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第61話 シュミット一家と9

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「陽輝、お疲れ様」

ミアちゃんを母親のハンナさんに引き渡した俺(陽輝)は、結構疲労していた。大きな声でキャラクターの名前を叫ぶ彼女を気にしながら、あまり興味のないショーを見ることが辛かったのだ。

「うん……和也もお疲れ様」

「ありがとう。見つかって良かったね。陽輝ナイス!」

和也が喜んでくれた事が、唯一の収穫だった。

「それにしても、何であの時ショーを最後まで見ようって言ったんだ?」

「うん。ああいう時は、無理に帰ろうって言わない方がいいかと思ってさ。嫌がって逃げちゃったら大変だし」

実はあの時、俺は彼女を引っ張って会場を出ようかと思っていた。その時、和也が隣に来て「最後まで見てからにしよう」と耳打ちしてきたのだ。その時は理由が分からなかったが、そういう考えだったのか。

「さすが和也」

「陽輝もかっこよかったよ。何か本当の親子みたいだった」

そう言って、視線を俺の後ろに移した和也がぎょっとしたような顔をした。何事かと振り向くと、ミアちゃんを叱っている母親の隣にいた、父親のリオンさんが、じっとこちらを睨んでいるのだ。

「き、聞こえてないよね? 変なこと言った気はないんだけど……」

和也が小声でそう言うのと同時に、リオンさんがこちらに向かって歩いてきた。険しい表情に今度は俺がぎょっとする番だった。

目の前まで来た彼は、俺より少し背が高いくらいで、体格で負けている気はしなかった。何で今それを気にしたかと言うと、和也を守らなければととっさに思ったからだ。彼は、俺達をまっすぐに見てきた。そして、少しの沈黙をはさみ、険しい表情のままにこう言った。

『二人とも、娘を探し出してくれて、ありがとうございました』

彼がどうしてこんなに厳しい顔をしているのかは分からないが、とりあえず礼を言う気持ちはあるようだった。

『は、はい! ミアちゃん見つかってよかったですね!』

状況を見極めるために言葉を考えている俺を見て、和也がそう言った。リオンさんは、口元を歪め、何か言い淀む様子を見せた。そして、彼が何か発しようとしたとき。

『ほら、ミア。カズヤとハルキに言うことがあるんでしょう?』

ハンナさんがミアちゃんの背中を押してこちらに来た。それを見て、リオンさんは口を閉じてしまった。

『ハルキ。ショーを一緒に見てくれて、ありがとう』

『うん。それから? もう一つ』

しょんぼりしているミアちゃんは、母親に補助されながら『ごめんなさい』と口にした。

『勝手に動いて、迷子になってごめんなさい』

『そう。ほら、二人にもう一回ごめんなさいってしなさい』

『ハルキ、迷子になってごめんなさい。探してくれて、ありがとう』

『カズヤにも、ほら!』

ミアちゃんは不貞腐れ黙ってしまった。和也には謝りたくないようだった。子供とはいえ何てことだ。

『ミーア!』

『ごめんなさい……カズヤ』

観念したのか、小さな声で謝罪の言葉を口にしたミアちゃん。それを聞いて『うん。いいよ』と和也は笑った。膝を折り、ミアちゃんに目線を合わせる。

『ミアちゃん。チャンリオパークは楽しかった?』

和也の問いに、ミアちゃんは少し考える様子を見せた後、僅かに頷いた。

『楽しかった』

『そっか。良かった。明日からは、俺達一緒に行けないから、もう迷子にならないように気を付けようね』

さすが和也、優しいな。と感心していたのだが、ミアちゃんはぷいっと顔を背けてしまった。

『あらら。嫌われちゃったなあ』

『もう、ミアったら。カズヤもあなたを一生懸命探してくれたんだから。ハイ、仲直り! ハッピータイム!』

その言葉と共に、ミアちゃんが和也にハグをした。

『おお、ありがとうミアちゃん……ハッピータイムって何?』

『あのね、仲直りのおまじない。誰かが言ったら、ケンカしててもハグしなきゃいけないの』

ドイツにはそういう風習があるのだろうか。いや、でも和也も知らないみたいだし、ローカルルールか?

俺の疑問に答えるように、ハンナさんがハッピータイムの説明をしてくれた。

『最初は、私とリオン二人で決めたルールなんだけど、いつの間にか子供達とかその友達とかみんなで使うようになって。どうにも落としどころがないケンカってあるじゃない』

『なるほど。便利だね』

『そう。便利なの』

つまり、強制的に終戦する方法らしい。まあ、俺と和也には必要ない言葉だな。ケンカしないし。

「陽輝。今度俺たちも使おうよ。ハッピータイム」

「んん? 俺達はケンカしないだろ?」

「陽輝……俺、陽輝が脱いだ靴下を変なとこに置いておくのとか、許してないからね?」

「え?」

「まあ、この話はあとで、はいハッピータイム!」

その後、頭の中がハテナで埋まったままに、和也とハグした。

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