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第115話 相澤ノア

「追いかけてって……。とりあえず、ノア。彼らは私の友人だ。怖くないから、挨拶をきちんとしなさい」


 瑛斗先輩から諭されるように言われると、ノアと呼ばれる彼は大きく頷いて、瑛斗先輩の後ろからやっと出てきた。


 だが、そのまま俺と和兄に向かって真っ直ぐ歩いてくると思いきや、たった数メートルの距離を、瑛斗先輩の存在を確かめるように何度も振り向いていた。


(これは何待ちなんだ……)


 膝に乗せていた食べかけのお弁当を床に置いて、俺と和兄は立ち上がると、横に並んで彼が目の前に到着するのをじっと待った。


「あ、あの……。相澤ノアです。明日から、この学園の一年生になります……。よかったら、ノアと呼んでください」


 緊張した面持ちで、やっと俺たちの前に立った彼は、内股気味に俺と和兄へそれぞれお辞儀をした。


「理央と同い年かー。へぇー。ノア、オレは二年の波多野和也だ。よろしくな」


 和兄が握手の手を差し出すと、ノアは今にも飛び跳ねそうなほど嬉しそうに、和兄の手を両手で握り締めた。


「よ、よろしくお願いします。和也さん」


 さっきまでの緊張した様子が嘘のように、ノアは和兄に満面の笑みを浮かべた。


「あ、よろしく……。俺は海棠理央。同じ一年だから、もしかして同じクラスに……」


 俺も挨拶しておかなきゃと慌てて手を差し出すと、ノアがじっと俺のことを見つめてきた。


 だが、さっきまで和兄を見つめていた目と違い、まるで俺を値踏みするかのように、一瞬で頭からつま先まで見られた気がした。


(えっ……)


 俺は背筋に冷たいもの感じて怯みそうになるが、まるで幻だったかのように、ノアはすぐ俺に向かって満面の笑みを浮かべた。


「よろしくお願いします。理央」


 差し出していた手は、和兄と同じように両手で包み込むようノアに握られた。


 すると、包み込むように握ってくるノアの親指が俺の手に食い込んで、鈍い痛みを感じた。


(い、痛い……。えっ……?)


 握られた手を見つめ、もう一度顔を上げてノアの顔を見ると、その顔はさっきと変わらず、天使のような満面の笑みのままだった。

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