事務所には履歴書で学校名は伝えていた。
だが、特待生ということと、アルバイト、もとより芸能活動禁止であることを隠していた。
(ま、まずい……!)
「レ、レンさん! 俺……」
俺が学校と事務所にそれぞれ隠していることがレンさんにバレてしまったと、俺は慌ててしまうが、レンさんは笑って俺の頭をまた軽く叩いた。
「バーカ。このレン様に対して、何を心配してんだよ」
「えっ……」
「リオンが抜けたら困るのに、余計な事するわけないだろ」
(抜けられたら困る……? 俺が……?)
レンさんにとって、その言葉は社交辞令だったかもしれない。
それでも、不動のセンターで尊敬するレンさんにそんなこと言ってもらえて、俺は胸が湧き立つような喜びを覚えた。
そのため、無意識に口元が緩み、口角が上がってしまった。
「リオンのやつ、まーた笑ってるよ……。リオンはカッコよさが売りなんだぞ。頼むからイメージを崩さないでくれよな……」
ルカさんは深い溜め息をつくと、レンさんはルカさんを捕まえるように肩へ腕を回した。
「心配になっちゃうよなー。だってルカは、リオンのファンだもんなー」
「えっ?」
(ルカさんが……俺のファン……?)
「は? 突然、何言ってるんすか! ふざけないでください!」
俺は嬉しくなってルカさんに向かって振り向いて見上げると、ルカさんが肩に掛けていた大きなカバンによって、レンさん共々顔を殴られてしまう。
「いてっ」
「いっつー」
ルカさんのカバンは結構な大荷物で、なにがそんなに入っているのか疑問なほど、それなりの重量があった。
そのため、カバンが頬に当たった衝撃が強かった俺は、手のひらで頬を軽く擦った。
同じように叩かれたレンさんは、どうやら顔の正面から当たったらしく、鼻を痛そうに押さえていた。
「ルカ……。照れ隠しも程々にしろよ。いいかげん、そのツンデレ直せ。じゃないと、リオンもオレも身体がもたないぞ」
「オレはツンデレなんかじゃありません!」
ルカさんは顔を真っ赤にして俺たちに背を向けると、スタスタと校舎に向かって一人で歩き始めてしまった。
「あっ! 待ってください、ルカさん! カバン持ちますよ」
「結構だ! ケガ人なんかに、荷物持たせられるか!」
俺は荷物持ちを買って出るが、ルカさんに拒否されてしまった。
そのまま歩く足を止めないルカさんは、大股で校舎に向かってどんどん行ってしまう。
「おい、ルカー。勝手に行くなよー。どうせ入口わかんないだろー?」
一人で勝手に歩き出してしまったルカさんを、レンさんは追いかけるために走っていってしまった。
そのため、必然的にこの場に残された俺とサクヤさんは、二人きりになってしまう。