それから、いくつか乳児院や養護施設に連絡をしてみた。休みの日に二人で実際に行ってみたりもした。しかし、実際に行動に起こせば起こす程に、同性カップルである事がネックになってしまった。具体的にはその施設で『前例がない』という理由で断られてしまう事が多かったのだ。
「何か、うまくいかないね……無理なのかな」
「いや、諦めるのはまだ早い。もう少し考えてみよう」
そして、二人共くたくたで自宅に帰ってきたある日。この日は、午後から梓さんと舞さんが会いに来る日だった。数時間休んでから、彼女らを迎えた。
「最近、どうですか? 何か変わったこととかありましたか?」
和也がそう聞くと、舞さんが「はい!」と元気よく答えた。
「マルボロ大佐の仲間たちもいっぱい増えて、良い感じです」
「梓さんは、どうですか?」と和也は彼女にも話を振る。
「そうですね……私はまた自分の店を持てるようにがんばってます」
「え! また企業するんですか?」
「いや、知り合いの店の系列店です。方向性とか共感できて、好きなんです」
彼女は彼女で何とかやっているらしい。安定しているならば、結構だ。
「てか……お二人共なんか、やつれてませんか?」
ふと、舞さんが和也と俺の顔を交互に見て形の整った眉をしかめた。
「もしかして、お店忙しいんですか?」
「ああ……」「ちょっと、ね」
和也と俺がほぼ同時にため息交じりに呟いた。最近は養子関係の事がまったく進展せずに、二人とも疲れていた。そんなに顔に出ていたか。
「実は、まだ決まった訳じゃないんだけど、二人で話し合ってることがあってね」
そう前置きして和也が、養子を取ることを考えている事、それがなかなか難しくて難航している事を話した。
「じゃあ、新しい家族が増えるかもなんですね!」
舞さんは素直に喜びをあらわにしていた。
「舞ったら、まだ決まってないって」
「あはは……ちなみに、二人は子供とか考えたことありますか?」
和也がそう聞くと、二人は「うーん」と顔を見合わせた。
「私は、考えたことなかったです! 梓ちゃんといれれば、って感じで……」
「私も。正直、自分の仕事の事で手いっぱいで、ちゃんと考えたことなかったかもです。でも、子供か……」
梓さんが少し興味を示したようで「何か、いいかも」と呟いた。
その日は、その辺りで話題が変わった為に終わったのだが、数日後に和也のスマホに連絡が来たのだ。
『梓です。舞と話し合って、私達も養子の件を調べて見たら、なんだか気になる記事を発見したので、添付します』
「だってさ。陽輝もこれ見てみて」
和也がスマホの画面を見せてくる。そこに書かれていたのは。
「レズビアンカップルの妊活……シリンジ法?」
シリンジ法は、シリンジという細い管の付いた、針のない注射器を使った妊活方法らしい。
「友人男性の精子をシリンジで中に注射して、それで妊娠した子供を二人の子供として育ててるんだってさ。何か、そんな方法もあるんだねえ」
「うん。まあ、でも俺達には出来ない方法だな」
そう、話していると、スマホに続きのメッセージが送られてきた。
『お二人とも、今電話かけても大丈夫ですか?』
「え。何だろう……『オッケーです!』と」
和也がメッセージを送ると、程なくスマホが軽快な音楽を奏で、梓さんの名前が表示される。
「もしもし、梓さん。どうしました?」
『あ、和也さん! 急にすみません』
電話口の彼女の声は、珍しく浮足立っているように聞こえた。
『私達、すごい事考えたかも知れないです』
「どうしたんですか?」
『さっきの記事、見ましたか? あれを四人でするんですよ!』
「え?」
『えっと、つまり……私達二人が子供を産むんです』
「え? 待ってごめんよくわからないかも」
混乱している和也からスマホを借りて、俺が会話を変わる。
「陽輝です。えっと推理すると……シリンジを使って、俺たち二人のものを梓さん達に渡す、という事ですか?」
言葉を選んだつもりだが、間違っていたらセクハラになるのではとヒヤヒヤしたが、この仮説は合っていたようで『それです!』と元気な返事が返ってきた。
『ちょっと作戦を詳しく話したいので、今から舞とお店に行ってもいいですか?』
「は、はい……」
通話はほぼ一方的に切れてしまった。梓さんには珍しく興奮している様子だった。察するによっぽどよい方法を思いついたと思っているらしい。
「梓さん達が今から来るってさ」
「俺、何かよくわからなかったんだけど、もう一回説明してくれる?」
「えっと、仮に俺の精子を、梓さんの身体にシリンジで入れるだろ? そうするとうまくいくと梓さんは妊娠する。その子供を、俺達の子として育てる、って感じかな」
「え! それって梓さんに何のメリットがあるの? 出産てめちゃくちゃ大変なんじゃ……悪いよお」
「そうだよな……」
しかも『四人で』と彼女は言っていた。どうも、舞さんや和也も頭数に入っているらしい。
「まあ、今から二人で来るみたいだし、丁重に断ろう……」