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12-5






「私が一緒に行動している男性が……」



 言いかけて、エレナさんの顔の下に目がいった。

 器とスプーンをワンセットにして、重ねられている。三つ分。ロジェさんは今さっき食べに行ったところっぽい事を考えると。ソーニャとカジキとエレナさんが食べた分なのでは。



「それって、ここにいたもう一人が食べた分入ってますか?」

「え? はい、お二人分持ってきてくださったんです。彼はまだ食べていますけど、時間がかかるので先に洗おうかと思っていたので……助かりました」



 思った通り、二人の分だった。食べ終わったカジキがソーニャから回収して持って来てくれたんだろう。

 それが判明すると、エレナさんが覗き込むように前のめりになる。私が持ってきた器や、ロジェさんが用意してくれた水の入ったボウルを見ているみたいだった。



「……拭く布、持って来ますね」



 そこに用意された物を見て、エレナさんは察してくれたみたいで口元を緩めて言ったあと、器たちを置いて踵を返した。申し訳なさそうに眉は下がっていたけど、互いに気遣い合って譲り合う──なんていうのは避けたかったので有り難い。



  言葉通り、エレナさんは食器を拭くのに使えそうな乾いた布を持って戻ってきた。戻るや否や、洗っていた分を拭き始める。

 丁寧についた水気を拭き取っていっていた。私はその速度に負けないように、洗っていく。



 追いつかれない程度に洗っていって、洗い終わるとエレナさんはほとんど拭き終わっていた。私が置いた最後のものを拭いている。



「拭き終わった分、どこか置く場所って決まってますか?」

「部屋なのでそこに置いておいたままで良いですよ。お気遣いありがとうございます」



 変わらないゆったりとした優しい口調で言われて「部屋まで運びます」とは押し切る気持ちが失せる。



──お陰でお腹も満足したし、部屋に戻ろうかな。



 食事も終わって、今はもう一階でする事が思いつかないから部屋に戻ろうかと思ったけど。

 良くしてくれたこの二人は明日は早々に発つんだろうか。と。ふと気になった。



「二人は明日は雨が上がっていたらすぐに出発してしまうんですか?」

「そうですね。晴れていなくても……小雨であれば明け方には出発するかもしれません」

「……そう、ですか」



 二人は雨が弱まれば明日の早朝には発ってしまうらしい。早朝となると、出て行った事も分からないかもしれない。それどころか、小雨でも出発するという事は雨の具合によっては今日出発してもおかしくはないという事だ。



 となると、一階に降りてくるタイミングによってはお別れか。出来るだけ降りるようにすれば、もう一回くらいは会えるだろうか。

 ここまで良くしてくれた二人だ。せめて見送りくらいはしたい気持ちだ。



「お二人もお急ぎですもんね」

「急ぎという程急ぎでもないですが……そうですね。危ないので馬を急がせるつもりはないですが、野菜なので」



 そりゃあそうだ。

 日持ちのする野菜とはいえ、人に渡すものだ。早く渡したいだろう。私たちは馬車も小さいし、雨だけでなくソーニャも休ませてあげたいので小雨になったところで出発は出来ない。


 二人とはその辺りがどうしても違ってしまう。だからって、引き留めようとまでは思わないけど。



「……私たちは今日一日はいると思うので、何か人手がいるような事があれば呼んでください」



──私が言えるとしたらこのくらいかな。



「ありがとうございます。ではその時はお願いします」



 エレナさんは、目を丸くしてこちらを少し見たけど、柔和に微笑んでくれた。そんな彼女を見てから二階へと上がる。二階の私たちが泊まっている部屋に入ると、ソーニャはもちろんいるしカジキもやっぱりいた。



 食べて少し回復したのかソーニャはベッドに座っていて、カジキは手の平を枕にして横になっていた。



「ソーニャ、体調はどう?」

「完全復活! ……じゃないけど、良くなってきたよ。むしろずっとベッドの上だったから少し歩き回りたいかも」



 いつもの元気なソーニャの顔が出てきている。最初よりは大分回復したらしい。本人も言うように完全に回復した様子ではなさそうだけど。

 でも、今ならあの二人の事を話しても良さそう。歩き回りたいなら余計に。



「実はね、さっきのスープなんだけど……」

「あ! 美味しかったよ、本当にありがとう! でもあんなにお野菜たくさんどうしたの?」



 持ってきた時は出来なかったスープの話をすると、ソーニャは前のめりになって話し始めた。嬉しかったのと美味しかったのが十二分に伝わってくる。



「うん、それなんだけど。実は、もう一組ここに泊まってる人たちがスープを分けてくれたの」

「……そうだったの?」

「二人とも良い人だったよ。まだ一階にいると思うから、部屋の外に行くなら」



 そこまで言ったところで、ソーニャはベッドから飛び降りた。そのまま玄関の方まで駆け足で向かって行く。



「わたし、二人とお話してくるね」



 体調が回復してきていて、気持ち的には元気が溢れてきて仕方がないんだろう。私が提案するより早く、一階にいるだろう二人と話に部屋を出ていってしまった。これなら明日には元気な姿が見られるかもしれない。



「あとは、雨……かなぁ」



 天候はどうしようもない。仮に水の魔石に対応している人が何百人いようと、操れるものではないだろう。



 ただただ、明日までには晴れる事を願うしかなかった。



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