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最終話

 やっぱりそうなるよね

 君はこの夢から抜け出してくると思ったよ

 それにこの気配

 帰って来たんだねティア

 もう少しで世界が一変するというところでのカズマの復帰

 そうだね、君は僕の最後の障害だ

 これを乗り越えればやっとだ、やっと僕の理想の世界が実現する

 救いはそこにある

 仲間達には誰も戦わせない

 僕が、僕一人が全てを終わらせる


 ああ分かるぞセイヴ

 あんたがそこにいるってな

 そしてもうこっちに気づいてるんだろう?

 待っているのか。なら望み通り行ってやる

 あいつが最後の壁だ

 だがその壁を壊すだけじゃいけないんだ。この戦いは

 俺とあいつの決着は、俺がやられるか、あいつを俺が救えるか

 その二択だろう

 万年もの月日がセイヴの心を壊したのかもしれない

 未だセイヴをどう救えばいいのか分からないが、頼れる仲間がいる

 みんながいれば、俺はいくらでも力を出せるんだ


「カズマさん!」

 振り向くと、息を切らしたレナが立っていた

「私も連れて行って! 私だって強くなったんだから」

 確かにレナは今ではファンファンに次ぐとも言っていい実力を持っている

 それに、セイヴの夢から自力で抜け出してきた心の強さも持っている

「分かった、行こうレナ!」

「はい!」

 俺は最後の戦いへ向かうため、全員に浮遊の力を授け、飛び上がった

 目指すはセイヴの待つ地、フェンリナイトの片田舎だ

「ふむ、奴の故郷じゃな。セイヴはここで幼馴染達と組み、最初は冒険者になって名を上げようとしておった」

「仲間と? かつてセイヴにも仲間が?」

「うむ、わしは詳しくはないが、母様が知っておったな。じゃが、勇者になってから奴の仲間は確か死んだ。あの頃は戦いが多かったからのぉ。当然冒険者も数多く死んだ。魔物や魔人との戦い、そしてヒト族同士の戦い。じゃがそれを一度は終わらせたのもセイヴじゃ。じゃからこそわしは奴に憧れた」

 今まで知らなかったセイヴの過去か

 かつての戦いで、幼馴染だった仲間を全員亡くした

 それでセイヴはおかしくなった?

 仲間をなくした後の孤独な戦い、魔人や魔王との和平のための努力

 それを裏切り再び起こる戦争

 セイヴはそんな戦いに疲れ切ったのかもしれない

 そこから段々と、彼の思考は歪み始めたのだろう


 そうだ、かつての戦いが僕を変えた

 ヒトは裏切るし、争いは止まない

 平和のため今まで戦い続けた歴代の勇者たち

 彼らは何のために死んだ?

 報われるのか?

 平和な世界は僕が創る

 あと少しなんだ。だから、最後の戦いをしようカズマ


 俺はセイヴと一瞬繋がったかのような感覚を得た

 彼と俺は似ているのかもしれない

 どちらも平和を願っている

 それは絶対に間違いない

 やり方は違うが、間違いないんだ


 加速し、俺たちはフェンリナイト南部の村の位置までやって来た

 そこに悠然と立ち笑っているセイヴがいた

「待ってたよ。君ならきっと抜け出してくると思ってた」

「俺だけの力じゃないさ。ルカがいてくれたからな」

「そうか、ティア、君が死んでいなくて良かったよ」

「ふん、白々しいのぉセイヴ」

「ははは、バレたか」

 そうはいっているが、セイヴの目からは確かに安堵が見て取れた

 彼はまだ、完全に狂ったわけじゃないのかもしれない

「さあ始めようか。全員で来る? 僕の仲間たちは別世界にいるから邪魔はしないよ」

「いや俺と一騎打ちだセイヴ。俺は、お前も救いたい」

「やってみなよ」

 セイヴと俺の間で力同士が激突し、バチバチと稲妻が走る

「君の神と僕の神、どっちが強いかな?」

「な!?」

 セイヴの力が形を成す

 それは人型になった

「異界の神アザトース」

 人の形でありながらその姿は異形で、口が触手に覆われ、皮膚はブヨブヨ、体毛と言ったものは一切ないタコのような化け物

「この方が僕の力の正体。君の神より古いそうじゃないか?」

「カズマ! そ奴はアザトース。人に仇成す人と我ら神々の敵じゃ!」

 イザナミ様の声が響いた

「それはイザナミ様も一緒じゃ」

「馬鹿者! わらわはそれでも人の子は愛おしい! じゃがそやつは違う。人を壊し、心を破壊し、操り、闇に染める。奴は危険じゃ、心してかかれ」

「分かりました。でも俺は、負ける気がしない」

 神々の力を使い、それを統合させていった

「な!? 馬鹿者カズマ! それ以上は体が壊れるぞ!」

「そうでもしないと、こいつは倒せないでしょう。こいつだ。こいつがセイヴを本当におかしくした元凶だ」

 アザトースは顔らしくもない顔で笑っているように見える

 こんな化け物に憑かれていたって言うのに、セイヴはその良心を捨てきれていなかった

 彼の心が強い証拠だ。まだ救えるはずだ!

「行くぞセイヴ」

「来いよカズマ!!」

 力と力がぶつかる

 二人の拳が同時に砕けて血が吹き出た

「ぐぅ」

「くっ」

 だがそんな傷も痛みも構わずに俺とセイヴは力を使い続けた

「アマテラス!」

「ニャルラトホテプ!」

 バチバチと力が相殺し合う

「ツクヨミ」

「ヨグソトース」

 また相殺

「スサノオ」

「ハスター」

「タケミカズチ」

「クトゥグア」

 力は拮抗している

 あまりの力の奔流に仲間達は立っているのもやっとのようだ

「ファロール」

「スクナビコナ」

 セイヴも俺も、傷だらけになっている

「グルーン」

「オオクニヌシ」

 それぞれの力が矢となって撃ち出され、一本一本が打ち消し合う

 何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も

 俺たちは力の撃ち合いを続けた

 一時間が経ったのか、一日が経ったのか、それともすでに何日も戦っているのか、時間の感覚が分からない

 それほどに二人の力は拮抗していた

「はぁはぁ」

「ふー、ふー」

 すでに二人共限界が来ていて、神々の力によって体にはひびが入り始めていた

「やめよカズマ! 体が、魂が壊れてしまうのじゃ!」

「やめませんよ。セイヴも救って、世界を守る!」

「はぁはぁ、ハハハ、君さえ倒せば、僕は、取り戻せるんだ! かつての仲間も世界も! 全部取り戻すんだ! 僕の大切な、ぐふっ」

 血をドバっと吐き出すセイヴ

「セイヴ!」

「気にするなよカズマ。さあお互い後一撃ってところでしょ? 僕はもう覚悟は決まっている」

「ああそうだな。行くぞ!」

 俺もセイヴも

 これが最後だ

「イザナギイザナミ!」

「クトゥルフ!」


 世界がさらに白く見えた

 真っ白な光が二人を包んだ

「カズマ、僕は世界を救いたかっただけなんだ。仲間を、護りたかっただけなんだ」

「分かってるさセイヴ。あんたは強くて優しい勇者だよ」

「ハハ、そうかな? こんな力に頼ってしまった僕なのに、それでも君はそう言ってくれるんだね」

「救いたい。守りたい。その思いは同じだからな。その点は、あんたを尊敬しているよ」

「ありがとうカズマ」

 俺の体も、セイヴの体も崩れ始める

「カズマぁあああ!!」

「旦那様!!」

「カズマさん!!」

 ルカ、ファンファン、レナの声が聞こえる

 俺は自分の死を強く感じた

 全身から力が抜けて行くし、意識がどんどん遠のいていく

「ああ、そんな、カズマ、お前がいなければわしは」

「泣くなよルカ、俺は、頑張ったよな? あの弱くて何の取柄もなかった俺が、ここまでのことが出来たんだ」

 そう言っておれは姿を現したイザナミ様とイザナギ様を見る

「カズマよ。お前は死後天へと向かい神となるだろう。安心せよ」

「はは、俺が神なんて柄じゃないですよ」

「すまぬ、本当はこの世界にとどめておきたいのじゃが、すでにお前の魂は昇天しかけておる。このまま輪廻の輪を外れ、神へ至るじゃろう」

 俺はそれを受け入れた

 良い人生だったと言ってもいいのか分からないけれど、俺はルカやファンファン、レナ、アネモネの顔を見た

 こんないい娘たちに囲まれて死ねるなら、素晴らしい人生だったんじゃないかな?

 ははは、死ぬのは二回目だな

 俺が目をつむった時、セイヴが近づいてきた

「死なせないよ。君には生きて、この世界を本当の平和に導いてもらわなくちゃ。だから、僕の命を分けてあげる」

「セイヴ?」

 消えて行くセイヴの手が俺に触れ、力が一気に流れ込んできた

「これは!?」

 俺の意識がはっきりとし始め、体が戻って行く

「なんと、奇跡じゃ。わらわでもできぬことを」

「古き神の力を無理やり使った。はははは、これで僕もようやく」

「セイヴ。あんたの意志は継ぐよ。絶対にこの世界をより良い世界に導いてみせる」

「頼んだよ、カズマ。それと、僕の大切な仲間達、彼らの後のことを、頼む。僕からのサービスをもう一つ残しておくよ。元々そのつもりだったしね」

「サービス?」

 彼はそのまま微笑み、消えていった

 途端に真っ白だった世界は色づき始め、元に戻って行く

「ここは」

 長閑な田舎風景

 ここがセイヴの愛した土地か

 美しい景色が広がっている


 この日、一人の世界を思っていた男が消え、そして世界の平和への道筋が照らされた

「セイヴ、俺はあんたを救えたのか?」

 それは誰にもわからない

 だが、彼の最後に残した笑顔が、彼が救われた証拠だと思いたい

 そして

「驚いたぞ。これが奴の言っていたサービスとやらかのぉ」

 セイヴの置き土産なのか、消えた国も、人も、元に戻っていた

 自分達が消されたという記憶は残っていなかったが、消えた二つの国は再び地図に戻って来たのだ

 だがこれだけではなかった

「王たちが戻って来た!?」

「ええ、どうやら彼らはどこか別の世界で囚われていただけのようでして、全員無事に戻ってきました。さらにはラフィナ女王様の両親や王兄まで」

 どういう理屈か分からないが、自分が原因で犠牲になった人達を甦らせたのだろうか?

 そして最後に

「姉様?」

 ルカがなにかの気配を察知して俺を使って転移する

 そこはフェンリナイトの会議室

 王達が集っている中のこと

 空間に突然穴が開き、そこから人型の神獣が四人飛び出してきた

「叔父上、伯母上、それに、姉上まで」

「む、ティア。これは一体。俺たちはお前に取り込まれていたはずでは? 一度力となれば戻れぬはずなのに、なぜ」

「確かにわしの中から叔父上たちの力が消えております。恐らくセイヴの力でしょうな」

「セイヴの?」

 俺は事の顛末をその四人、そして王たちに話して聞かせた

 セイヴの目的は果たされず、世界の改変はならなかったが、セイヴの願いは受け継がれるだろう

 本当に優しい勇者セイヴ。彼の名は、これからも残るはずだ


 それから数年後

「それじゃあ行ってくるよ」

「うむ、しっかり稼いでくるのじゃぞ。子供達も待っておるからの」

「旦那様、準備出来たぞ」

「む、これファンファン! お前は身重なのじゃから留守番じゃ馬鹿者」

「えーでもー」

「えーではない!」

 妻たちの微笑ましいやり取りを見る

「カズマさん、はいこれ、お弁当」

「ありがとうレナ」

 三人の妻とはそれぞれ子供もでき、俺は割と大家族の大黒柱となった

 今は街に住み、鍛冶屋や武器屋、素材屋、錬金アイテム屋を兼ねた店を経営している

 経営なんてよくわからないが、アネモネが優秀なため何とか開店までこぎつけたってわけだ

 あれからセイヴの仲間だった奴らは、異世界のものは元の世界へと帰り、白い子供達はまとめてフォウさんが引き取った

 彼女の母性のおかげか、全員が懐いているようで何よりだ

 やはり子供は幸せでなくちゃな

 世界には未だに危険な魔物が出たり、ヒト間での争いも少しはある

 だけど、ゆっくりと、歩くような速さで、本当の平和へと向かっている

 俺はセイヴとの約束をいつも胸に、これからも生きて行くだろう


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