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第37話 存在③〜side秋斗〜

「俺……陽向のこと、好き……?なんで、すか、ね?」

「はぁぁぁぁー???俺に聞くわけ?それ!

恋愛無経験病の重症患者だわ、お前。んじゃ、俺が診断してやる。その代わり、ちゃんとひなた?ひなたくんとのこと、報告しろよ?わかったな?……」

 ニヤニヤと楽しそうなエセ医者に、よくわからない診断名を告げられた。

 いや、俺が、陽向を好き?

 俺、……そうなのか?

好き……好き?……好きって、なんだ……?


高橋さんは3つめの空になったサラダボウルを重ねていく。

「質問1、ひなたくんの事1日中考えてる?」

「いや、仕事中は別に……」

「て、ことは仕事中以外はずっと考えてるってことな。はい、次の質問、ひなたくんに無性に会いたくてたまらない」

「……た、たまに、思ったり……」

 先週の仕事後につい呼び出してしまったことを思い出した。あれは我ながら、どうかしてると思った。

でも、あんな遅くにでも来てくれた。それは、陽向が……俺の事……好きだから、なのか?陽向も、会いたいと、思ってくれていたのか?


「質問3、ひなたくんの笑顔が見たーい!ひなたくんに会うと胸がきゅんってなるー!?」


カランカラン……

「……っ!?陽向!?」

ふと鳴った、入り口のドアベルの方を見ると、

ふらふらとして出ていく陽向らしきシルエットが見えた気がした。

ガタッ!と椅子が鈍い音を立てる。

「っお、おい、どうしたんだよ、急に?」

いや、見間違いだ。高橋さんが陽向について変な事をいうから……陽向は今、仕事中だろう。

アホか、俺。

椅子の位置を元に戻して、座り直す。

「い、いや、陽向がいた、気がして……」

「あらま、ついに幻覚まで見え始めたんですねー。はい、重症っと。……んで?笑顔や胸キュンの質問の答えは?」


見間違いをしたなど、恥ずかしすぎて大きめにカットされたアボカドを口の中に思い切り突っ込む。

「……笑顔は、みたい。でも、あいつ、泣いてばっかだから……どーすりゃ、笑うのか……って」


「ん?その、泣かしてんのは誰なんだかね?……んまぁ、いいや。はい、診断結果……倉橋秋斗さん、あなたのひなたくん好き度は100%です!!お大事にー!」


100%!?俺は……陽向を、好き?



その後も高橋さんに色々とからかいのネタにされていたが、何を話していたのか、

ほとんど覚えていない。

そうなのか、俺、陽向を、好きなのか……。


でも、これから先はどうすればいいんだ?

好きだと言えばいいのか?

そうすれば、恋人に、なるのか?

付き合うのか?

いや待て、

俺らにはまず、条件がある。

それを一旦話し合わないといけないんじゃないか?

俺から出した条件を、俺から破るなんて。


陽向はどう、思うのだろう。





サラダを食べ終えた後、高橋さんの買い出しに付き合わされて、解放されたのは16時をすぎていた。

 調理器具やら、よくわからない調味料やら……。高橋さんは冷房が復活したらしい店にこれから向かって、明日の仕込みをするらしい。 本当、尊敬する。まぁ、料理に関する部分以外は変な人間だけどな……。


 高橋さんと別れてから、駅中の本屋をぶらぶらする。

 目に入ったワインの本……勉強のためにも、買って読んでみるか……。その本を手に取ったとたん、ぐーーとお腹が鳴る。

やっぱりサラダだけじゃ、腹がすぐに減ってきた。なんか、ラーメンでも食べようかな。


買ったばかりの本をショルダーバッグにねじこみ、南口にある大学生に人気のラーメン屋で味噌ラーメンと、半チャーハンを頼む。

 仕事後でお腹をすかせている陽向のために、ネギチャーシュー丼と杏仁豆腐をテイクアウトで頼んだ。

あいつ、本当美味そうに食べるよな……。喜ぶかな、これ。

 店員から渡された袋に、スプーンが付いている事を確認してから、店を出た。

 やべ、もうすぐ18時だ。東口に行かないと。

HARE caffeの前を急いで通り過ぎる。うっかり店の中を覗いたりしたら、本当にヤバいやつだから。

 あぁ、早く、早く陽向に会いたい。

 俺が、「条件変えたい。陽向の事を好きになってしまった」と伝えたら、あいつは笑ってくれるだろうか……?

もう……陽向の泣く顔は見たく無い。

こんなに足取りが軽いのは、初めてだ。

あいつに会えると思うと……なんだか、身体が飛びそうなほど、軽くなる。


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