目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

第116話 月宮学園に天使が舞い降りた

 月宮学園に天使が舞い降りた。


 なんていう、映画や本のサブタイトルみたいな話題は、潤いのない男子校で一瞬のうちに広まりをみせた。


 昨日の昼休み、俺たちのところへ現れる前に瑛斗先輩を校内中探していたらしいノアは、全校生徒にその姿を目撃されたらしい。


『天使が月宮先輩を探していた』


『あんな可愛い子、見たことないぞ』


『一年の転校生らしい。しかも、月宮さんを追いかけて日本まで来たって』


 あの目を惹くルックスだけでなく、月宮先輩へ会うため遥々やってきたというところにも、どうやら魅力に拍車がかかったらしい。


 そんな学校中で注目の的の有名人は、俺のことをあまりよく思っていないのは、握手したときの反応で明白だった。


 和兄には普通、むしろ愛想よく話していたことを考えると、俺みたいな地味で野暮ったい見た目のヤツが、瑛斗先輩のそばにいることが気に食わなかったんだと思う。


 嫌われていることがわかっている以上、俺はできるだけノアと関わらずに避けて過ごしたいと思っていた。


 だが、生憎と翌日朝のホームルームで、うちの新しいクラスメイトとしてノアを紹介されてしまった。


「あっ……!」


 担任がホワイトボードにノアの名前を書いている間、一番後ろの席に座る俺を教壇の前から見つけたノアは、嬉しそうに俺へ向かって大きく手を振ってきた。


(嘘だろ。勘弁してくれよ……)


 嫌いなら無視をすればいいものを、なぜかノアに満面の笑みを向けられてしまい、俺はクラス中の視線を集めることになってしまった。


 特待生で学園生活を平穏に過ごすため、俺が目立たないようにしていることは、瑛斗先輩が昨日説明してくれていた。


 なので、屋上であんな風にお昼を過ごしていることも秘密だと言われ、ノアは大きく頷いていたと記憶している。


(忘れているのか、わざとなのか……。まあ、俺のことが嫌いなら後者だろうな……)


 気付いていないとは言い訳できない状況であったが、俺はあえて無視を決め込み、机の上に置いていた、一限目に使う教科書を熟読するフリをして俯いた。


(せっかくテストも終わって、日常を取り戻すはずだったのに……)


 俺は廊下側の一番後ろの席で、ノアは窓側の一番前。


 距離としては一番離れているはずなのに、自己紹介が終わって席に向かう間も、こちらに感じるノアの視線。


 俺はどう対処していいか分からず、そのまま授業が始まるまで、顔を上げることができなかった。


 そんなノアの周りには、休み時間ごとに人だかりができて、廊下には他クラスや上級生までもが、ノアの姿を一目見ようと覗きに来ていた。


 瑛斗先輩はノアのことを極度の人見知りだと俺たちへ紹介するときに言っていたが、緊張もせずにあんな楽しそうに笑いながら話しているのを見ると、俺にはそんな性格だとは到底思えなかった。


「ノアくん、お昼はどうするの?」


「俺たちと一緒にさー」


 昼休みのチャイムが鳴ってすぐ、今度はノアをお昼に誘うため、人だかりになって教室中が騒がしかったが、ある人物の登場によって教室は一瞬で静まり返った。


「ノア」


「あっ、エイトー!」


(瑛斗……先輩……)

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?