「追いかけてって……。とりあえず、ノア。彼らは私の友人だ。怖くないから、挨拶をきちんとしなさい」
瑛斗先輩から諭されるように言われると、ノアと呼ばれる彼は大きく頷いて、瑛斗先輩の後ろからやっと出てきた。
だが、そのまま俺と和兄に向かって真っ直ぐ歩いてくると思いきや、たった数メートルの距離を、瑛斗先輩の存在を確かめるように何度も振り向いていた。
(これは何待ちなんだ……)
膝に乗せていた食べかけのお弁当を床に置いて、俺と和兄は立ち上がると、横に並んで彼が目の前に到着するのをじっと待った。
「あ、あの……。相澤ノアです。明日から、この学園の一年生になります……。よかったら、ノアと呼んでください」
緊張した面持ちで、やっと俺たちの前に立った彼は、内股気味に俺と和兄へそれぞれお辞儀をした。
「理央と同い年かー。へぇー。ノア、オレは二年の波多野和也だ。よろしくな」
和兄が握手の手を差し出すと、ノアは今にも飛び跳ねそうなほど嬉しそうに、和兄の手を両手で握り締めた。
「よ、よろしくお願いします。和也さん」
さっきまでの緊張した様子が嘘のように、ノアは和兄に満面の笑みを浮かべた。
「あ、よろしく……。俺は海棠理央。同じ一年だから、もしかして同じクラスに……」
俺も挨拶しておかなきゃと慌てて手を差し出すと、ノアがじっと俺のことを見つめてきた。
だが、さっきまで和兄を見つめていた目と違い、まるで俺を値踏みするかのように、一瞬で頭からつま先まで見られた気がした。
(えっ……)
俺は背筋に冷たいもの感じて怯みそうになるが、まるで幻だったかのように、ノアはすぐ俺に向かって満面の笑みを浮かべた。
「よろしくお願いします。理央」
差し出していた手は、和兄と同じように両手で包み込むようノアに握られた。
すると、包み込むように握ってくるノアの親指が俺の手に食い込んで、鈍い痛みを感じた。
(い、痛い……。えっ……?)
握られた手を見つめ、もう一度顔を上げてノアの顔を見ると、その顔はさっきと変わらず、天使のような満面の笑みのままだった。