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第36話 存在②〜side秋斗〜

その日から1週間、怒っているのか?と様子見しながら送ったメッセージの数々。

それには怒った様子などなく、いつも通りの業務連絡のような返事がきちんと返ってきた。

怒っているわけじゃ、ないのか?

まぁ、明日、月曜だ。会って、ちゃんと、話してみよう。

陽向が何を考えているのか、聞いてみよう……。

そうすれば、俺のこのもやもやも……。


「おーい、秋斗!」

びくっ!と身体が震えた。やべ、仕事中だ。

閉店作業中とはいえ、ぼーっとしすぎだ、俺。

「な、なんですか?」

高橋さんがiPadを操作しながら話しかけてきた。


「あのさー、やっぱ、厨房の冷房が様子おかしくてさぁ。明日、午前中に業者に修理にきてもらうことになったんだわ。ついでに、ホール側のも点検してもらおうかなと思って。んで、ちょうど明日夜も予約入ってないから、オーナーにもOKもらって臨時休業になりましたーー!だから、明日、明後日2連休でーす!」

「あっ、そ、そうなんですね……了解です」

洗い終わりのダスターを干そうとしていると、にやにやと高橋さんが近づいてきた。

なんか……嫌な予感。


「なぁ?お前、ケーキビュッフェ、行ったのか?ん?」

「あ、はい、先々週、行ってきました」

そう伝えると、ばっ!!っと手に持っていたダスターを取り上げられた。え?意味わからねー。


「っおい!!!お前アホか!?なら、なんでちゃんと報告しねーんだ!?はぁ!?」

「いや、別に仕事中は、そんなん話すことでも無いですし、なんなら普段、仕事の話しかほぼしないじゃないですか」


はぁぁぁーーーー。

っと高橋さんはわざとらしいため息をついて、よろよろと壁にもたれかかる。

「はぁ、お前さぁ…………っあ!そうだ!てことは、明日暇だよな!?」

「え?ん、まぁ、18時までなら……」

再びにやにやした顔で高橋さんが近づいてきた。本当に気持ち悪い。

「へぇー、18時からはおデートかい?……んまぁ、よし!明日、約束のジム&飯行こうぜ!んで、秋斗くんのお悩み相談のってやるわ!」

「え?いいんですか?ってか、デートなんかじゃ、ないですし、お悩みなんて、ないですけどね」


前の口約束など、社交辞令ですっかり忘れていると思っていた。ちゃんと覚えていたんだ。意外……。

「んじゃ、まぁ、細かいことは明日、じっくり、な。

11時に花◯の南口でいいか?そっちに俺が行ってるジムあるからさ。そこ、サウナもあって整うぞー!デート前に筋肉も肌も最高にしていけるなぁ!」


相変わらずいやらしい顔をしながら俺の顔や二の腕をベタベタ触ってくる。ウザい。

本当、この人、仕事以外では全く尊敬できない人間だ。クラスなんかにいたら1番嫌いなタイプだろう。


「……っ、その、ニヤけた顔、どうにかしてもらえませんか?だから、デートじゃないですから。」

「ん?って、結局セックスすんだろ?筋肉も肌も良いに越したこたないだろ!」

「……っ!おいっ!!!」

まぁまぁデカい声でセックスなんて、良く平気で言えるな。

先輩だの年上だの関係ない。口を思い切り手のひらで塞いだ。

「へっへっへっ、明日楽しみだわー!んじゃ、キリいいとこで上がれよー?お疲れーい」

散々人の反応を楽しんでおいて、何事も無かったかのようにひらひらっと手を振って、厨房へと消えていった。

マジ、苦手だわ。俺とは真逆の世界の人間すぎる……。


そうだ、明日、休みになったこと、陽向に言っておくか……?いや、でもあいつは18時まで仕事だろうから、俺の仕事なんか、関係ないか……。18時過ぎにいつも通り会えたらいい。

あいつのことだから、せっかくの休みなのに!18時まで待たせちゃうの申し訳ないです!とか言い始めそうだからな……。



一つ大きく深呼吸して、

カウンターの上に放り投げられたままになっていたダスターを手に取り、仕事の続きに集中することにした。





これが、俺と、陽向の歯車が完全にズレてしまう原因になるだなんて……

この時の俺は知るはずもなかった。


 ただ、このまま毎週、いや、もっと、多く、陽向に会うにはどうすれば良いのか……

 俺にとって、陽向は一体どういう存在なのか……、

 その時の俺は、陽向へ湧き上がってくる、この気持ちの名前を必死に探していた。






「っはぁーー、ジム&サウナの後のサラダは痺れるねぇー」

何個も並べられた木のボウルに並々と入っている野菜をむしゃむしゃと食べながら高橋さんは満足そうだ。

「え……俺は普通に焼肉とか食べたいですけどねぇ」

陽向に会える月曜日の昼間。

約束通り、高橋さんとジムへ行き、1時間近くトレーニングをした後、サウナで整って

さぁ、がっつり昼ごはん奢ってもらおう!

と考えていたら『駅中の人気のサラダの専門店、調査に付き合え』とここ最近、女性を中心に人気爆発しているらしいサラダの専門店へと連れていかれた。

確かに俺も気になってはいたが、トレーニング後にサラダ?全然腹が満たされないだろ……。


 淡いグリーンで統一された、綺麗な店内。野菜しか無いのかと思ったら、チキンや、サーモンなど様々なトッピングがあり、ドレッシングも何種類もあって、自分好みにセレクトできるようだ。

 さすが、調査というだけあって、1人で5種類のサラダを注文して、レジの店員の女の笑顔は引き攣りまくっていた。俺も2種類のサラダをチキン増し増しで注文した。

「さぁて、秋斗ちゃん?全部聞き出しちゃうぞー」

フォークに刺さったトマトを頬張りながらニヤニヤ顔を近づけてきた。この顔、本当に気持ち悪い。

「……んで?どうだったんだよ?ケーキデート!」

「デ、デート!?いや、普通に、食べに行っただけです。んで、ケーキ食べて、ショップふらふら寄って、解散でした。」

あ……あの時のピンクゴールドのピアス……まだ渡せずに玄関のシューズボックスの上に置いたままだ。マジであれ、どうしよう……。本気で返品しに行くか……でもあの駅までなかなか用事ないんだよな。


「んで?相手の子は?喜んでたか?……ってまさかそのまま解散したわけじゃないだろ?チューやらそのままホテルやらの王道コース行ったのか?やっぱりデートの後はキスもエッチも盛り上がったろー??」

「は?……いや、普通に駅で解散ですけど……」

ゴホッッゴホッ、ゴホッ!!高橋さんはサラダのドレッシングで咽せたのか、激しく咳をした。


「はぁ!?せっかくの初の昼デートしたのに!?はぁ!?意味わかんねぇ、お前。相手が何か?生理中とかだったとか?」

何を言われているのか、一瞬わからなかった。女としたことなんて無いから。

あぁ、高橋さんは俺がゲイ、陽向が男って、知らないんだっけ。


「……?あぁ、そういうの、関係ないです、相手、男なんで。」

「……!?男!?お前、そっちだったんだ?まぁ、うん、わかるっちゃわかるし、大して驚かないもんだな、うん。……って、男なら、なおさらデートの後のセックスはセットなんじゃないのか?その身体なら、お前が抱く側なんだろ……ってか本当秋斗、着痩せするよな?結構いい筋肉ついてるよなー。」

さわさわと腕の筋肉を確かめるように触られた。


「いや、俺は大して……。スポーツもやってないですし。てか、料理人の筋肉もとんでもないじゃないですか。

……、そういえば、昼に会ったら、相手の気持ちわかるって言ってましたけど……結局、何もわかんなかったんですけど」

「は?……デート嬉しそうにしてくれてたんだろ?……んで、わかんねぇの?馬鹿じゃね?お前? 別れる時にでもデート楽しかった?って聞いて、チューでもしたら相手が自分の事好きかどうかなんて100パーわかんだろ?

 てかさ、お前はどうなんだよ。相手の男、宙ぶらりんでこのままキープしとく感じなわけ?はっきりさせないわけ?」

ひとつめのサラダボウルが空になる。いや、結構サラダってお腹膨れるもんなんだな……。

「俺……俺は?いや、キープとか、そんなつもりじゃないし、でも、どうしたいのか……いや、わからなくて」


「でもな、お前がはっきりしないで、ずるずるセックスだけしてたら、相手は、このままずっと身体だけしか求められないんだー。って離れていくのも時間の問題だぞ? 好きならちゃんと伝えてやんねーと。 相手の子は身体だけの関係なんて嫌だし、お前と付き合いたいからデートも喜んで来て、毎日連絡も絶やさずしてくれてんじゃねぇの?……」


付き合う?誰が?陽向が?

付き合いたい?俺と?え?

そうなのか?いや待て、

それより、

好き?誰が?

俺が?俺が……陽向を好き?は?

一気に頭の中が混乱した。

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