今まで当たり前だと思っていたことを、改めてルカさんに質問をされて、俺は正直戸惑ってしまう。
言われてみれば、たしかに笑いをとりにいくことが、姫役の条件ではないことに気が付いたからだ。
(でも、やっぱり……)
「いや、男がみんなの前で女装するなんて、笑いをとりにいくしかないですよね?」
俺は当たり前のように言うと、ルカさんは肩を震わせて、机を思いっきり拳で叩いた。
「古い!」
「えっ……!」
急に立ち上がったルカさんから、俺は思いっきり指を差されてしまい、呆気にとられてしまう。
「リオンは頭が固い上に、古いんだよ! あー、くそっ! なんか思い出したぞ! 最初のライブのときも男がメイクなんてって、お前言ってたよなー?」
「うっ……」
今はメイクに慣れたものの、言われてみれば、たしかにそんなようなことを口走ってしまった記憶があった。
「だいたい、女装のなにが悪いってんだ! この多様性の時代に、そんな考え自体が時代錯誤も甚だしいんだよ!」
ルカさんはもう一度、机を拳で力強く叩いた。
レンさんが可愛いと揶揄ったとき以上に怒っているのは明らかで、俺はどうしていいか分からず、慌てふためいてしまう。
「る、ルカさん。俺が古くて固い考えなのがいけなかったです。だからどうか、落ち着いてください!」
「そうだぞ、ルカ。リオンが驚いて怯えてるぞ」
「これが落ち着いていられますか! だいたい、女装させて笑いものにするなんて、それはいじめと何も変わらないじゃないですか!」
(うっ……)
正論を言われ、俺は返す言葉も見つからず俯いてしまう。
すると、レンさんは俺の肩に手を置いて、慰めるようにそのまま軽く叩いてくれた。
だが、その手は、いつのまにかレンさんの横に立っていた無言のサクヤさんに、そっと退かされてしまった。
「……。サクヤ、お前なー……。ったく。しっかし、ルカは正義感の塊みたいなヤツだなー」
「レンさんは黙っていてください!」
息を巻いて怒りを露わにするルカさんを前に、レンさんはなぜか笑い出したが、ルカさんはそんなレンさんを無視して、俺を指差しながら睨みつけてきた。
「おい! リオン!」
「は、はい!」
「お前はそれでいいのか? ってか、まさかそのケガ……。誰かに嫌がらせでやられたとか言わないよな?」
これでもかと怒りを露わにした表情で俺に近づいてくるルカさんに、俺は車椅子を下げて逃げ出したくなる。
だが、後ろにはレンさんとサクヤさんが立っていたため、逃げ道を絶たれてしまっていた。
「こ、これは違います! 俺が不注意で階段踏み外しただけで……。そ、それに、クラスメイトとは、たしかにちょっと上手くいってなかったですけど……。ちょうど今さっき和解して……」
「ふんっ。どうせ、リオンの車椅子姿にビビって謝ってきたんだろ。そんで、そんなクソどもに推薦でもされて、姫役になったんだろ!」
(うっ……。ルカさん、鋭い……)
俺は全てを見透かされてしまい、さらに何も言えなくなって、また俯いてしまう。
「アイドルなら俯くな! 顔上げろ!」
「は、はい!」
ルカさんの怒号に、俺は俯いていた顔を慌てて上げて背筋を伸ばした。
「アハハハッ」
すると、俺とルカさんのやりとりを見ていたレンさんは、急にお腹を抱えて笑い出した。