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第84話 初めての④〜side陽向〜

この声は、さっきの……

その声の主と秋斗さんが何やら言い合い始めてしまった。

う、うわぁ、

ど、どうしよう……きっと、俺の、せいだよね?


2人の間を覗き込むようにして、声をかけた。

「……あ、ご、ごめん、なさいっ、あの、め、めい……」

「あのさ、ひなたくんだっけ?」


さっきの従業員の方が俺の顔の目の前に、目鼻立ちがきりっと綺麗に整った顔をずいっと近づけてきた。

美、美人?……は男性には失礼だよな?イケメン?でいいのかな?

韓国ドラマの俳優さんで出てきそうな整った顔だ。


「ちょ、高橋さん、やめて下さい!どういうつもりですか?陽向から離れ……」

「うるせ、お前は下がってろ。店入っとけ。こーいう奴にはガツっと言ってやんねぇと!」


高橋さん……、

あれ、高橋、さん?


高橋さん……聞いた事ある……

…………!!!

そうだ、あの、告白した日、秋斗さんが吐きそうって言ってた時の……

俺が、勝手にデートしていると勘違いしてしまってた人……

あの時は横顔だけだったから……

そっか、そうだよ、秋斗さんの上司さんだ!!


そんな事を思い出しているうちに、秋斗さんがどんっ!!

と地面に尻もちをついてしまった!

秋斗さんっ!!!

助けないとっ!

一歩踏み出そうとした進行方向を

綺麗な顔面に塞がれてしまった。


「ふーん、まぁ、女と間違うくれー綺麗な顔してんな。みんな惚れるわけだ。それは認めるわ。でもよ?ひなたくん。それ武器にしてんだか?何目的かわかんねーけどよ、あっちこっちで、男たぶらかしてんのは、お兄さん、ちょっとどーかと思うわけよ。うちの大事な従業員と、お客様、股かけられて、店全体が巻き込まれるのは超迷惑なんでね、今後、うち出禁にするから。二度とこないでくれる?」


「……っえ……た、たぶ、え?で、きん?……?」


え?

……お、おれ?俺のこと?

たぶらかすとか……できん……って出禁?

お店を巻き込んでしまってる?

だから、

お店に来るなって、こと?

え……、

俺、やっぱり、秋斗さんと付き合えないって……事?

で、でもっ、お客様って?

そんな事、身に覚えないけど……た、たぶらかすだなんて、そんな事、した事ないし。

誰かと、間違えてない……?


ぐるぐるぐるぐると一生懸命脳みそを動かしているが、

何がなんだか、わからない。

何を言われたの?俺?

とりあえず、俺は、帰った方が良い?

でも、もし、高橋さんが何かを誤解しているのなら、誤解をきちんと解かないとっ……。


一歩、高橋さんに近づいていこうとすると、

それを阻むかのように

ぐっと立ち上がった秋斗さんが、俺の前に立ち塞がりその逞しい背中で高橋さんが見えなくなった。

その途端、秋斗さんが急に頭を深く下げた。


「っ高橋さん、すみません、俺が、俺が悪いっす」

「なぁ、未練あんのはわかるけどさ、やめときな。地獄だぞ?何股ってさ……こんな恋愛ごっこのために俺、秋斗にアドバイスしてたわけじゃねーぞ?」


えっと、まずは、何故かずっと喧嘩腰の2人をまず止めないと。

そっと秋斗さんが握ってくれた手を、解こうとすると、

ぎゅっと強く握られた。



「俺たち、付き合ってるんです。」


え……。

秋斗さん?

い、言っちゃった……。

大丈夫……なの……?

「だーかーら!!それがたぶらかされてるってんだろ?」


と高橋さんは呆れたような顔でいつ取り出したのか、電子タバコの細い煙を空へ向かって吐き出した。

たぶらかすって、どういう意味だっけ?

だましたりするってことだよね?そんな事……俺。

秋斗さんをたぶらかしてるように、見えてるのかな……高橋さん。

仕事にまっすぐだった秋斗さんを、俺が好きになってしまったから……?

月曜日会いたいって言ってたから?

お店にとっては、やっぱり迷惑をかけていたのかもしれない。


「違うんです!俺ら、色々と勘違いしていて……その、高橋さんにも迷惑かけてしまったのは、申し訳なかったです。でも、山本様と陽向も、その日に会ったばっかで、たまたま来ただけで……」


そんな俺の考えを見抜いたかのように、秋斗さんが否定してくれる。

そうだ……山本さん。

そっか、高橋さんは、もしかして、俺が秋斗さんと、山本さん、2人と関係がある?と勘違いしてしまっている?

それなら、たぶらかすとか、出禁とか言われたことに辻褄があう。


そうだよね、事情をしらなかったら、

そうなるよね。

山本さんと、お店に来ておいて、今度は秋斗さんを待ってたりして……。

俺たちのこと知らない人からしたら、おかしな行動に見えたのかもしれない。

それでも

秋斗さんは、俺のことを否定することなく、高橋さんから守ろうとしてくれてるんだ。

俺も、俺も!秋斗さんを支える男になりたい!

守られるだけなんて、人に迷惑をかける存在になんて、なりたくないっ!!

言わなきゃ、言わなきゃ!!


「あ、あのっ、……全部俺の、せいなんですっ!!」

喧嘩口調の2人に負けないように、大きな声を振り絞った。

はぁっ……

緊張と、興奮とで、息をすうのが苦しい。

口まで隠していたマフラーを緩めた。

もう一度大きく息を吸う。

「あの、秋斗さんに、彼氏さんがいるって、勝手に勘違いして、さよならして、会わないって勝手に、決めて、でも、ずっと秋斗さんが好きで!……それで、山本さんには、この辛い好きな気持ちをどうにかして聞いて欲しくて、それで、あの日、お会いしたんです。お店に行ったのは、本当にたまたまで、秋斗さんが、いるなんて、びっくりしすぎて……っあの、俺、やっぱり、秋斗さんのこと、好きで好きで……。高橋さんにまで、ご迷惑をお掛けしてしまっていたこと、本当にすみませんでした。……でも、お、おれ!弱みとか、そのっ、た、っぶ、らかすとか!そんなこと、決してないです!!俺、秋斗さんだけが、好きで、あの、初めても、全部、あの、えっと、えっ、な、なに言ってるんだ、俺……だ、だから」


変な汗が全身をじわじわと湿らせていく。

わかって、もらえただろうか……

俺、本気で秋斗さんが好きなこと。

でも、俺の優柔不断なせいで、高橋さんやお店にまで迷惑をかけてしまっていたこと……

知らなかった……。


俺、最低だ。


ぎゅっとさらに強く手を握られた。

手のひらから、大丈夫だよ、と言ってもらえている気がする。

「俺も、陽向が好きって気持ち、高橋さんに気がつかせてもらえたこと、感謝してます。俺が人に無関心だったばかりに、陽向だけでなく、高橋さんにまで、迷惑かけてました。でも、これからは、陽向のために、ちゃんと生きてこうって、思ってます。だから、その、認めてってのは違うんですけど、その、俺らは遠回りしすぎたけど、ちゃんと、気持ち一緒で……」


秋斗さんのまっすぐな気持ちに、胸がぎゅっっと締め付けられる。

秋斗さん……、

もう、このまま思いきり抱きつきたくなってしまった。


ガチャン!!

突然フェンスの取手の金具がぶつかり大きな音が鳴って身体が跳ね上がる。


え……?

高橋さん……?

怒ったままお店、戻ってしまう?

どうしよう……どうしよう!


怖くなって秋斗さんを見ると、

秋斗さんはうん、とひとつ頷いてくれた。

大丈夫……なのかな?


「ぶっ……っ!はははっ!!似た者同士でお似合いだぜーお前さん達。!」


え……?


「俺にノロケ大会してどーすんだか!ま……、2人がちゃんとわかりあってんなら、いーんじゃねーの?まぁ、秋斗の最近のにまにまだらしねー顔見て、わかってはいたけどよ?一応、俺も巻き込まれたのに、なーーーんも報告してもこねぇ秋斗へのイジワルだ!ひなたくんが本当にビッチなのかはとりあえずカマかけさせてもらったけどさ。ひなたくん!イジワルしちゃってごめんねーぇ! ほい、いつまでもノロケあってねーで、早く中入れ。秋斗はとっとと仕事しやがれ!」


あははっ!あーーおもれー!!

と笑い声を残しながら高橋さんは店のドアをガチャッと閉めた。


俺たち2人と、電子タバコの焼けた匂いだけがその場に残された。



え、

えっと……?

ど、どーいうこと、かな?

大丈夫……なの、かな?


はぁーーー。

隣の秋斗さんがあまりに大きなため息をついた。


「ごめん、陽向。あーいう人なんだよ、高橋さん。ほら、前、陽向が彼氏疑惑?とかで高橋さんの事言ってたとき、ゲロ吐きそーって言ってた意味、わかってくれた?」


えっと、じゃあ、高橋さんは……

色々とわかってて、あんな感じで俺たちに、言ってきたって……事で、いいん、だよね?


「あ、えと、す、すごい、あの、頭、良さそうな人ですね、きっと、色々、あの……」


くっそーーー!騙されたーーー!

と思ったけれど、秋斗さんの上司さんを悪くいうわけにはいかない……


「いーのいーの!性格ひんまがってんだろ?あの人。ま、あんなんで、仕事は超出来るから、無下にもできなくて、困ってんの。まぁ、その、色々、相談のってもらっちゃったのは確かだからさ。……ほら、行こう、陽向。あったかいホットチョコレートでも出すからさ。」


さっきまでのどんよりしすぎていた頭の中が

突然キラキラと輝きだす。


「ホットチョコレート!?!?わぁっ!っえ、でも、あの、待てるので、だ、大丈夫で、す!」


や、やば。

ホットチョコレートだけでテンション上がって……子どもみたいだ。……は、恥ずかしい……。

うっかりついて行きそうになった身体を元の電信柱へ戻そうとする。

それを強い力で引き止められてしまった。


「なぁ、……あのさ、……会いにきてくれて、すげー、嬉しい。」


振り向いた瞬間に、俺が欲しすぎた言葉を

秋斗さんが言ってくれて

涙が出そうになってしまった。

嬉しくて、恥ずかしくて。秋斗さんの顔をちゃんとまともに見られなかった。


「……えと、お、俺も、会えて、すごく、嬉しい、です……」


それだけを言うのが精一杯だった。

絶対に顔、真っ赤だ。

緩めていたマフラーで熱くなった顔をまた隠した。


「いこっか」

優しく腰を支えられて、従業員入口のドアを2人でくぐった。

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