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◆第30話

 王都に立ち入った俺たちは、まずは服飾屋へ向かうことにした。有名人であるラズリの変装品を買うためだ。別に目立たない格好をするのだからなんでもいい……とも思ったが、ラズリは高級店で、黒色のローブを買った。

 そうして、ラズリが着替えたあと、店を出た俺たち。


「まずは──王城に行って国王に話を聞こう」


 開口一番に、ラズリが言った。ピンとこない俺は、首を傾げて、「なぜに国王?」と返した。


「アリスやラマレーンについて、そこら辺の兵士に話を聞いてもいいけど、いかんせん、ラズリは人気者だから。変装してるとはいえ」


「自分で言ってて恥ずかしくないのか、それ」


「うるさい。君も一応勇者なんだから、自覚して歩きなよ? ラズリは傍若無人だから、普通に接してるけど、一般人が勇者なんて聞いたら、もう祀られるラピよ」


「なるほど。ってか傍若無人を威張るなよ」


「いやシンプルにラズリの裸見た時点で、勇者だろうがキライってのもある」


「その節は」


 確かに、リコのせいで麻痺していたが、確かにほうき星村でも大層な扱いを受けていたし、勇者とはそういうものか。


「わたしが魔王だとバレたら、王都は恐れおののくだろうな」


 えっへんと胸を張るリコ。俺とラズリは顔を見合わせる。


「きっと誰も信じないラピ」


 そういうラズリに、俺も同意して首を縦に振った。それにぷくっと頬を膨らませたリコを無視して、ラズリは話を前に進める。


「……とにかく、目立つ行動は避けたい。だけど、情報は欲しい。だから、いいネタになるから、国王に会うってこと」


「だからの使い方間違ってるぞ」


「一概にも冗談ラピよ。落ち着いて話ができる場所、そして、誰よりも情報を握ってる人がいっぱいいそうな王城に行くべき」


「そんな簡単に入れるのか? コネでもあるのか?」


「王族とかその周辺にコネなんてある訳ないじゃん。でもそこは余裕ラピ。ネームバリューで」


「お前、よくそこまで自分に自信持てるな」


「は? ラズリのナイスバディみた君が生意気言うなラピ」


「その節は」


 ラズリには申し訳ないが、あの目の保養は忘れることはないだろう、と俺は思った。

 と、いう訳で……。

 ネームバリューで国王にも会えるというラズリの言葉を信じて、俺たちは王城へ向かうのだった。


 道など分からずとも、とりあえず近づけばたどり着いてしまいそうな程に、王城は大きくそびえ立ち目立っていた。なので、適当に周辺を見渡しながら歩いていたのだが──人間の住む中流域であって、下流域ほど、異世界という感じはしなかった。むしろ外国と表現した方がしっくりくるような……。やはり、世界は違えど、人間が創り上げる文化は似るものなのかもしれない。

 武器屋、鍛冶屋、という聞きなれない店も多くあったが……まあ、想像の範疇にはおさまっている。

 あとは、ゴシック建築、だったよな? やっぱり建築様式も違うが、それでも枠を大きく飛び出してはいない。

 つまり、俺は……。


(この世界でも余裕で恋人とうまく暮らせそうだな)


 そういうことだろう。これまで異世界人と一応会話は成立しているし、ハーレムを形成できるかどうかは、つまるところ俺次第、ということだ。

 そんなことを考えていると……。


「……えいっ」


 鼻腔に激痛が走る! すぐに、リコが俺の鼻に二本の指をぶっ刺したのだと分かった。


「な、なにするんだ!」


「鼻の下伸びてたから」


「仮に、こんなとこで鼻血出して、大事な時に出す血がなくなったらどうする!」


「ウケる」


「やっぱ魔族サイドだなお前!」


 エーテルの鍵が壊れ、リコに対する殺意が無くても……やっぱり俺はリコとだけは恋人になれる予感がしなかった。


「……大事なときに出す鼻血ってなに?」


 ラズリは首を傾げていた。

 と、そんなやり取りをしていると……気づけば、王城の前にたどり着いていた。なんともドラマで見覚えもあるように、甲冑姿が二人、王城の門の左右に立っている。


「豪奢さは、魔王城の勝ちだな」


「お前が追い出されたっていうな」


「それ言うの禁止する。わたしはそれでとんでもないメンヘラになった」


「逆に見てみたいけどな、リコのそんな姿」


 失礼だが、リコが精神的にそこまで落ち込むなんて想像もできないし。案外可愛げがあるかもしれないしな。


「バカやってないで行くラピよ」


 ラズリが一歩踏み出す。門の前に立つ兵士に話をしにいくようだ。


「すいません、ストリーマーをしてるラズリなんラピだけど、国王様とぜひともお会いしたいラピ!」


 猫撫で声と、ラズリはウインクを向けた。

 それに兵士は、「あ、あの!?」──とはならず……長槍を向けた。


「あれ!? あ、これがあるからわかんないラピね──こ、これでどうラピ?」


 ローブの顔を纏っていたところを下すラズリ。


「なにやつ! これ以上不審な動きをしたら、捕らえるぞ!」


 しかし、さらに槍を突きつけられた!


「ラズリ案外無名ラピ!?」


 度肝を抜かれた、という態度をするラズリ。

 なるほど。たとえば俺基準でいくと、一介のストリーマーがいきなり皇居に訪れ、会おうとしているようなものか。そりゃ、当然の結果か。

 そこで、大きくため息をはいて、近づくリコ。


「わたしは魔族を統べる魔王だ。ニンゲンの王に会わせてもらおうか」


「魔王──冗談であろうが、その言葉は不敬に価する!」


 リコは火に油を注いだ! 今度はリコが長槍を突きつけられる。

 なるほど。ここは、俺しかいない、ということか。俺も近づいていく。


「ツレの者が失礼。俺は勇者として召喚された者だ。是非とも、国王に謁見願いたい」


 精一杯、勇者らしく? 恰好をつけて? 俺は声と表情を作って言う。兵士は押し黙る。


「勇者──た、確かに、勇者の魔力が王都に近づいていると──そ、それなら、勇者であると証明してみるがいい!」


「証明!?」


 今度は槍の矛先は俺に! 思ってたのと違う!

 リコが、俺の方を見る。


「ふふっ、ウケる」


 彼女はウケていた。

 しかし、証明とはどうすれば──壊れているが、エーテルの鍵を見せればいいのか……。

 そう、あたふたとしていると……。


「──一体、なんの騒ぎだい?」


 門の奥から、人が近づいてきた。

 シルバーの鎧を纏っているが、顔は出している。高身長で、清潔感のある短い金髪。イケメンの男だった。


「クリストファー様!」


 兵士が槍を下し、こうべを垂れる。そのクリストファーと呼ばれたイケメンが、俺たちの顔を見渡す……。


「……君達は?」


「……俺は、勇者として召喚された者だ。こっちは仲間のラズリ、こっちは──ラズリの妹だ」


「誰がこんなヤツの妹だ、わたしは魔──もご!」


 予想はできていたが、口裏を合わせることもできないリコの口を両手でふさぐ。


「なにほすふ! わらひはまほうらほ!」


 リコが暴れる!


「わらひをかいほーしろ! ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ!」


「や、やめ……っ」


 めちゃめちゃ俺の手を舐めてきた。死ぬほど汚いしくすぐったいが、マジで死にそうな状況なので我慢する。


「へぇ、勇者と申しますか──」


 イケメンは、顎に手を当て、考える仕草を見せる。

 そして……。


「まあよく分からないから、とりあえず捕らえておいて」


 兵士にそう命じた。


「分からない!? あぁいや、魔力を感じない……? 的な問題か!? それなら、事情があるんだ! 実は、エーテルの鍵が壊れてしまって──」


「いや、本当に分からないんだよ。ボク、いっても三等兵士だし、そういう魔力を感じるとか、そういうの全然分からないんだ」


「めっちゃ強キャラ感あったのに!」


 それにこういうとき間に誰か入ったら、助かるフラグじゃないか!? やっぱり俺は、スケベな展開じゃないとそういうラッキーイベントは起きないのか……?

 兵士が槍を構えながら、俺たちに近づいてくる。

 氷結したように冷たい血が、全身を駆け巡る。


「──ん?」


 そんな中、眉を顰めたラズリが声を漏らした。


「あれ、クリストファーって──あ!」


「……えぇ!? ラ、ラズリって、まさか……!?」


 まるで感動の再会を果たしたように、にじり寄るラズリとイケメン。


「皇太子ルイスの専属メイドと不倫してるっていう!?」「暴露系ストリーマーの!?」


 二人は同時に指を差し合う。なるほど。言葉から、感動の再会というより、因縁の相手、のようだった。そういえば、この間見たラズリの配信でそんなこと言ってたような。俺はスキャンダルとか興味など無いが。


「クリストファーさん、貴方の奥様から証拠を提供されているという話、ウソじゃないラピよ~? それに、奥様も知らないであろう情報も──」


「国王様への謁見でしたよね。それならボクが、取り合ってみます。いえ、必ずや、取り付けてみせます」


 卑しい表情をするラズリの言葉を遮って言う不倫イケメンクリストファーさん。そうして、兵士に手を下におろすジェスチャーで槍を下げさせる。そしてもはや逃げるように、城の奥へと消えていった……。


「……勇者より暴露系かよ」


 素直に俺は悔しくてそう嘆いた。


「くっくっく、権力者を跪まかさせる方法、それが暴露ラピからね」


「ラズリも中々いい性格してるよな」


「は? ラズリの裸体をまじまじと見つめた君の分際で」


「その節は」


「ずっと思ってたけどせめて”その節は”のあと謝罪の言葉を述べろラピ」


 俺も節操を持ったハーレムを築こうと思った。でないとラズリに誤解を招いた暴露をされてしまうかもしれない……。


「わたしも魔王だったけど、いきなり蹴落とされた。ニンゲンも、絶対権力、という訳ではないのか」


「うん、リコとは絶対違うと思うぞ。今のはただのラズリの脅迫だ」


「……? そうなのか?」


「あぁ。リコはまあ、知らなくていいことだ。というか、ほうき星村の人と触れただけじゃ分からないだろうな」


「ふーん、まあいいけど。別にニンゲンの文化など知りたくもない。……そんなことよりお前、何故わたしの口を塞いだ。まさかわたしの唾液が付着した自分の手を舐めるためか……!?」


「お前が勝手に舐めてきたんだろ!! お前が余計なこと言おうとしたからだ!」


「お前がウソをつこうとしたからな! 言っておくが、わたしだってお前の目論見には気づいていた。だけど、ウソはよくないって、ほうき星村の一件で分かったから……!」


「とんでもなく正論だな! だが、それで殺されてしまっては元も子もないだろ! 俺も嘘はよくないと思うが、なんかそういう、いい塩梅があるんだよ人間には!」


「それはどうでもいい! 何故、このわたしの口を封じた! わたしの唾液を堪能するためか!」


「結局それかよ!」


 やいのやいのと、俺たちは言葉をぶつけ合う。


「……君達、仲がいいのか悪いのか謎ラピ」


 そんな俺たちに、呆れた様子のラズリ。


「あのさ、最終的にこの場が収まったのはラズリのおかげだから」


 そして、勝ち誇った顔をした。


「ふんっ、あこぎな商売する性悪が何を言う」


「誰が性悪ラピ!?」


 今度はリコとラズリが衝突する。

 クリストファーさんが戻ってくるまで、そんなやり取りは繰り返されるのだった……。

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