「リオン。私立ってどこもこんな感じなのか? どこもかしこも広いうえに綺麗って……。オレ公立だから、高校でエレベーターまであること自体、結構驚きなんだけど」
ルカさんは珍しそうに、校内に設置されたエレベーター内をぐるりと見渡した。
「エレベーターは、普段だと生徒の使用禁止なんですけどね。とはいえ、月宮学園はだいぶ特殊なほうだと思いますよ。この少子化社会にも関わらず、倍率は高い上に小中高は未だに男子校ですし。あと、こんなに施設が充実しているのは、高額な学費の他に寄付も募っているからかと」
「へー。じゃあ、レンさんもサクヤさんも、ここが出身校ってことは、実はお坊ちゃんってことですか?」
エレベーターが三階に着いて、俺はサクヤさんに車椅子を押されながら、レンさんとルカさんより先にエレベーターを降りた。
「残念ながら俺は一般人だよ。特殊なのはサクヤのほう。コイツの親ってさー」
「レン……」
サクヤさんはレンさんの名前を窘めるように口にすると、車椅子を押すのを止めて首を横に振った。
(サクヤさん……?)
「わかってるよ。まあ、俺もサクヤも卒業生だけどなーんも変わってなくて、逆につまんねーわ」
「そういうもんですか? あ、そういえば……」
話しはすぐに変わってみんなで廊下を歩き出したため、俺はサクヤさんの違和感に気付きつつも、口に出すことはしなかった。
「あ、この教室です。サクヤさん、押してくださってありがとうございます」
俺がさっきまで使っていた空き教室の前についてドアを開けると、レンさんたちに教室へ先に入ってもらった。
「へー、教室はこんな感じなんだ」
「ここは使っていない空き教室なんですけど、だいたい他の教室と一緒ですよ」
︎俺も後を追いかけるように教室の中に入ろうとしたとき、廊下の奥から、誰かが歩いてこっちに向かっているのが見えた。
(んっ? あれは……。ま、まずい!)
見覚えのある人物と目が合ってしまい、俺は慌てて車椅子を漕いで教室の中に入ると、ドアの鍵をかけた。
「リオン、どうし……」
血相を変えた俺の様子にレンさんは心配そうに声をかけてくれたが、俺は人差し指を立てて口元に持っていき、静かにするようジェスチャーで伝えた。
すると、ものすごい勢いの足音がこちらに近づいてくると、その勢いのまま、鍵の閉まったドアを開けようとする音と、ドアを叩く音が響いた。
「わっ! は、はい!」
(しまった!)
俺はドアを叩く音へ反射的に、背筋を伸ばして返事をしてしまった。
(居留守使って、見間違いにしておけばよかったのに! 俺のバカ!)
そんな後悔をしても遅く、何度もドアを叩く音が教室に響き渡った。
「理央! なぜ鍵をかけたんだ! それに車椅子って! 一体なにがあったんだ!」
(やっぱり、見間違いじゃなかったか……)
わかってはいたが、俺はどうしたものかと頭を抱えたくなった。
「えっ、えっと。これはですね……」
「話はあとだ! まずはここを開けてくれ!」
「そ、それは無理です!」
車椅子姿の事情も、ただの捻挫だと言えば、瑛斗先輩はわかってくれるかもしれない。
俺がリオンであることも知っているので、中にいるメンバーを見られること自体も問題ないだろう。
姫役も引き受けるしかなかったと、なんとか話を聞いてくれるかもしれない。
だが、それ以前に俺は今、瑛斗先輩と面と向かって話せる自信がなかった。