祭りが終わり、私たちは明日、王都に帰る。
楽しかったなぁ。
初日はアルが飲まされすぎて酔いつぶれてしまって。
あの後もまた外には出たけれど、そこでもまたいろんな人に祝われていた。
彼の容姿は目立つ。
だから町の人たちは皆アルの事を知っていて、だから皆から祝われたんだろうな。
それはそれで大変だったけど。毎日お酒を飲まされたアルは、
「しばらく酒はいいかな」
と、苦笑して言っていた。
服など大きな荷物は今日の昼まとめて送ったので、今ある荷物はごくわずかだ。
明日には帰るのか、と思うと夢から覚めた時のような、一抹の寂しさを覚えてしまう。
お風呂の後、荷物をある程度まとめ、ひと息ついて扉を見つめる。
アルの部屋と繋がる扉を。
起きてるかな。
もう明日には帰るけど……どうしよう。
帰ったらまたしばらく会えない時間が続くのよね。そう思うと寂しさを感じてしまう。
私は立ち上がって、アルの部屋に繋がる扉を叩いた。
この間もそうだったけど、今日も返事がない。
ちなみにここに来て彼の部屋を訪れたのは、あの日だけだ。
つまりあの日以来、私は彼と一緒に寝ていない。
アルもこの扉をくぐってくることはなかったし、一緒に寝たい、と言うこともなかったから。
今夜で最後だしな……今日くらいは一緒に寝たいな。
そう思い、私は扉を叩いたんだけど。
なんで返事がないのかな。
この間はたしかベッドで寝ていたよね。まさか今回も?
私はそっと扉を開き、部屋の中を覗く。
人の気配はない。
中に入って探したけれど、やっぱりいなかった。
あれ、お風呂、かな。うーん、どうしよう。
……
…………
私はベッドの横に立って、空の布団を見つめる。
「この布団で寝ていたら驚くかな」
そう、腕を組んで考える。いつもいつもしてやられてばかりなのでたまには私の方から仕掛けたい。
いっそのこと服脱いで待ってる?
……違うわね、それはやりすぎ。
どうしよう……とりあえず、布団の中で待ってみることにしようかな。
そう決めて、私はベッドに乗り、布団をめくる。
驚かせられるかな。
驚いてくれたらいいけど、そううまくはいかないかなぁ。
そう思いつつ、私は布団を頭まで被って彼が戻るのをひたすら待った。
どれくらい経っただろうか。
ちょっとうとうとし始めたとき、物音にハッとする。
扉が開いてしまる音に続いて、足音が近づいてくる。
私はドキドキしながらそのときを待つ。
足音で今どこに彼がいるのか考えそして、私はばっと、布団を剥いで起き上がった。
「アル」
「……!」
私の視界に入ったのは、ベッドの横に立つ驚きの顔をした彼の姿だった。
よし、勝った気がする。
ひとり内心喜んでいると、彼は笑顔になりそして、私の肩に手を触れる。
「俺が戻るのを、待っていたの?」
そして彼は、ゆっくりと私を押し倒し、覆いかぶさってくる。
「え、えーと、えぇ。そう、だけど」
妙にドキドキしながら、私はアルの顔を見つめた。
いや、そのつもりでベッドの中で待っていたけれど、いざそういう場面に出くわすと緊張で訳が分からなくなってしまう。
いつも流されてばかりで嫌だから、私から行こうって思ったのに。
ええい、どうにでもなれ。
私は彼の首に腕を絡めて、
「だって、明日で帰るでしょう? そうしたらまた、会えなくなってしまうから」
と、できるだけ甘えた声で言った。
うぅ、恥ずかしい。けれどここで負けてはいられない。
「あぁ、そうだね。でも、本当にいいの?」
言いながらも、彼は私が着ている寝間着のボタンに手をかける。
「結婚前なのに」
「今さらでしょう? 私を離さないように、繋ぎ止めたいんじゃないの?」
そう私が言うと、彼はにやっと笑い、頷いた。
「えぇ。心も体も全部、俺に繋ぎ止めたいって思ってる」
「ならいいでしょう? 私は貴方に繋ぎ止められたいんだから」
言いながら、身体中が熱くなってくる。
アルはうっとりとした顔になり、
「愛しているよ、パトリシア」
と、低く甘い声で言い、顔を近づけてきた。
触れるだけの口づけを繰り返した後、舌が絡まり合う。
このままずっと繋がっていたいな。
そう思えるほど今の私は幸せを感じている。
キスの後、彼の顔に触れ私は吐息をついてから言った。
「その目の怪我を見たとき、本当に怖かったし、会えない時間が不安だったから。だから絶対に私の所に帰ってきてね」
すると、彼は私の手に自分の手を重ね、目を細めて言った。
「えぇ、もちろん。貴方のために必ず俺は帰ってくるから」
心も身体も繋がってずっと一緒に。
私たちは口付けを交わして、そのまま共に夜を過ごした。
終