空き教室を出た俺は車椅子のまま裏口に向かうと、今は頭を空っぽにしたくて、雲一つない青空をただ見上げていた。
「おいおい、黄昏てんなー。っというより、リオンの場合は達観してるっていうべきか? って、お前リオンか? なんだその前髪! しかも車椅子って、一体何があったんだよ!」
「あっ……。って、えっ!」
細かい事情を話すことを忘れていた俺は、慌てて裏口の柵の向こう側を向くと、思わず驚いて声を上げてしまった。
「おい、リオン! どういうことだよ! そんな姿で週末のライブ、一体どうすんだ!」
「る、ルカさん……!」
「レンもルカも落ち着きなさい。ここで騒いで誰かに見つかったら、厄介ですよ」
「さ、サクヤさんまで!」
なんとそこには、連絡をとっていたレンさんの他に、ルカさんとサクヤさんが一緒にいたのだ。
俺の車椅子姿を見て血相を変えるレンさんとルカさん。
そして、予想外の人物の登場に慌てる俺とは対照的に、サクヤさんはいつものように冷静だった。
「とりあえず、リオン。ここを開けてくれませんか? 柵越しでは話がしにくいです」
「そ、そうですよね! とりあえず、中に入ってください」
俺は念のため、辺りを見渡して誰もいないことを確認すると、裏門の鍵を中から開けた。
「すみません。急にこんなところまで来ていただいて……」
「そんなことより、なんだよ車椅子って! オレはなにも聞いてないぞ!」
声を荒げて俺に詰め寄ろうとするレンさんを、サクヤさんは制止するように後ろから抱き締めた。
「離せサクヤ! 今はお前に構ってる場合じゃないだろ!」
「嫌です。このままでは、リオンに飛びつきそうな勢いなので」
「ケガ人相手にそんなことするか!」
暴れるレンさんを離そうとしないサクヤさんを尻目に、ルカさんは必死な顔で俺に駆け寄ってきた。
「一体なにがあったんだよ!」
「あっ、えっと……ちょっと階段を踏み外して……」
「踏み外したって、お前……」
ルカさんの顔色がみるみる変わっていったため、俺は必死に胸元で手を振った。
「あっ! でも、ただの捻挫ですよ。もう、痛みもほとんど取れてますし。けど、週末のライブまでに直したっかったので、こうやって車椅子で安静に過ごそうかと」
「捻挫? な、なんだ捻挫かー……。はぁー……」
ルカさんは力が抜けたようにその場でしゃがみこむと、安堵の溜め息をついた。
「捻挫だって? なんだよ。オレはてっきり、骨でも折れてるのかと思ったぞ……」
サクヤさんに抱き締められたままのレンさんも、力が抜けたように項垂れてしまった。
「す、すみません! お二人とも驚かせてしまって! で、でも! ルカさんとサクヤさんはどうしてここに?」
実は昨日、姫役の格好についてアドバイスをもらおうと、レンさんにメッセージで相談したところ、学校まで準備の手伝いに来てくれると言ってくれた。
さすがにそれは悪いと何度も丁重にお断りしたのだが、レンさんには聞き入れてもらえず、こうやって裏門で待ち合わせをしていたのだ。
そのため、レンさんといつも行動をともにするサクヤさんが一緒なのはまだ理解できるが、ルカさんまでいることが俺は不思議で仕方がなかった。
「サクヤ。いいかげん、そろそろ離せ」
「ハイ」
レンさんが体を捻らせながら言うと、サクヤさんは素直に頷き、レンさんを腕の中から解放した。