(あそこには、リユニオンのライブ用衣装が……)
心臓の音が跳ね上がるのを感じ、俺は静かに息をのんだ。
「その……。なんか、王子みたいな派手な服が……あるのを見たんだ」
(……。終わった……)
その場で足元から崩れるように、俺は絨毯の上で膝と手をついてしまった。
「勝手に開けるつもりはなかったんだ……。玲央と真央がかくれんぼしたいって言って……。そしたら兄貴のクローゼットに隠れてて……」
(ど、どうしよう……。一体なんて言い訳すれば……)
俺の頭の中はパニックで、顔を上げらず絨毯を見つめてしまう。
(友達の……? 文化祭……? いや、どれも無理が……!)
必死に頭の中で言い訳を考えていると、那央が俺の近くでしゃがみこんだのを感じた。
「なあ、兄貴……。あれってもしかして……。この前うちに来てた、あの金髪ヤローの趣味なのか?」
「は?」
思ってもみなかったことを言われ、俺は思わず顔を上げる。
顔を上げると、那央がしゃがみこんで心配そうな顔をしながら、俺のことを必死に見つめていると思ったら、俺の両肩を掴んできた。
「玲央と真央が、これはきっと瑛斗王子のだって、ずっとはしゃいでて……。瑛斗って、あの月宮って言ってた金髪ヤローのことなんだろ?」
「いや……。たしかに玲央と真央が言ってる瑛斗王子っていうのは、この前うちに来た先輩の事だけど……」
「なんかアブねーことでも、アイツにされてるのか? まさか脅されて……。その、急に伸ばし始めた変な前髪も実は……」
「まっ、待て待て待て!」
(あ、あれ……? 那央って、こんな突拍子もないことをポンポンと思いつく子だったっけ?)
どんどんあらぬ方向に話が進んでいくため、俺も那央の肩に手を伸ばして、これ以上暴走しないよう必死に制止させた。
「落ち着こう! なっ? あ、そうそう! うまそうな焼き菓子を貰ったんだ。那央、甘いもん好きだろ? ほら、そこに座れって」
俺は立ち上がって那央の背中を軽く促すように叩きながら、ダイニングテーブルを指差した。
「……」
黙ったまま頷き、肩を落とした様子でダイニングテーブルの席についた那央を見て、俺は思わず深い溜め息をそっと吐き出した。
(さて、どうしたものか……)
重い足取りで、俺はボストンバックからルカさんにもらった高級そうな焼き菓子を取り出し、那央が座って待つダイニングテーブルに向かった。
「ほら、コレ。うまそうだろ? えっと……。なんだっけ……? あ、そうそう。フランスの焼き菓子で、ガレットって言うらしいぞ。兄弟がいるって話したら、玲央と真央の分までくれてさ」
那央の向かい側に俺も座って、手に持っていた焼き菓子を那央の前に置くが、那央は焼き菓子には手を出さず、じっと机に向かって俯いたままだった。
「那央……」
なんと話を切り出したらいいかわからず、俺はそのまま言葉を詰まらせてしまうが、息を大きく吸い込んで那央を見つめた。
正直、アイドルを始めたことを話せなかったのは、恥ずかしかったからだ。
ライトに照らされながら歌って踊って、ずっと笑顔でいる俺なんて、俺じゃないと思っていたから。
(昨日までの俺なら、誤魔化していたかもしれない。けど、今は……)
俺は膝の上に置いていた手に、こぶしを作って握りしめた。