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第8話

ネチネチ「あぁ~暇だぁ~。何もすることないなぁ~~!」

一方そんな騒乱の中、ネチネチはと言うとどこか暇そうにして、ただぼやく。そして、ホテルの目の前にあるところにて壁にもたれかかっていた。何も起きていない暇な状況に嫌気がさしながら。

アンナ「動かないで」

何も起きていないんじゃなかった、何も起こす事が出来ないのだ。アンナ、狩人である彼女が、頭に弓矢を突き付けているのだった。

ネチネチ「いいよいいよ、動かないからそれを俺の頭に突き付けるのを辞めてくれよ。緊張して落ち着いて偵察もできねえじゃねえか・・・」

そんな若干の弱みを吐くが、何も変わらず矢先を頭に突き付けられているだけだった。

その突き付けているアンナは、何も言わない、何も語らない。その長い耳は飾りかと、ネチネチは少し不満げそうに考えた。

ネチネチ「人生楽しい?そのまま黙っているだけで。何か言いたげな顔してらっしゃるけど」

そんな風に煽ってみるものの、その長い耳でその言葉を掬うことは無く、ただその突き付けたまま、じっとしている。ネチネチはと言うと跪いて手を後ろに回し、まるで今にも警察に逮捕される直前の犯人のように。

ネチネチ「いつまでこうしてればいいんだ?死ぬまでか?それともあんたらの求めているマエハラって奴を攫うまでか?冗談じゃねえ、あんな卑怯な奴のどこが良いんだか」

そんな精神を揺さぶるように、話しかけるも、何も言わない。どうにかしてこの状況を脱し、すぐに魔王様のいる後ろの建物の中に入って合流しつつ、この女からどうにかして逃げる。そんな理想の筋道が出来れば良いんだが・・・

バリィィィィン!!!

しかしそう考えていた瞬間、窓ガラスを突き破った塊が目の前に、そしてアンナの後ろに見えた。それに気を取られたアンナは振り向いて、そっちの方に先ほど突き付けていた弓矢を放とうとしていた。

ネチネチ「…と見せかけて、せいやぁ!」

その瞬間を狙ったネチネチは、レディーには暴力厳禁という事すら気にかけずな程容赦なくその金髪のアンナの服を掴んで後ろに投げた。そのドサッという音で地面に投げつけると、一度彼女は背中で受けたが、また転がって立ち上がり、張り詰めた弓の震える弦から一本の矢を放つ。だがしかし、ネチネチは驚異的な反射神経でその枝を掴んで膝でポキリと折った。

またもう一つ、もう一本の矢が放たれるもののそれを避けて弓射ちのアンナとの距離を縮めていく。

アルティノ「ネチネチ!戻って!」

しかしそんな声が後ろの方から聞こえてくるものの、それは耳に届くことも無く距離を詰めていく。どうやら先ほどの反射神経の影響もあってか、聞く耳すら持たないようだ。そうして距離を詰めていき、右のハイキックを食らわそうとしたが、その目の前にいる女は頭を屈むように避けて、その足めがけてタックルを食らわして寝技に持っていった。そんな状況で彼らは膠着している。しかし、若干アンナの方が上に居て、どこからか取り出したナイフをその首に押さえつけている。

アンナ「死ぬわよ?いい?」

まるでそれに押さえつけられているネチネチの姿は、狂犬に圧し掛かられている獲物に等しかった。身動きの出来ないネチネチはどうにかして退けようとするが、そのエルフの長い耳と乱した金髪の髪を持ったアンナは静まった態度で動かない。

僕はどうした物か、どうすれば良いのか。考え込んでいた。ネチネチを見捨てるのか助けるのか

アルティノ「あぁ・・・もうっ!戻ってって言ったのに!」

横にいる彼女は、どこか後悔したようにその状況を見ている。

ここで、僕こと前原悟はとあることを思いついた。今ここで掲示板を出してダウンロードしたら怪しまれるし、対策されている・・・かもしれないけど。

でも何か自分の切り札としてあるのは、“翻訳”、“氷の吹雪”、“身体強化”、“ワイルドホーンの呪い”

・・・それだっ!!

僕は両手を彼女達の目の前に掲げる。アルファ掲示板なんかじゃない、一つの範囲魔法が。

前原「氷の息吹っ!!」

その魔法と言う名の引数を僕は呼び出した。その瞬間足の下から何か白い物が、一帯が白景色になる。あれ?手を出した意味無くね?完全に(x,y,z)の開始座標が全部0になっているじゃん。嫌だわ~アンリアルすぎるわ~。もういいや、ちゃんと開始座標も宣言しておこう。

その足の下から出てきた雪は、彼女たちの足の方まで範囲が広がると、その足から、そしてナイフすらも凍らせていく。しかし、ネチネチは一向に凍ることは無く、するりと抜けてアルティノの方へと走って行った。一体なぜなのか、はたまた敵味方の識別があるのか分からなかったが、とにかく凍ってしまい、動けなくなる事は無かった。

アルティノ「逃げるわよ!場所は魔王城で合流!カカリはガヴリを回収して撤収よ!」

そんな声が響くとともに、僕たちは蜘蛛の子を散らすように逃げた。周りには大勢の見物や野次が居たので、その中へと入るものもいれば、看板の竿に手をかけて、大きくブンと自分の身体を振った反動で屋上へと飛び乗ってから逃げる者もいた。

ヴィト「ちょこまかと逃げて鬱陶しいなぁ・・・でもまあいいか。これで僕たちの目的は一つになった。マエハラさんたった一人だけさ♡」

そんな捨て台詞を吐きながらも、自分の足にある氷を彼女の持っている剣で突いては砕き、一方でこちらも足を凍らされたアンナは、矢尻を使ってその氷を砕こうとしていた。しかし、その氷は剣や矢尻で砕ける程、それは加護を受けている彼女達でも到底柔らかい物ではなかった。

アンナ「目的?」

ヴィト「知っているでしょ?僕たちがどうしてここに来たのか。まさか教団からの脱獄犯を捕まえるとは言わないよね?」

そんな目の前にいるボーイッシュなヴィトは少しウインクをした後に、淡々と冷静にその目的がどこへ行ったのかを伝える。その目的は人込みの中を縫って逃げていき、もう一人はと言うと・・・いやもう一人の居場所がどこか分からなかった。

そして彼女たちは自分の足につけられた枷を完全に壊すと、また集団の中に走っていく。

しかし、その集団によってもみくちゃにされた中に彼女達が見逃した目的だった者が居た。

アルティノ「ふぅ・・・なかなかやるわね。マエハラがどっかの酒場で引っ掛けてきたか分からない二人は。近くで見ていたけど・・・何か変なオーラ纏っているわね。明らかに目に見えるし、しかもあの氷の息吹を、あの氷の息吹が足までにしか凍らないのがそもそも変なのよ・・・多分、加護がついているわね。まあ・・・私には効かないでしょうけど」

そんないつになく冷静な魔王アルティノはその紛争地域にとどまっていたのだ。それは何か?

アルティノ「けれど、あの娘たちの目の前で“透明化の魔法”はどうやら通じるみたいね。てっきりすべての魔法が無効化するかと思ったけど。以外に使えるわね」

そう、あの時彼女は一つ自分の能力を代償にして透明化の魔法を自分の能力としてダウンロードし、今そこで使っていたのだ。そして周りの野次や見物にきた人たちの中に紛れてその場から離れようとしていた。

アルティノ「(このままバレなければ早く、まあマエハラに連絡すれば良いわね?そこからネチネチとかカカリとかを集めればいいんだし)」

そんなことを考えながら、そのまま足を他の群衆と同じように歩を進める。どうやら完全に彼女は追いかけてきた二人を撒いたようで、そして彼女達よりもこの私魔王アルティノの方が一枚上手であると認識したようだ。


~~~~~


その野次の群衆すらも通らない路地裏で、二人のゴブリンが

「ガヴリ、ガヴリ。生きていますか?」

彼の掛ける声の先には、胸の辺りに凄く細いレンズ型の傷口が入っている。しかし、目の前にいる彼の弟は、息が浅くなっており顔からは汗が出てきていた。もう手遅れなのか、そう考えていたらとなりにはアルティノが立っていた。

アルティノ「容態は?」

そんな彼女は部下を放っておけず、つい声をかけてしまう。魔王とはいってもその部下を見捨てる勇気はないのだ。



~~~~~

そんな見捨てられない状況が続く中、ただ一人、この物語・・・というかパルプフィクションの主人公である前原悟は、ただ一目散に魔王城へ、いや魔王城とは真逆の方向へと向かっていた。そう、あの教団の総本部から逃げてきたあの一本道を逆戻りして。

「あ!あいつだ!いたぞ!」

そんな道すがら、遠くからあの大声がして、見るとランタンを高く掲げた白いローブを着た集団が僕を指さしながら何か言っている。

前原「やべ!逆だこれ!」

僕はすぐさま方向を半回転させて、またフィリップという町の中に入っていく。所々息切れした体で、足で。けれどもそのおかげかすぐにバテてしまった。しかし、そんなバテた僕にも唯一の逃走手段が一つ目の前に出てくる。それは、4本足の動物で、最近レース用のソレが擬人化した物だった。馬だ、その馬が近くの打ち込まれた杭に手綱を結ばれていたのだ。

前原「まあ、誰も使ってないしいいよな?だってここゲームだから日本の法律なんて通じないしいいよな?とにかく、すみません!」

僕はどうにかして手綱をほどこうとしたが絡まって簡単に取れない。なので、左に差してある刃先がむき出しの剣をその手綱に当てて、ノコギリのように切り始めた。後ろを見るとあの集団が近づいてきており、切る速さを早くしたらちょうどよく切れた。なので僕はその切れた手綱の両端を持って鞍に飛び乗る。けれどもただ飛び乗っただけでは動かず、ただそれは彼らにとっての格好の的となってしまった。

前原「ほう!ほう!動けオグリキャップ!」

その馬は葦毛ではなく栗毛の馬だったが、競馬なんてそんな物知らなかったので何色が栗毛で何色が黒鹿毛なのか、彼は何も知らない。そんな格好の的は後からやって来たホワイトローブズこと神の庭園の信者はその馬に乗っている僕をすでにそこまで追いかけており、もう捕まってもいいんじゃないかとでも思った。しかし、ランタンを持った彼らは、僕を捕獲するんじゃなくてそのもう片方の魔法の杖で、いきなり魔法を撃ってきた。

彼らは容赦がない、やっぱりあの教団は変わらないんだ。そんな状況に絶望していると、その魔法の弾が空を切っていくうち一つがウマの尻に当たった。

ヒッヒヒヒィーン!!!


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