことで増えた仲間とは良い関係を築かせて頂いています。通話で近況報告したり、飲みながら創作の話をしたり。大昔の文学サークルの気持ちです。半分、愚痴合戦になることもありますが。
一方で両親ともに公務員だったこともあり、実家では執筆を仕事にすることに関してどちらかと言えば否定的でした。書くのは良いけど、本業は別に持って、余暇の趣味にすれば……という感じ。ですが自分の書いたものがお金になることを少しずつ示していって、最終的にそれ一本で食べていけるようになった結果、今では仕事として認めて応援してくれています。
どのような分野でも、たとえ家族であっても、手放しで応援してくれる人はきっといないでしょう。もし同じように家族が創作に否定的だという方が居たら、自分の創作をお金に変える具体的な方法を探して、実践して、結果として示すと良いかと思います。
ーー作品を読んで応援してくれるファンに向けてどのような言葉を贈りたいですか?
咲樂 キャラの人生を描く、を体現するために、咲樂はキャラクターたちの実在性を重んじています。もちろん創作上の架空の人物ですが、その世界の中で泣いて、笑って、怒って、生きている。それが現実世界でも、ファンタジーの異世界でも変わらず。そう感じ取って貰えるよう試行錯誤を凝らしています。
ぜひ、彼女たちの息遣いを感じてください。できれば、友人か家族のように彼女たちの苦難と成長を見守ってください。そうして完結の瞬間までお立合いいただけたら、作者としてこれ以上の喜びはありません。
WEB連載というリアルタイムに読者様と作品を通して繋がれる空間だからこそ、読者様自身も作品世界に飛び込んで生きているかのような読書体験を提供できるよう頑張って参ります。
ーー今後どのような作品を書いていきたいと考えていますか?
咲樂 新作をスタートしたばかりなので次の作品の具体的なビジョンは全くありませんが、『納得のできるバッドエンド』系の長編は一度も書いたことが無いので、キャリアとして一度は挑戦してみたいなという気持ちがあります。
それに併せてホラー作品も長編では書いたことがないので、『百合でホラーでバッドエンドな話(でも納得できる)』はいつか書いてみたいです。
ただ、基本的には前向きになれる作品が好きなので、結局は青春ものやヒューマンドラマを書いているかもしれません。
ーー小説家としてのキャリアで達成したい目標は何ですか?
咲樂 小説に限らずゲームシナリオの方でもよいのですが、自分の作品が映画化されることが今の咲樂の人生の目標です。
学生のころに映画無料鑑賞の社員特典に惹かれて映画館でアルバイトをしていたのですが、そこをやめる時に「自分の作品が映画化したら舞台挨拶に来ます!」と約束をしてしまったので、それを果たしたいという思いです。アニメ化やドラマ化も、お話があるならもちろん飛び上がるほど嬉しいですが、映画は別格ですね。それもあって、映画の作劇術を意識して執筆を行っているのもあります。ここだけの話です。
ーー「ネオページ」に対してどのような期待を抱いていますか?
咲樂 特に駆け出しの作家たちに対して、胸を張って「商業作家」の肩書を持って活動できるようサービスの宣伝・継続・充実を行っていって欲しいですね。さらに言えば、ネオページ出身の作家はクオリティが高いよね、という評判が付けば素晴らしいと思います。
もし執筆を仕事にしたいと考えた場合、最も必要なのは「自分の文章で報酬が発生した」という実績です。悲しいことですが文字書き界隈に於いて「Webで小説を書いてました」「同人誌を発行していました」は、ほとんどの業界において無経験の素人と同等の扱いです。火の無いところに煙は立たない。もちろん、イベントで長蛇の列ができる壁サーとかなら話は変わりますが。
ネオページは、小説投稿サービスでありながらも、契約作家という商業連載枠のシステムを設けています。もちろん契約のために一定の水準を作家自身が担保する必要はあるでしょうが、商業執筆のツテを持たない大勢の作家にとっては、『小説』で実績を積む大きなチャンスです。作家の皆さんは、積極的に挑戦して欲しいと思います。
一方で小説投稿サービスの運営に、明確に「編集」という肩書の方々が居るのもユニークポイントだと思います。契約までこぎつけた意欲ある作家たちに、ぜひ編集者の目線から一緒により良い作品を作り上げていく、マーケティングや宣伝の充実化を図る、またはそのノウハウをフィードバックして作家自身を育てていくことがシステム化できれば、他のサービスにはない唯一無二の強みを発揮することができるのではないかなと期待しています。
まだまだ始まったばかりのサービスを、運営、作家、そして読み手一体となって盛り上げていけると良いですね。私も頑張って面白い作品を書いていきますので、ぜひご拝読いただけると嬉しいです。
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*作品リンクに記載されている連載話数および文字数は、インタビュー発表時点のデータです。
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