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五十二 邪魔者はさっそく排除

「紫苑さんの誤解は、私が解けてあげる。怨霊を消滅するのこともね。幸一は土地売買のことに専念しよう」

幸一にそう伝えたら、修良は一人で紫苑の部屋に入った。

その到来を待っているように、紫苑はすでに寝台から起き上がって、床に立っている。

修良は余計な話をしなく、まっすぐに紫苑の正体を暴いた。

「紫苑さんは――魔、ですね」

「……さすがです。修良さんを見た瞬間に、もう気づきました。おのれの正体はもう隠しきれないこと……」

紫苑は頭をさげて、弱い声で修良の判断を肯定した。

「この世界の魔はほとんど自己意識もない弱い精神体だ。体まで持つとは珍しいね」

修良は冷たい目で紫苑を観察した。

「おのれもよく分かりません。気付いたら、すでにこの姿でいました」

「お前ほどの魔が怨霊に捕らわれるとは思えない、幸一に何か用でもあるか?」

問い詰められたら、紫苑は泣きそうな口調で訴えた。

「信じてくださらないかもしれませんが、おのれは、弱い人間の怨念と執念が集まって生み出されたものです。とても弱いです……特別な力がなくて、居場所もなくて、仲間もいないです。人間界でいることすらも怖くて、幽冥界の狭間でさまよい続けていました。幸一様に助けられたのは本当の本当、偶然でした」


生れた理由が分からない、居場所がない、仲間もいない……

一瞬で、修良は紫苑を自分と重ねた。


「ご心配なく、すぐ幸一様の傍から離れます」

そう言って、紫苑は部屋を逃げ出そうと扉に走った。

「待って」

「!!」

しかし、修良の一声で、動けなくなった。

「とりあえず、お前の言うことを本当だと認めよう」

「あ、ありがとうございます!」

「それと、頼みたいことがある」

「頼みたいこと?おのれに!」

紫苑はびっくりした。

「成し遂げたら、お前のこれからの安全を保証しよう」

「ほ、本当に!?しかし、おのれがなんの力もあくて、お役に立てるかどうか……」

「心配いらない。この件に関して、『魔』は一番適任だ――『神』を、探してくれ」

「!?!」


紫苑は修良の頼みを受け取って、幸一たちに別れを告げた。

もちろん、頼みのことは幸一が知らない。

幸一は紫苑の安全を心配して、紹介状を書いた。その紹介状を持って玄天派の拠点に行けば、保護してもらえる。

幸一の心配の目線と、修良の期待に見える目線の中で、紫苑は前途多難を嘆きながら旅に出た。

「大丈夫かな、途中で倒れないといいけど……」

「そんなに心配だったら、付いて行けば?」

お荷物を追い払ったので、修良の気持ちも大分晴れた。冗談交じりで幸一に勧めた。

「できれば送ってあげたかったが、紫苑さんは構わないでほしいと言ったから……」

「なるほど、じゃあ、私が構うなと言ったら、幸一は私を放っといてくれるかな」

「なんでまたそんな話をするの?」

幸一は目を瞬いた。

「また?」

今回は修良が分からなかった。

「百妖長のことで妖界と衝突した時、先輩はもうやっただろ?『構うな』みたいない態度」

「……そうか、もうやったのか。ごめん、忘れた」

言われてみれば、確かにそうだと、修良は気を緩めて、軽く笑った。

そう。幸一にとって自分は紫苑と違う。自分が去ろうとしても、幸一は追いかけてくるだろう。

「先輩、また一人で何か企んでいるじゃないよな」

幸一は疑わしい目で修良を見た。

「実は、そうだった」

幸一に気づかれたので、修良はいっそ認めた。

「前も言っただろ。これから閻羅王を倒しに行くと思ってね、幸一がついて来ないでほしい」

「倒しに行く!?悪行を暴いて、辞任させるじゃなかったの?」

幸一が想像したのはもっと平和なやり方だった。

「正当な過程を踏むと長くなる。倒すのは一番早い方法だ。幸一もそうやって、悪質な買い手たちを成敗してきたのだろ?」

「だめだろそんなの!妖界との問題を解決したばかりなのに、幽冥界と衝突しないでください!先輩の体も治したばかりだし、閻羅王のような大物と喧嘩して、また怪我したらどうする!?」

自分の心配で切れた幸一を見て、修良は話を変えた。

「冗談だ。本当は、悪行を暴いて、正当な手段で辞任させるつもりだ」

「どのみち俺は付いて行く!俺の中で、先輩の信用はかなり下がっているから!」

「それは悲しいな……」

修良はわざと苦い表情を作った。

「誤魔化さないで!本当のことを教えてくれ、一体どうするつもりだ!?」


これから幽冥界に行くのは本当だ。

閻羅王を倒すのもの本当だ。

だが、修良の本当の目的はそこじゃない。

第一の目的は、もちろん幸一の父のことを解決するためだ。

それに、幸一が話した、自分と同じ顔を持つ「判官」の「冥清朗めいせいろう」のことも気になる。

「冥清朗」の件は幸一と全く関係ない。幸一を巻き込むわけには行かない。

閻羅王が悪役になってくれるのが好都合だ。

正義感の強い幸一だから、きっと閻羅王の成敗に出る。

十八年前に、幸一の生死簿を確認するために幽冥界に行った時、今の閻羅王に会ったことがある。

幽冥界の王といっても、人間の皇帝に似ていて、大した武力がない。

彼を人質に取って、幽冥界のものたちと交渉をするのも簡単だ。

幸一の注意力が取られる隙に、自分は幸一の父のことを処理して、冥清朗のことを調べる。


――と修良はそう企んでいる。

だが、その計画を実行する前に、思わぬ変化が訪れた。

幸一が母親に出した伝言鳥が驚愕な伝言を持ち帰った。

幸雲こううん姉様は、妖怪に攫われた!?」


*********

幸雲は幸一の一番年上の姉。

継母の韓婉如かんえんじょとの仲が普通に良かったが、幸一との相性がとても悪かった。

三回の縁談の相手も幸一に惚れたせいで、三回の縁談も破綻した。

六年前に、幸一が家出をしたが、幸雲はすっかり落ち込んでいて、何年も新しい縁談を拒絶していた。

父がいなくなった後、継母の韓婉如に遠い親戚のところに預けられた。

境遇は優れていないのは想像できるが、妖怪に攫われたなんて、到底信じたくない。

でも、前にも韓婉如と幸世が妖怪に攫われたことがあったので、幸一は強烈な不安を感じた。土地売買のことを二郎に頼んで、修良と一緒に至急に韓婉如のいる柳蓮県に向かった。


「幸雲姉様は本当に妖怪に攫われたのか!?」

玄誠鶯の家について、幸一はすぐ韓婉如に問い詰めた。

「よ、よく分からないわ。幸雲を預けた叔父様からの手紙でそう書いてあるの」

「どこ?いつ?」

「りょう、梁谷嶺りょうこくりょう、大体、一か月前……」

「一か月前!?」

「一か月前か……」

修良は脳内で時間を計算した。

一か月前は、ちょうど魔の浸食で乱心した妖界兵士たちが旧世界の魂を探すところだった。

あの時、旧世界の扉が開かれないように、自分は各地に回って状況を確認した。

幸い、妖界軍の鎮圧が迅速で、そのようなことがなかった。

幸雲を攫ったのは乱心した妖界兵士だろう。

まだ戻っていないということは、すでに殺された可能性が高い。

幸一にとって辛いことだが、修良はそれを好都合だと思った。

もともと幸一を幽冥界に連れたくないから、この件を利用して、幸一を人間界に留めよう。

「幸一、お姉さんのことは緊急だ。早く梁谷嶺に行こう」

「ああ!」


二人が庭に出て、幸一は蒼炎そうえん鳥を放った。

「先輩?」

幸一は鳥の翼に乗って、修良に手を伸ばしたが、修良は動かなかった。

「ごめんな幸一、幽冥界のこともかなり急ぎだと思う。手分けしよう。私は幽冥界に行く」

「!!」

「心配しないで、閻羅王といきなり喧嘩するつもりはない、まずは平和的に話をする」

「その『いきなり』や『まず』を外してくれないか……?」

幸一はやはり良くない予感がした。

「じゃあ、幸一が来る前に、平和的に話すことを保証する」

幸一はまだちょっと疑っているが、修良が保証したし、断ったら修良が本当に失望するかもしれない。

仕方がなく、幸一は譲った。

「……約束できる?」

「ああ、もちろん、約束する」

修良は笑顔で小指を立てた。

幸一はその誘いに乗って、修良と指切った。

指がまだ離れていないうちに、修良はいきなり小指を引っ張って、幸一を自分の前に引きずらした。

「それと、もう一つ――」

修良は空いてる手を幸一の頬を受け取り、幸一の額に軽い口づけをした。

「これ以上の親密行為をする『私』がいれば、すべて偽物だ。その場で、ぶちのめせばいい」

「……??……!!」

修良のやったことに気付いたら、幸一は頬が燃えるような熱さを感じた。

「え、ええええ!せ、先輩!!??」

「さあ、早く行こう!」

修良は笑顔で一陣の風を起こして、蒼炎鳥の離陸に助力した。


幸一を見送ったら、修良はもう一度韓婉如に会いに行った。

さっきとほぼ同じ笑顔なのに、韓婉如は真冬の寒さを感じた。

「お母様、幸一に変なことを言うつもりはないですね」

「!!い、いいえ!なにも話していない、これからも、話すつもりはないわ!」

韓婉如は猛速度で頭を横に振り続ける。

「それでよろしい」

軽蔑そうに鼻で笑って、修良は満足したように去ろうとした。

修良が後一歩で部屋を出るところ、韓婉如は一生の勇気を絞って、震える声で質問をした。

「あ、あなたは一体誰なの!?あの子を……どうするつもり!?」

「……」

しばらく間を置いて、修良は嘆くように後半の質問だけに返事した。

「どうするつもりもない。彼の存在を守りたいだけだ」

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