「本当に、週末のライブは大丈夫なんですか?」
「えっ……?」
(サクヤさんが俺のことを心配……? いや、違うか)
まさか、サクヤさんにも心配されると思っていなかった俺は一瞬驚いてしまったが、すぐに心配している理由が違うことに気が付いた。
「大丈夫ですよ。前日の合わせ練習には万全な状態で出ますし、レンさんに迷惑なんて絶対かけませんから!」
俺が力強く答えると、サクヤさんは一瞬目を丸くしたが、すぐにいつもの冷静な表情に戻って溜め息をついた。
「はぁー……。そうしてください。しかし、そのケガ……。あなたが一人で階段を踏み外すとは、私としては中々考えにくいのですが……。誰かになにかされた、なんて言わないですよね?」
「えっ……!」
俺はサクヤさんにズバリと言い当てられてしまい、思わず声が裏返ってしまった。
「言っときますけど、傷害事件なんて真っ平御免ですよ。ここまで築いてきたリユニオンを潰すことだけは、絶対に私が許しませんから」
「はい……」
(そうだよな。俺が何かを起こせば、個人じゃなくて、リユニオンにも影響があるんだ。俺はもっと、自分の行動に自覚を持たなきゃ……)
膝の上に置いていた手を重ねて握り締めると、俺はサクヤさんを真っ直ぐ見上げた。
「サクヤさん。俺にちゃんと教えてくれてありがとうございます。オレ……俺、頑張りますから!」
サクヤさんはまた目を丸くすると、今度はほんの少しだけ口角を上げて、鼻で笑われてしまった。
「いい傾向ですね、リオン。まあ、リオンがケガをするのは勝手ですが、絶対にレンを巻き込まないでくださいね。レンへ勝手に連絡したこと、そのケガに免じて許しあげますから。ほら、私が車椅子を押して差し上げましょう」
そう言って、サクヤさんは俺の後ろに回ると、車椅子のハンドルを握り締めた。
「あ、いえ! そんなこと、サクヤさんにさせられないです!」
「おや? リオンは、私の言うことには従えないんですか?」
後ろを振り向いてサクヤさんを見上げると、首を傾げ、目を細めて有無を言わさないと笑うサクヤさんの顔に、俺は背筋が冷たくなった。
「い、いえ! その……あ、ありがとうございます」
(こ、怖い……。絶対に俺に対して怒ってる……よな。考えてみれば、レンさんにだけ連絡をとったこと自体が不味かったよな……)
俺は笑顔のサクヤさんに車椅子を押されながら、レンさんとルカさんを追いかけた。