「陽向!!!な、なんで?え?どうして!?……いつからいるんだよ、こんな寒い中!」
もこもこのマフラーで顔の半分を包んでいて、綺麗な目とサラサラの髪の毛しか見えない。
相当寒かったんだろう。
陽向に触れた所から一気に俺の体温が吸い取られていく。
その冷え切った身体をごしごしと擦って温める。
「ごめんなさい。30日まで、会えないって、言ってたのに。こんな、お仕事の、邪魔してしまって……」
「いや、邪魔なんかじゃない。そんなわけない!……でも、こんな寒い中で待ってないでくれ。一言連絡くれたら、終わる時間伝えるし、急な用事なら、仕事終わった後、陽向ん家寄っていくし」
もぞもぞと腕の中で動く、愛おしい存在をさらに抱きしめる。もこもことしたマフラーに顔を突っ込んで、陽向の匂いを思い切り堪能する。
吸い込んだ瞬間、身体に栄養が行き渡るかのように、陽向の香りが俺の中に充満する。
すげえ……
疲れ、ふっとんだわ。
陽向パワーすげぇわ。
「あの……、クリスマスだから……えっと、初めて、イベ、イベントだし、あの、何か、疲れが取れるの、と思って…………いや、でも、本当に、迷惑かけるつもりじゃなくて……」
「ん?クリスマスだもんな、今日。……ごめん、一緒にいられなくて」
胸元ですりすりと頬を擦り付けられ、危うく理性が吹っ飛びそうになる。
「……あの、お仕事終わってからで、大丈夫、です!だから、俺のことは気にせず、お仕事戻って下さい。秋斗さんに少し会えただけで、一気にポカポカになっちゃいましたっ。へへっ」
ぐっと胸を押され、ふわっと笑う陽向。
口元が見えなくても、優しい笑顔を向けてくれることがわかる。
やべぇ、今すぐ、陽向とこのまま帰りたい。
本能と、仕事中だという理性とが頭の中で激しくぶつかり合っている。
「いや、もう、マッハで終わらしてくるからさ、あの、とりあえず、中入れよ。あったかいドリンクとか……」
陽向の肘を掴み、従業員入り口まで連れて行こうとした時……
「ダメだね!!!」
は……?
パンっとよく通る声が辺りに響いた。
「遅いから、変なことになってねーかって見にきたら……まさかの……」
フェンスの所で腕を組んで、偉そうに立っている男の声だった。店の従業員入り口を照らすライトの逆光で顔は見えないが、その声と出立ちで誰だかすぐにわかった。
「高橋さん?あの、すみません、陽向、俺のこと、待ってくれてました……だから、中に……」
「だから!ダメだって!!!」
「は!?」
さっきは中に入れろって言ったくせに?
頭にぐらっと血が上るのがわかった。
そんな俺なんて構いもせず、高橋さんは俺と陽向の方へと向かってくる。
「……あ、ご、ごめん、なさいっ、あの、め、めい……」
「あのさ、ひなたくんだっけ?」
高橋さんは陽向と俺の間にずいっと遠慮なく入り込んできた。
本当この人のこういう所、どうにかして欲しい。
「ちょ、高橋さん、やめて下さい!どういうつもりですか?陽向から離れ……」
「うるせ、お前は下がってろ。店入っとけ。こーいう奴にはガツっと言ってやんねぇと!」
すごい剣幕で睨まれながら肩で肩を押された。
料理人の力の半端なさをこんな所で発揮してきやがる。
「は!?陽向になにするつもりだ!?」
「……え、あ、じゃま、するつもりじゃ、な、なくて……
」
「いーから秋斗は黙っとけ!!」
3人の声が同時に重なって、誰が何を言ったのか俺たち誰もわかってなかったはずだ。
俺は高橋さんが陽向に顔を近づけて、なぜかケンカ腰でつっかかるのを腕を引っ張って必死で止めようとした。