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第60話 シュミット一家と8

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こんなはずじゃなかったのに。飛行機に乗って日本に来て、テーマパークで一日中楽しく遊ぶはずだったのに。何で私は一人でいるんだろう。

歩き疲れて、仕方がないからフードコートに戻ってきたら、誰もいなくなっていた。きっと、みんな私に怒って帰ってしまったんだ。

(どうしよう。もうママとパパに会えないのかな。お腹空いたし……)

ご飯、食べておけばよかった。いや、もっといい子にしていればよかった。後悔ばかりで、悲しくなってきた。

空いている席に座って、ため息を吐く。カバンの中。ママにもらったポーチを開くと、知らないおじさんの描かれた日本の紙幣が一枚出てきた。後は銅貨と、銀貨が数枚。

『お金、どれがいくらなのかわからない……』

呟いても答えてくれる人はいない。不意に、ママの顔が浮かんだ。

『カズヤはすごいんだから! 確かに体は小さくて細いけど、すごく性格が良くて優しいの。ミアも、会えばきっとわかるわ!』

口を開けばカズヤカズヤ。みんな、カズヤの事が好きになっちゃう。私は悪い事をしていないのに怒られて。何だかつまらないな。

そんな事を考えていたら、いつの間にか隣に来ていた人に大きな声で話しかけられた。

『こんにちは!』

驚いて声の方を向くと、私に目線を合わせるように屈んだ女の人がいた。服装から多分パークの人だ。

『もしかして、迷子になっているミアちゃんですか?』

ママが、私を探しているんだ。うれしくなって『そうです』と答えようとした時。

『お兄さんのカズヤさんが探してましたよ』

パークの女の人はそう言った。またカズヤ。このお姉さんもカズヤの味方なんだ。

いやな気持ちがぶわっと胸の中に現れて思わず『ちがいます!』と席を立って走り出した。

みんな、カズヤが好きなんだ。この中に私の味方はいないんだ。ママもパパも、ハルキもみんなみんな、きらい!



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(ミアちゃん、一体どこへ行ったんだ……)

俺(陽輝)はパークをぐるりと一周し、お土産コーナーを見ていた。

正直言って、最初は面倒な事になったと思った。しかし異国で子供がはぐれてしまっているのに何もしない程、俺は非情ではない。

「あ、陽輝!」

ちょうど捜索箇所がかぶったのだろう和也達が、こちらに来る。

「いた? 何か進展あった?」

「いや、いない。あれから二十分は経ったし、早く見つけないと」

「そうだね……どこか、ミアちゃんが行きそうな所とかないかな」

和也は、後ろで青い顔をしているクルトさんにも聞いているようだが、さてどうか。

「……ダメ。おじさんもおばさんも思いつくところはないみたい」

「そうか。まあ、思いつく場所があればとっくに探してるよな」

何か、彼女が行きそうな所はないか。そう考えてみるものの、家族でも分からないものが、今日出会ったばかりの俺に分かるわけがないと思った。しかし。

(あれ、そういえば……今日彼女が行きたがっていた場所、楽しみにしていたものがあるじゃないか)

「和也! ミアちゃん、キャラクターショーが見たいって言ってなかったか?」

俺の言葉に、和也もはっとしたようで「それだ!」と目を開く。

「俺さっき見たんだけど、もう少しで始まりそうだった。行ってみよう」

「俺も行くよ」

「いや、これだけじゃ絞れないし、和也は別の場所を探していてくれ」

「分かった」

会話を終えると、俺は速足で進み始める。向かう場所はもちろんショーが行われている大広間だ。

(頼むからいてくれよ。ミアちゃん……)




パークの女の人から逃げた私は、今自分がどこにいるのかよく分からなくなってしまっていた。何だか広い所にイスがたくさんあったので、歩き疲れたし座ることにした。

(かわいいイス。ママが見たら、よろこぶだろうな……)

ママは、かわいいものが好き。私がパークに行きたいと言ったときも、ママも行きたいと一緒になって楽しみだと言ってくれた。パパもそんな私達を見て、楽しみだなって言ってくれた。

(どうしよう。みんないなくなっちゃった。私が勝手なことをしたから)

涙が出そうで、うつむいていると、急に周りが暗くなった。驚いていると音楽と共に、なんと目の前の舞台に、キャンティが現れた。

『え?』

キャンティが何て言っているのかは分からないけれど、身振り手振りをしながらダンスを始めた。すごい今までのさみしい感情やかなしい感情が、どんどん引いていく。やっぱりキャンティはすごい!

キャンティのダンスが終わると、他のキャラクターも次々と舞台に現れる。

『みゃんめろ! キャラメルティ! すごい、みんないる……ママ! 見て!』

このすごい景色を伝えたくて隣を向く。しかしママはいない。そうだ。私は一人ぼっちになってしまったんだった。胸がきゅっとなる。ママに会いたい。

すると、会場の音楽に交じって、私を呼ぶ声がした気がした。気のせいかな。でも、誰かが私の隣に座って、手をとった。

『ミアちゃん。つかまえた』

大きくて、温かい手。周りが暗くてよく顔が見えない。

『パパ?』

『違う。陽輝だよ』

ハルキが来てくれた。私を探し出してくれた。この人は私の王子様だ。

『ハルキ、私を探してくれていたの?』

そう聞くと、彼は少し困った顔をしたように見えた。

『皆、君を探してるよ』

みんな、私を探してくれてたんだ。私は一人ぼっちじゃなかったんだ。

『戻ろう。皆が待ってるよ』

『うん。あ、でもキャンティが……』

ショーがまだ終わっていない。でも、ママにも会いたい。頭の中でキャンティとママを天秤にかけて困っていると『じゃあ』と陽輝が話始める。

『ショーを見てから帰ろうか』

舞台の上では、大好きなキャラクターが歌ってダンスしている。その後ハルキと一緒にショーを見て楽しんだ。ハルキも一緒に楽しんでくれてるといいな。

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