「ったく。ああ、コイツらなら朝練のとき、オレがリオンの危機だーって言ったら、あっさり付いてきたんだ」
「べつにリオンのためでは。レンを一人で行かせるわけにはいかないので、付いてきただけです」
「オレも別にリオンのためじゃ……。ただ、おもしろそうだと思っただけで……」
しゃがみこんでいたルカさんはゆっくりと立ち上がると、バツが悪そうに俺から顔を逸らした。
「だとさ。はぁーあ、二人とも可愛くないなー。素直にリオンが心配だって言えばいいのにさー」
レンさんはサクヤさんとルカさんの肩に腕を乗っけて、二人の顔を交互に覗き込んだ。
「私は別にリオンのことは」
「オレだって、別に心配したわけじゃ」
(サクヤさん、ルカさん……!)
理由はどうであれ、レンさんはもちろん、サクヤさんとルカさんまで駆けつけてくれたことに、俺は嬉しくて堪らなかった。
「ありがとうございます!」
嬉しくて顔を綻ばせると、ルカさんは訝しそうに眉間に皺を寄せた。
「なんだよ、リオン。その締まりのない顔は」
「いや。俺って大事にされているみたいで、嬉しいなーって思って」
「なっ!」
素直に気持ちを伝えた俺に、ルカさんは驚いた表情をしてから顔を赤らませると、また顔を逸らしてしまった。
二人の肩に腕を置いていたレンさんは、嬉しそうに満面の笑みを浮かべると、二人から腕を離し、今度は俺の髪を思いっきり搔き乱すように撫でた。
「カーッ! 本当にリオンは可愛いなー。見習えよ、ルカ」
「結構です!」
「ったく。本当に見た目は可愛いのになー」
「ああ? 今なんて言いました?」
お決まりの言い争いが始まりそうで、俺はとりあえず、レンさんの手を掴んで俺の髪から離させると、首を横に振った。
「二人とも冷静に! それにレンさん。俺の髪で遊ぶのは止めてください!」
「えー。どうせ、こんな髪なら乱しても一緒だろ。てか、なんだよこの邪魔な前髪。ちゃんと前、見えてんのか?」
「見えてますよ! あと、これには事情があってですね」
乱された髪を整えながら俺が言い返していると、サクヤさんは腕を組んで深いため息をついた。
「その話、とりあえず校舎に入ってからのほうがよいのでは? 今は全校生徒が校庭に集まっていても、お昼が始まったら、人の出入りが発生するんじゃないんですか?」
「たしかに。オレたち、不法侵入だし。見られたらまずいですよね」
ルカさんがサクヤさんに頷くと、レンさんはルカさんに向かって人差し指を立て、左右に動かした。
「チッチッチー。残念だったな、ルカ。オレとサクヤは月宮学園のOBだから、関係者なんだよ」
「えっ……? えー!」
俺は初めて聞かされる事実に、思わず驚き、大声を上げてしまう。
「なんでリオンがそんなに驚くんだよ」
慌てふためき、前のめりになりながらレンさんを見上げる俺を、ルカさんが不思議そうに見下ろしてきた。
「だ、だって! そんなこと、聞かされたことなかったですよ!」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてないです!」
惚けるように肩を竦めて首を傾げたレンさんは、俺の頭を手のひらで二回ほど軽く叩いてきた。
「まあー……。だからリオンの、そんなやぼったい前髪の理由も、なんとなく予想はついてるぞ。お前もたしか、特待生なんだろ?」
(……? あ、あれ? お前もって……。ってことは、レンさんも前は特待生で、特待生が芸能活動も禁止なこと知って……)