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第113話 三王子選に立候補?

「えっ……」


 俺は和兄に突拍子もないことを言われ、思わず握っていた箸を手から滑り落としそうになってしまった。


「あっ、あぶなかったー。ちょっと待ってよ。和兄、冗談でしょ? なんで俺が三王子?」


「なんでって。理央ならぴったりだろ?」


「じょ、冗談! 三王子は人気投票だよ? 俺が通るわけないじゃん」


「そんなことないだろ? みんな理央の魅力に気付いてないだけなんだし。前髪切って、可愛く笑いながら手を振れば、理央なら一発だって」


「やだ。ぜーったい、やだ!」


 俺は断固拒否の姿勢を見せるため、首を何度も横に振ってみせた。


「なんでだよ? 三王子で集まるって名目なら、こんな風に隠れて飯食う必要もなくなるぞ?」


「そ、それはそうかもしれないけど……。でも、無理なものは無理! 俺は目立ちたくないの! 奨学金貰っている以上、三年間平和に過ごさないといけないんだから。瑛斗先輩からも和兄になんか言ってくださいよ」


「えー……。理央が三王子になったら、三王子の仕事も少しは楽しくなるのに。ねー? 月宮先輩。先輩からも理央を説得してくださいよ」


「あっ、いや……私は……」


 俺と和兄から板挟みにされる瑛斗先輩。


 俺がアイドルをやっていることは和兄に黙っていたため、俺の本当の事情を知っている瑛斗先輩は、何を話していいか分からない様子で、目線を泳がせていた。


「前髪切って、ニコって笑って、オレと月宮先輩の推薦があれば絶対当選!」


「しつこいよ、和兄! 俺はぜーったいにやりません。だいたい、三王子の仕事してる時間も余裕もないし。第一、俺なんかが二人の推薦もらったら、それこそ二人のファンに殺されちゃうよ。それでもいいの?」


「大丈夫だって! 今回みたいに俺と瑛斗先輩が手伝うし、守るからさー」


 和兄はまだ諦めきれていない様子だった。


 あまりのしつこさに、さすがの俺も苛立ちを隠せなくなってきたため、手に持っていた箸を弁当箱の上にわざと音を立てて置いた。


「和兄……。そろそろいいかげんにしないと、那央に言いつけるよ……」


「ちょ、ちょっと待った! 悪かった! もう言わないって!」


 那央の名前を出した瞬間、和兄は血相を変えて俺に謝るように何度も頷いて見せた。


(那央と和兄って、仲がいいのか悪いのか、どっちなんだろう? いつも言い争ってるわりには晩御飯の片づけが終わると、二人で那央の部屋に行っちゃうし……)


 和兄と那央の間に昔何かがあったのか、それとも再会してからなのか。


 俺には二人の関係性は皆目見当もつかなかった。


 だが、和兄は那央に弱みを握られているかのように、逆らえないのは確かだった。


「それじゃあ、諦めたっということで……」


 俺は箸を握り直し、改めて弁当を食べ進めようとするが、その手はすぐ止めることになった。


「エイトー! ここにいるのー?」


(えっ……?)


 透き通るように高く、でも儚げな声が急にして、俺は声の主を探すように辺りを見渡そうとするが、それより先に瑛斗先輩が立ち上がった。


「ノア……?」


 独り言のように何かを呟いた瑛斗先輩は、そのまま慌てた様子で屋上の入口に向かって行った。


(瑛斗先輩……?)


「あっ、いた! エイトだ!」


「ノア! どうしてここに?」


 駆け寄った瑛斗先輩は塔屋の上から手を伸ばし、ノアと瑛斗先輩に呼ばれる声の主を引き上げると、俺は思わずその容姿に息をのんだ。

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