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第114話 俺が嫉妬してるみたいじゃないか……

(か、可愛い……。まるで、天使みたいだ……。うちの制服を着てるってことは、うちの生徒……だよね? でも、こんな可愛い子、一度見たら忘れるわけ……)


 フワフワとカールした、オレンジに近い明るいブラウンカラーの髪に、小顔で丸みを帯びた輪郭。


 ぱっちりとした二重の大きな目に、にっこりと笑っていても分かるほど、どこをとっても整ったパーツ。


 アイドルとして活動しているのだから、周りは容姿に自信のあるメンバーばかりで、俺は普通の人より整った顔を見慣れているはずだった。


 だが、それでも瑛斗先輩の隣に立つ彼は、瑛斗先輩に引けを取らないほど、段違いに目を惹く整った容姿をしていた。


「エイト! 会いたかったよ!」


 瑛斗先輩がノアと呼ぶ彼は、子どものように全力で満面の笑みを浮かべると、飛び跳ねて瑛斗先輩の首に抱きついた。


「ああ、私もだ」


(えっ……?)


 いつもの瑛斗先輩なら、こんなとき、少し困った顔をして俺に助けを求めるような目で訴えかけてくるのに、瑛斗先輩は優しく彼の頭を撫で始めた。


 首に抱きつきながら、必死につま先で背伸びをして瑛斗先輩を見上げる彼と、目を細めて愛おしそうに見つめ返す瑛斗先輩。


 美形が二人という、本当であれば見惚れそうになる光景のはずなのに、俺の胸はなぜか奥の方でキュッと締め付けられ、ざわめいたのを感じた。


(いやだ……)


 咄嗟にそう思った俺は、嬉しそうに見つめ合う二人から思わず顔を逸らしてしまった。


(何してるんだよ、俺……。双子だって、あんな風に瑛斗先輩へ抱きつくじゃないか。それと一緒だろ。こんなの……。これじゃあまるで、俺が嫉妬してるみたいじゃないか……)


「……」


 声をかけられず戸惑っている俺の様子に気が付いてなのか、隣にいた和兄が少しだけ息を吐き出したのを感じた。


「おーい。二人の世界なら、他でやってくださーい」


「ひゃっ!」


 和兄の少し大きな声に驚いたのか、ノアと呼ばれる彼はビクッと肩を跳ね上げさせて小さな悲鳴を上げると、瑛斗先輩の後ろに隠れてしまった。


「波多野……。大きな声でノアを驚かせないであげてくれ。ノアは極度の人見知りなんだ」


 瑛斗先輩に注意された和兄は、少しめんどくさそうに首の後ろを掻いた。


「あー……すみませんね。この声の大きさは地声なもんで。そんなことより、彼は一体誰なんですか? うちの制服着てるけど、見たことないですよね?」


「あっ、ああ。彼は相澤ノア。私がイギリスのボーディングスクールにいたとき、ルームメイトだったんだ。私もこっちに来るとは聞いてなかったから驚いて……。ノア、どうしてここにいるんだ? しかも、うちの制服って……」


「あ、あのね。エイトを追いかけてきたんだよ」


 瑛斗先輩の後ろに隠れていた彼は、瑛斗先輩へ甘えるように後ろから抱きつくと、瑛斗先輩の顔を脇から覗きこむように見上げた。


 小柄でなんとも愛くるしい無邪気なその仕草は、見た目だけでなく、本当に天使のようだった。

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