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三十四 修良との約束

報告が終わったすぐ、幸一は謁見の間の内室に追いかけた。

報告を聞いている間に、高揚の気持ちは少し収まって、新しく気づいたところもあったが、やはり不服感が強い。

「師匠、先輩の件への対処はいつもの師匠らしくないです。先輩を犯人として公表したら、玄天派の名誉にも傷つくでしょ!?俺は妖界に呼ばれて事情を聞かれました。妖界もまだ結論を出していないのに、なぜ玄天派は先輩を追い詰めるのですか?まず妖界と話すべきでしょ?」

九天玄女がすぐ返事を出さなかったら、一緒に内室まで来た向月冷は幸一に聞き返した。

「では、まず妖界の態度を詳しく教えてくれ」

「その前に、師匠に聞きたいことがある!」

直の師の九天玄女に、幸一は真正面から問い詰めた。

「教えてください!もしかしたら、あの伝言は何か裏言葉でもあったのですか?先輩は、師匠だけに何か伝えたのですか!」

「……」

九天玄女の目に一点の光が灯った。

幸一は単純でまっすぐ。

世間の事情や人間関係に鈍いのに、いつも頂門の一針で要領を掴む。

短気なのに、一度誰かを認めたら最後までその信頼を貫く。

雑念が少ないのおかげか、簡単に物事の本質を見抜ける。

気付かれた以上、適切な説明をしないと、幸一は修良のために反発しつづけるだろう。

「裏伝言がないわ。そう決断したのは、私と修良の間で約束があるから」

「師匠と、修良先輩?どんな約束ですか!?」

「修良が門下に入る時、私は彼に約束をした。彼の二つの決定に、私は干渉しないこと。一つ目は、彼が彼自身にくだした決定。だから、今回は彼の要求通りにした」

「先輩が先輩自身にくだした決定……先輩自身の意思であれば、彼がどうなっても、師匠は干渉しないってこと?」

あんまりにも妙な約束で幸一は困惑した。

「じゃあ、二つ目は?」

「今回の件とは関係ないものよ」

九天玄女は二つ目の約束の内容を伏せた。

「その約束があるから、私は修良の決定に干渉できない。幸一は納得できないのなら、幸一からどうにかするしかないわ」

「!」

師の話に含まれた意味を幸一は見逃さなかった。

「つまり、俺は先輩を連れて、決定を変えるように先輩を説得すれば、師匠の決断も変わることですか!?」

「妖界の事情もあって、そのような保証ができないが、その時はまたその時の証拠と情勢などを考えて、改めて処理法を検討する」

「分かった!必ず先輩を連れて帰ります!ありがとうございます、師匠!」

九天玄女の態度が分かって、幸一の気持ちが一転し、闘志満々で外へ駆け出した。


「幸一は単純で話しやすいですね」

幸一の後姿を見て、向月冷は微笑ましい気分になった。

「その二つ目の決定は、幸一と関係あるでしょ?」

「そう。二つ目は、彼が幸一にくだした決定、私やこの玄天派の人は干渉できないこと」

九天玄女は隠しもなく答えた。

「幸一にとって幸か不幸か……」

修良のことに関して、仙導師たちもよく把握していない。

向月冷にとっても、修良は謎だらけの存在だ。

その謎を解く鍵は、おそらく、九天玄女だけが握ている。

この機会に、向月冷も長年の疑問を口にした。

「宗主、私が仙道に入った時に、修良はすでに弟子でした。彼は一体いつ門下に入って、どうしてずっと昇格しなかったのですか?」

「……」

「極一部の仙導師の中で伝わる噂によると、修良は『失踪』と言われた仙道の始祖――『清明神君』と瓜二つ。修良は、清明神君と何か関係がありますか?」

「……」

「もしかしたら、修良は仙道を作ったあの清明神君ですか?」

向月冷の一連の疑問に、九天玄女は沈黙を返した。


「幸一、遅い!」

幸一は主城を出たら、出口で彼を待っている数人の先輩を見た。

「先輩たち、どうして!?」

「小馬鹿の幸一は宗主の命令の意味が分からないかと心配で、わざわざ待ってたのよ!」

景媛は笑って指で幸一の頬を突いた。

「宗主は修良を手配しても、玄天派から追い出さなかったでしょ?それ、どういう意味かまだ分からないの?」

「!!」

景媛に注意されて、幸一は初めてその命令の裏意味に気づいた。

高乗は隣から続きを説明した。

「まだ事情が分からないが、修良がやったことはかなり厄介だ。彼を追放したら、妖界に自由にしてくれと言ったのと同じだ。修良を玄天派の裏切り者や犯人にすれば、玄天派は彼への処置権を握れる。私たちの今のやるべきことは、妖界より先に修良を確保することだ」

「分かった!ありがとう、先輩たち!」

師匠や皆の苦心が分かって、幸一の気持ちはやっと晴れた。

「まず修良先輩を探そう!景媛先輩、修良先輩の居場所を占ってくれますか?」

この人たちの中で、占いに一番得意なのは景媛だ。

人探しやもの探しに関して、外れたことはほとんどない。

でも、景媛は困りそうに頭を横に振って、袖から一つの瑠璃色の玉を取り出した。

玉の大きさは景媛の拳二つくらい、透かし彫りの表面に、五色の小さい玉が嵌められている。それは景媛が占いに使う法具だ。

「実は、さっきからやってみたけど……修良は気配を隠したみたい。あたしの霊力は彼より弱いから、こんな状態で彼のことを占えないわ」

「だとしたら、千里眼を持つ仙導師たちに聞くしかないかな……」

青渚は意見を言ったら、高乗に不思議そうに聞き返された。

「青渚、お前は千里眼を修行しているんじゃない?」

「お、俺の千里眼はまだまだだ!大きな建物しか見えないし、視野も狭い、どのくらいかかるのか分からないぞ!」

青渚はさっそく引いた。

以前修良と一緒に仕事をしたことがあるから、ここの誰よりも修良の「厄介さ」を知っている。万が一、彼の千里眼で修良の居場所がバレたら、また面倒そうなことになるだろう。

「修良は開かれた扉のあたりに行くと言ったから、まず手分けてそこら辺を探そう!それと、誰か仙導師たちに千里眼を頼んでくれ」

それ以上自分に話を振られないように、青渚は提案した。

「でも、修良は階級的に緑帯の中級弟子で、規定によると、直の師と上級弟子までしか出動できない。仙導師たちは動くかどうか……」

弟子たちの中で、誰か懸念を言った。

「修良の直の師は誰?」

「知らないな、聞いたことはない……」

「宗主じゃないか?」

皆の視線は幸一に向けられた。

「……俺も、知らない……」

六年も一緒にいたのに、修良の基本的なことも知らない。

幸一はもう一度悔しいと思って、頸に掛けている探知器を握った。

(でも、それでも、必ず先輩を連れ戻す!)

すると、何かを思い出したように、自分の手の甲を見つめた。

「青渚先輩、心が連動する術を掛けられた場合、連動する相手を追跡できるよね!」

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