瑛斗先輩の姿が教室前方の入口に見えるや否や、自分の周りにできていた人だかりはまるでなかったもののように、ノアは瑛斗先輩のもとへ一目散に走り寄っていった。
「エイト、エイト! 本当に迎えに来てくれたんだね!」
「校内を案内すると約束したからな」
「わーい! エイト、大好き!」
名前を何度も呼びながら、嬉しそうに飛び跳ね、満面の笑みで瑛斗先輩を見上げるノア。そんなノアに、優しく微笑み返しながら頭を撫で始める瑛斗先輩。
「尊い……」
「ああ、まさに目の保養だ……」
「月宮先輩もなんてお優しい……」
(はぁー……)
離れたところから見ていた俺からしてみたら、投げ出すようにぞんざいな扱いを受けて、よくそんなことが言えるなと思ってしまうが、自由奔放なところもノアの魅力なのかもしれない。
現にノアを目の前にして、慕われて嬉しそうに笑う瑛斗先輩が良い証拠だ。
(……。俺、こんな嫌味ったらしいこと考えるヤツだったっけ……?)
自席で頬杖をつきながら、俺は自分の醜い部分に気付いて溜め息を心のなかでつくと、机の横にかけていたカバンの中から、弁当袋を取り出した。
クラス中が瑛斗先輩とノアが見つめ合っていることに夢中のところ、俺は静かに席を立って、和兄の待つ屋上へ向かおうとした。
すると、立ち上がったことで俺の存在に気が付いた瑛斗先輩と、思わず目が合ってしまう。
(まずい……)
俺は慌てて顔を逸らして背を向けると、まるで逃げるようにして教室を飛び出した。
(ごめん、瑛斗先輩。けど、今この状況で目立つわけにはいかないんだ)
そう自分に言い訳する反面、本当は違う理由なことに自分でも気づいていた。
淋しさとモヤモヤしたものが胸の奥を支配していくを。
(嫉妬……。でも、何に……?)
自分にわざとらしく問いかけるが、本当は理由なんて頭ではわかっている。
瑛斗先輩がノアにとられてしまって悔しいんだ。