「デュークスバリーで見かけた紋章に似ているな…?」
「え……?それってまさか……」
エレナも気付いたのかハッとした表情を浮かべていたのだ。
「ああ、多分間違いないと思うぞ…」
俺が言うと納得したような表情になっていたのである。そしてこの紋章が何を意味しているのかという疑問が生まれたのだがそれについてはまだ何もわかっていない状態だった。
その後も調査を続けた結果いくつかのことが分かったことがあるため整理してみることにしたのだ。まず一つ目として、この森にはファイヤードラゴン以外の魔物がほぼいないということ、二つ目としてこの泉の水が魔力を含んでいるということ、三つ目としてその水には治癒の力があることがわかった。
「つまりこの水を使って召喚の儀式が行われている可能性がある……?」
エレナの言葉に俺は頷いて答えた。
「ああ、そうだと思う……でも誰が何のためにこんなことをしているのかまでは分からないけど……」
俺がそう言うと二人は考え込むような仕草を見せた後に再び調査を再開することになったのだった。
「とりあえず今日はここまでにするか」
俺がそう言うと二人は頷いてくれたので街に戻ることにした。宿屋に戻ってからは明日に備えて早く休むことにするのだった。そして次の日になり再び森へと向かうことになった俺達は昨日と同じように調査を始めたのだが特に変わったことは起こらなかった。しかしその代わりと言っては何だが魔物に襲われなくなったのだ、まるで何者かが意図的に遠ざけているかのように思えたのである。
「やっぱり変よね……」
エレナは何かを感じ取っているようで難しい顔をしていた。ジェーンと俺は顔を見合わせるとお互いに首を傾げるしかなかったのだった。
「とりあえずもう少し調べてみないとわからないわね」
エレナの言葉に同意するように俺達は頷くと再び歩き出したのである。そして数時間後、ようやく手がかりと言えるものを発見することに成功したのだった!それは泉のすぐそばにある小さな石碑のような物で表面には複雑な模様が刻まれていたのである。
「これってもしかして……」
俺が呟くように言うとエレナたちも興味深そうに覗き込んできたのである。
「ええ、間違いないと思うわ」
エレナも確信を持っているようで力強く頷いていた。どうやらこの石碑には召喚に関する魔法が施されているらしく特定の条件下でしか発動しないようだ。
「じゃあこれを壊すなりすれば解決するってことか?」
俺がそう聞くとエレナは首を横に振った後でこう答えてきたのだった。
「いえ、そう簡単にはいかないと思うわ……これを作った人は相当頭が切れる人物だと思うもの」
その言葉にジェーンも同意するように頷いていたのである。確かにこれだけのものを作れるということはかなりの技術の持ち主である可能性が高いだろうし簡単に壊せるとも限らないだろう。しかしだからといって諦めるわけにはいかないためどうにかして解決策を見つけようと話し合っていたのだが結局いい方法は思いつかなかった。
そうして、話し合った通りにまずは石碑を破壊する方向で行動してみることに決め、早速実行に移すことにしたのである。
「じゃあ俺がやってみるよ」
そう言って剣を構えると勢いよく斬りつけたのだがビクともしないことに驚いてしまった。どうやらかなり頑丈に作られているようだ……しかしここで諦めるわけにはいかないため何度も繰り返し攻撃してみたところようやく一部を破壊することができたのでそこからさらに深く傷つけていく。しかし、なかなか骨が折れる作業だ。
「ちょっと下がってて」
エレナがそういうと、無詠唱で魔法を放つ。炎魔法だ。見事にクリーンヒットするものの、ぷすぷすと焦げる音がするだけでダメージが入った様子はない。
「結局、力技じゃないとダメみたいね…リン、お願いするわ」
「わかった」
そう言って、剣を構えると一閃。深々と斬り込むことができたが……それでも壊せない。
(僕がやってみてもいいかな?)
真の言葉に身体の制御権を真に預ける。
「“原初、星はひとつ。輝きに鳥は堕ち、地を這うものは目を眩ませる”…」
「“フエゴ”」
完全詠唱の炎魔法を前にガラスのように砕け散った石碑から流れ出た魔力は、泉に吸収されていくようだったので、おそらくこれで召喚の儀式が行われることはないだろうと判断したのだが……ただ事ではないほどの嫌な予感だけは残っていたのだった。
「これで一件落着ね」
エレナがそう締めくくり、俺たちは森を後にすることにしたのだった。しかし俺の頭には先ほどの石碑に刻まれていた模様が焼き付いて離れなかった……あれは一体何を意味していたのだろうか?それが分かるまではどうにも不安を拭えなかったのだ。
そんなことを考えているうちに街へとたどり着き宿で一晩休息した後、ギルドを訪れると受付嬢から声を掛けられたのである。
「おはようございます、先日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ……」
「それでですね、実は……」
「何かあったんですか?」
「それがですね、ドラゴンの死体が消失したという事件がありまして……」
「え!?」
俺たちは驚きの声を上げる。
「どういうことかしら?」
エレナが聞くと受付嬢は説明してくれた。なんでもファイヤードラゴンを倒した後その死体が消えたらしいのだ。そしてその後の調査でも結局見つからなかったためギルドでは調査を打ち切ったそうだ。
「そんなことがあるんですね」
俺が呟くように言うとジェーンも頷いていた。
「はい、私も初めて聞きました」
「それで、これからどうしますか?また調査でもしに行きますか?」
エレナがそう聞くと、受付嬢は首を横に振った後でこう答えたのだった。
「いえ、その必要はありません。ですが念のため周辺の警戒だけはしておいてください」
そう言って頭を下げたのである。
こうして俺たちはしばらくの間待機することになったのだがその間暇を持て余すことになりそうだったため何か依頼を受けようと提案したところ二人とも賛成してくれたので早速手続きを済ませることにしたのだった。そして翌日からは以前と同じような日々が続いたわけだが最近気になることがあったのだ、それは森の奥の方から見られているような感覚があることで、特に泉の方から何かを感じるのだ。
「ねえ、あの泉に何かあるんじゃないかしら?」
エレナが突然そんなことを言い出したのだ。確かにあの場所は何か不思議な感じがするのだが。
(ああ、僕もそう思ってるんだ)
真が同意するように答えるとジェーンも同意してくれたのだった。そして三人でそのことについて話し合うことになったのである。
「それでだ、あそこに行ってみたいんだけどどうかな?」
俺が提案すると二人共賛成してくれたので早速向かうことにしたのである。
「じゃあ早速出発しましょう!」
エレナが元気よく言うので俺たちはすぐに準備を整えると街を出て森へと向かったのだった。
しばらく歩くと例の泉が見えてきたのだが、やはり何か違和感を感じる。まるで誰かに見られているようなそんな感覚だ。
「やっぱり変よね……」
エレナも俺と同じことを考えていたようで難しい顔をしている。ジェーンはと言うと特に気にしていない様子で辺りを見回していた。
「とりあえず泉に近づいてみないか?」
俺が提案するとエレナも同意してくれたので早速行動を開始することにしたのである。
「じゃあ行ってくるよ」
二人に声をかけると笑顔で手を振り返してきたのだった。それを見て安心した俺はゆっくりと足を進めることにしたのだった……そして泉の前まで来ると改めてその美しさに見入ってしまう。水面は透き通るように綺麗で底まではっきりと見えるほどだった、しかしそれと同時に何か不気味な雰囲気のようなものを感じ取っていたのだが気のせいだろうと自分に言い聞かせることにしたのだ。そして意を決して手を水の中に浸けてみようとした。
「熱っ!?」
あまりの熱さに手を引っ込めると指先を見ると赤くなっていた。どうやらかなり高温の泉だったようだ……しかしなぜこんなに熱いのだろうか?疑問に思ったものの考えても仕方ないと思い諦めることにしたのだった。
「リン、大丈夫?」
エレナが心配そうに声を掛けてきたので大丈夫だと答えると安心したようでホッと胸を撫で下ろす仕草をしていた。そんな姿を見ているとなんだか微笑ましく思えてきてしまい思わず笑みが溢れてしまうのだった。そして再び泉に目を向けると今度はゆっくりと手を入れてみることにする。
「冷たっ!?」
先ほどまで火傷しそうなほど熱かった水が、今は身を切るほどの冷たさになっている。疑問を抱きながらも、そのまま奥まで入れてみると指先が何かに触れたような感覚があった。何だろうと思って更に深く入れてみると指先に何か硬いものが当たるのを感じたのでそれを掴んで引き上げてみることにしたのだ……すると出てきたのは小さな水晶のようなものだった。
「これは一体……」
俺が呟くように言うとエレナも覗き込んできたのだが彼女も分からないようで首を傾げていたのだった。とりあえず持って帰って鑑定してもらうことにしようと思いポケットにしまうことにしたのである。その後、しばらく探索を続けることにしたのだが結局何も見つからなかったため仕方なく街に戻ることになったのだった。
宿に戻ると早速水晶を鑑定してもらうことにすることにしてギルドへと向かったのである。
「あのぉ……」
受付嬢に話しかけると笑顔で対応してくれたので事情を説明して水晶を見せることにしたのだった。すると受付嬢は少し驚いた様子を見せたもののすぐに冷静になり丁寧に対応してくれたのだ……そして数分後には結果が出たようで一枚の紙を差し出してきたのである。その内容を確認するとどうやらこれは魔石の一種らしいことがわかったようだ。しかもかなり貴重なものらしくかなりの高額になるものらしい。それを聞いた途端エレナの目が光ったのを俺は見逃さなかった。
「それでこの魔石はどこで手に入れたんですか?」
受付嬢が興味津々といった様子で聞いてくる。俺は正直に説明するわけにもいかず誤魔化すことにしたのだった。
「えっと……それは秘密ということでお願いします……」
俺がそう言うと納得してくれたようでそれ以上追求されることはなかったためホッと胸を撫で下ろすことになるのだった。そしてとりあえず用も済んだので宿に戻ることにしてその場を後にしたのである……それから数日は特に変わった出来事もなく平穏な日々が続いたのだがそんなある日のこと、ジェーンが少し気になることがあると言ったので詳しく聞いてみることにしたのだ。
「実は最近誰かに見られている気がするんです……」
ジェーンは深刻そうな表情を浮かべながら話し始める。
「どんな風に見られているの?」
エレナが聞くと彼女はしばらく考え込んだ後でこう答えたのだった……
「それがよくわからないんですよ、ただなんとなく嫌な感じがするというか……」
「そうか……じゃあしばらくは単独行動は控えた方がいいかもしれないな」
俺が言うと彼女も同意してくれたようで素直に頷いてくれたので一安心することができたのである。しかし、泉の件がある以上うかうかしてはいられない。
「とりあえず、明日また行ってみようと思うんだがいいか?」
俺が提案してみると二人とも賛成してくれたので早速準備をすることにしたのだった。
翌日になり準備を整えると街を出て森へと向かったのだ……昨日と同じように泉を目指すことにすると道中は特に変わった様子はなく普通に進むことができたのだが問題はやはり目的地に到着した後だろうと思っていると案の定魔物が現れたのである。しかもかなり強力な個体のようでエレナの魔法を受けてもビクともしないようだ。
「これはちょっとまずいな……」
俺が呟くように言うと彼女も同感だったのか頷いているのが見えた。
「リン、あれをやってみて」
それは練習していた真との連携技で、真が残した魔法を斬撃にのせるというものだ。なるほど確かにこれならなんとかなるかもしれないと思い俺は剣を構えると一気に斬りつけたのだった。するとやはり効果があったようで見事に真っ二つにすることができたのだ。そしてそのまま消滅していったのを見てホッと胸を撫で下ろすことになったのである。
「なんとかなったわね」
エレナも安心した様子だったので一安心といったところだろう。
その後は特に問題もなく泉に到着することができたのだがやはり何か違和感を感じてしまう自分がいた……それはジェーンも同じだったようで難しい顔をしているのが見えたため声をかけようとした。その時だった。
「二人とも待ってください」
エレナに止められてしまうのだった。
「何かあったの?」
俺が聞くと
「ええ、どうやら何かいるみたいなんです」
彼女は真剣な眼差しで答えたのである。そして次の瞬間その気配の正体が現れたのだった。それはなんと巨大なドラゴンだったのだ。しかも一体だけではなく何体もいるようで完全に囲まれてしまっているようだ。これは非常にまずい状況である。
「どうしますか……?」
ジェーンが不安そうに聞いてくるとエレナも考え込んでいる様子だったので俺が代わりに答えようとしたその時だった。
「神に選ばれし子よ」
ドラゴンが俺に語りかけてきたのであった。