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第60章「新武器〜フォトンクレイモア」

 翌日。

「よーし、早速試し切りに行こうぜ!!」

 「JOAR」のパーティプレイヤーハウスにてそんな意気揚々としたオルキヌスの声が響いた。

「そうだな。一人で使ってはみたのか?」

 オルキヌスの嬉々とした提案に、ジンが頷きながら尋ねる。

「おう。切るのがこれまで以上に強くなったし、それ以上に、射撃モードが出来たのが嬉しいぜ」

「マジか。ニンバスって敵が使ってたの見て、もしかしてとは思ってたけど、射撃モードあるのか」

 オルキヌスの報告にジンも色めき立つ。《フォトンクレイモア》に遠距離攻撃手段があるということは、その気になればオルキヌスも遠距離攻撃に加われるようになるという事で、戦術の幅が大きく広がる事を意味する。

「ニンバスといえば、あいつ、最後にオーバーロードとかいう技使ってたわよね、あれは使えないの?」

 話を聞いていたアリが会話に加わってくる。

「それなー、方法が分からないんだよな。あぁやって見せびらかしてきた辺り、出来そうではあるんだが……」

 そもそもこのゲーム、能動的に発動出来るのは魔術や魔法を除けば、アクティブスキルとWSだけである。

 WSは武器依存で武器を捻ることで発動できる。アクティブスキルはキャラクター依存で、決まったポーズやセリフによって発動する。

 その他、武器の操作によってモード変更出来るような武器も存在する、こう言ったものは隠しスキルと呼ばれる。

 フォトンセイバーの射撃モードなどは、『VRO』において世界一有名な隠しスキルだろう。取り付けられている引き金を引く、というだけなので、ほぼ隠れていないが、説明がないという意味で隠れているわけだ。

 《フォトンクレイモア》の射撃モードもやはり隠しスキルの一つで、柄の部分を引っ張ると、柄が伸びて引き金が露出するギミックとなっていた。

 同じように、あの《フォトンクレイモア・オーバーロード》なるスキルが隠しスキルとして実装されている可能性は低くない。

「あれが使えれば、広範囲を容赦なく薙ぎ払えて強いんだけどなぁ」

 ともかく、現時点のオルキヌスでは使えない、ということなので、それを戦略に組み込むのは無理そうだ。

「じゃ、一狩り行くか。なんか候補あるか?」

「どんな敵がいいとかあるの?」

「そうだな、折角射撃モードが使えるんだ、遠距離攻撃が求められる敵と戦いてぇな」

 恭子の問いかけに、重明が答える。

「なら、空飛ぶ敵はどう? 朱雀門の前に出てくる朱雀ってF.N.M.が、良い肉を落とすって噂が」

「四神を食べるの……? 罰当たりじゃないかしら」

 恭子の提案に有子が少し難色を示す。が、特に強い否定ではないので、他のメンバーの賛同を受けて、有子も結局頷くこととしたのだった。


 朱雀門。

 古代の時代、条坊都市の宮城において、南側に存在する正門の名称である。

 中でも、一般に朱雀門と言えば、復元された平城京の朱雀門のことを言うことが多い。

 『VRO』では、『ファンタジックアース』に侵食され、復元されたばかりの綺麗な朱雀門の姿を見ることが出来る。

 朱雀門より北、つまりかつて平城京があったエリアはプレイヤータウン「Hey Jo Kyo」、通称「HJK」の領域なのもあり、割と多くのプレイヤーが観光がてら遊びにくるスポットである。

 そんな朱雀門の南側、朱雀門ひろばはさぞかし賑わっているのだろう、と思いきや、初心者が気軽に遊びに行くにはやや強いモンスターがポップするのもあり、より良い狩場を探すより近場で狩る方が楽、と言う怠惰な中堅のプレイヤーがたまに狩りをするくらいのエリアである。

 そんなエリアに沸くF.N.M.に至っては、これまでレアアイテムをドロップしたという噂もなく、しかも空を飛び続ける厄介なモンスターというのもあり、プレイヤータウンのすぐそばという好立地でありながら、極めて人気がない。

Suzaku朱雀

 そんな朱雀と「JOAR」一行が向かい合う。

 他の参戦しようという人影はない。

 ただ、プレイヤータウンのすぐそばのため、「『JOAR』がF.N.M.と戦うらしい」という噂だけはすぐに広まり、瞬く間にギャラリーが増えた。

「おい、これ大丈夫か? 新武器の情報、すぐに広まってしまいそうだが」

「いいじゃねぇか。むしろ広めてもらおうぜ、俺達の新たな武器フォトンクレイモアをよ!」

 オルキヌスが《フォトンクレイモア》を実体化させる。

 チェーンソー状に赤いフォトンがワイヤーフレームの上を循環し始めると同時、ギャラリーの間でどよめきが起きた。

 《フォトンクレイモア》というユニークフォトン武器候補の情報はあまり情報を追わないオルキヌスが知っていた程度には広まっていたので、ギャラリーの中にも知っている人間が多かったらしい。

 それをついに手にした人間がいるのだ、とギャラリーの間で会話が一気に増える。

 中には、Webニュースの関係者だろうか、即座にログアウトしていったものまであらわれる。

 まさか敵の方が話題になっていて不愉快だった、というわけではなかろうが、朱雀が咆哮を放って飛び上がる。

「飛ばせねぇよ! 《カラミティトランプル》!」

 オルキヌスが大きく跳躍し、空中で縦に三回転して朱雀に斬撃を浴びせつつ、そのまま大上段に斬り下ろす。

 《フォトンクレイモア》の持つ二つのWSの片割れ、《カラミティトランプル》だ。

 それにやや遅れて、ジンも一気に地面を蹴って、敵に肉薄、強烈な雷を纏った突きを繰り出す。もはや説明不要だろう《ライトニングピアッシング》である。

 強烈な四連撃と一撃に朱雀は一瞬バランスを崩しつつ、しかし、大空に飛び上がる。

 空中に飛び上がった朱雀はそのまま自身の翼を激しく羽ばたかせ、周囲に羽根を撒き散らす。

「攻撃が来る!」

 朱雀が一吠えすると、羽根が派手に炎上を初め、さらに翼を羽ばたかせると、それに呼応し、炎上する羽根が地上に向けて鋭く放たれる。

「ルックス・ムーラス・クストーディオ」

 大楯を構えたリベレントに正面に立ち、炎上する羽根を防御する。

「ウォータル・サジッタ・スルクールズ!」

塵は塵にDust to Dust灰は灰にAsh to Ash!」

 その隙を逃さず、水の矢と青白い魔弾が同時に放たれる。

「俺も行くぜ!」

 オルキヌスが柄を手前に引っ張り出し、引き金を露出させると、それに合わせて刀身の赤いフォトン色が消滅し、代わりに柄から伸びた銃口が延伸される。

 再び、ギャラリーの間でざわざわした騒ぎが起きる。射撃モードを搭載した大剣などこれまでなかったものだから、それも無理からぬ事だろう。

 赤いフォトンビームが放たれ、朱雀の翼に命中する。

 朱雀が絶叫を上げつつも、再び翼を周囲にばらまく。

「ちっ、中心を狙ったんだけどな……」

 オルキヌスは射撃を想定したビルドをしていない。射撃はある程度、魔法や魔術と違い、命中判定を技量で補えることと、ビームは重力の影響を受けづらく素直に飛ぶこと、そして、一瞬よりは遅いが、感覚的にはかなり一瞬に近い速さで弾着する程に弾速が速いこと、そして対象が滞空しその場に留まっていること、により、なんとか命中させることは成功出来ていた。

 滞空していては狙い撃ちされると気付いた、というわけではないはずだが、朱雀が派手に周囲を周回し始める。

 《ウォーターミサイル》と《イグニッション》、そして赤いフォトンのビームが周回する朱雀に飛ぶ。

 ただし、ビームはほとんど命中していない。

「ちっ、偏差撃ちは苦手だ……」

 移動する対象に命中させるには移動を先読みして狙いをつける必要がある。ビームはほぼ一瞬に近い速さで弾着するが、あくまで「一瞬に近い」だけであり、一瞬ではない。この『VRO』において一瞬で弾着するのは光速で飛ぶレーザーだけだ。このため、オルキヌスは先読みしての射撃、所謂「偏差撃ち」をする必要が求められるが、これを技量のみで補おうと思うと、それなりの慣れが求められる。

「これからはDEXデックスも上げるか……?」

 命中判定に使う能力値の上昇を検討しつつ、オルキヌスは射撃を続ける。

「オルキヌス! 俺がやつの動きを止めるから、その隙にでかいのを叩き込んでくれ!」

 全然命中していないが、この中で最も継続して高火力を投射し続けられるのはオルキヌスだ。

「トニートル・サジッタ・スルクールズ!」

 ジンが《サンダーミサイル》を放ち、朱雀を麻痺させて、一瞬動きを封じる。

「喰らえ!」

 オルキヌスが柄を捻る。

 WS《レッドエクスプロージョン》が発動し、赤いフォトンビームが飛ぶ。

 それは朱雀に命中し、直後、膨大な赤い爆発が朱雀を覆い隠した。

 射撃モードになると別のWSが使えるようになるのか、とギャラリーの騒ぎがまた大きくなる。

 朱雀が落下してくる。

「一気に行くぞ!」

「応よ」

 ジンが一気に駆け出す。手に持つは《マジカルレイピア》。

 オルキヌスもまた、柄を押し込んで、《フォトンクレイモア》を切断モードに切り替えつつ、前進する。

「ウォータル・アダレレ・グラディウス」

 落下してきた朱雀に向けて《レインピアッシング》と《カラミティトランプル》が突き刺さる。

 それで朱雀のHPゲージが半分を超え、朱雀が大きく鳴いて、炎を纏う。

【ファイアーバード】

「うえ、近づけねぇ」

 オルキヌスが炎に巻かれる前に距離を取って再び武器を射撃モードに切り替える。

 再び、空中に舞い戻った朱雀が周囲に炎上する羽根を撒き散らす。

 先程まで直線的に飛んでいたそれは、まるで朱雀に操られるかのようにバラバラに「JOAR」へと迫る。

 リベレントが大楯を構えるが、羽根はそれを迂回して三人に迫る。

「こいつ、F.N.M.の割に小賢しいな!」

 だが、動きを止めているなら、オルキヌスの敵ではない。

 オルキヌスは再び《レッドエクスプロージョン》を放つ。

 すると、羽根の操作が出来なくなったのか、羽根が動きを止めて落下した。

 ジンがよくやった、と言いながら、《ウォーターミサイル》で攻撃を始める。

 オルキヌスは射撃を続ける。

 ところが、朱雀は方針を転換、炎を纏ったまま、「JOAR」一行に向けて突進攻撃を敢行してきた。

【ファイアバードストライク】

 リベレントは《マジックウォール》を展開、ジンがリベレントに《ウォーターウォール》を展開し、二重の防壁に守られながら炎を纏った朱雀を受け止める。

「くっ、すごい突進力……」

 リベレントの脚が後方に滑る。

 ジンは素早く長い詠唱を開始する。朱雀が止まらない以上、このまま倒し切るしかないからだ。

 素早く射撃を開始したオルキヌス。相手はこちらに最接近しており、狙わなくても当たるような状態なので、彼の火力が最も惜しみなく活用出来る場面であった。

 大剣用の大規模フォトンジェネレータが唸りを上げ、強力なフォトンビームを次々に朱雀へと送り込んでいく。

 そして、ジンの大規模魔法が発動し、朱雀に命中する。

 朱雀は流石に堪らず、空中に逃れる。

「逃がすかよ!」

 オルキヌスがWS《ネペンテスザッパー》を発動し、縦に薙ぎ払うようにフォトンビームを乱射する。

 直上に飛翔していた朱雀はこの一撃を回避出来ず、堪らず落下。身を纏う炎も消失する。

 だが、ただでは転ばず、炎上する羽根を飛ばしながらの落下である。

 オルキヌスは武器を切断モード二変更しながら、一気に接近しWS《ディザスターターン》で横に三回転しながら前進を始める。

 飛んでくる羽根を《フォトンクレイモア》の斬撃で寄せ付けず、一気に朱雀に二連撃を叩き込む。

 その影からジンも一気に朱雀に接近、《レインピアッシング》で朱雀にダメージを叩き込んでいく。

「終わりだぁっ!!!!」

 オルキヌスの縦一文字の振り下ろしを食らって、ついに朱雀は動きを止め、そのまま赤いデータ片へと散っていった。

 特にレアドロップはなかったが、目当ての肉は手に入った。

 「JOAR」一行はギャラリーの拍手を受けながら、自分達の家へと帰還するのであった。

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