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第96話 初めてを君に①〜side秋斗〜

「倉橋さんでお間違い無いでしょうか?12月30日にご依頼されておりました、商品が出来上がりましたので、お時間の宜しい日にご来店をお待ちしております」

「っ、は、はいっ!あの、今日、この後、取りに行っても、大丈夫でしょうか!?」


「はい、大丈夫ですよ。では、本日のご来店お待ちしておりますね。」

「はい、連絡、ありがとうございます!」


……やっ、た!!!

やった!!!予定より一日早く、今日3日にピアスが直ったみたいだ。

陽向は夕方に帰ってくるみたいだから、もし、夜、時間あれば、陽向の家に渡しにいけるかも。

よっしゃ、今すぐ行こう!!!


って

やべ、朝からずっと部屋着のまんまだ。

大急ぎで昼に食べたまま、テーブルに置いてあるカップ焼きそばの空き容器とポテトチップスの袋とペットボトルを片付け、

部屋着を雑に脱ぎ捨てて洗濯機に突っ込んだ。


ヒートテックと黒のパーカーを重ね着する。

年末年始は、誰に会うわけでも無いし、出かけるのはスーパーくらいで、基本家でダラダラとスウェットを着て過ごしていた。

久しぶりのジーンズの硬い生地に、気分も少しピリッとする。

髪の毛は軽くワックスをつけて毛先を跳ねさせた。

もしかしたら夜、陽向に会えるかもしんねーから、流石に変な格好ではいけねーよな。


玄関に出されたままのスニーカーに片足をつっこんだ瞬間、

ふと邪な気持ちがよぎった。



……陽向ん家、入れてもらえたら……この間の続きとかって流れに……なったり……する?

てか、タイミングさえ合えば……


陽向がOKってのに、この前みたいなことになったら嫌だから

ちょっと、準備していこ。

いや、使わなかったら、使わないで。

うん、一応。な、一応だ。


部屋に戻り

クローゼットを開けて、この間買ったばかりのゴムを2つショルダーバッグの外ポケットへ入れる。

ゴロリと転がる新品のローションボトルの隣に置いておいた、持ち運び用で買っておいた個包装されたローション。その箱を包んでいる透明なフィルムを急いで剥がす。


いや、どこで、いつ、出来るかわかんないから、とか、外で、とか、いや、そーいうんじゃなくて、ほら、彼氏として……いつでも……って、俺……、何言い訳してんだ?



って、ローション何個だ?久しぶりだし、陽向が痛がったりしないように沢山もってこ。

ガシッと掴み取り5個くらいバッグへ突っ込んだ。

ゴム、あと1個……増やそ。いや、3回もしたいとかじゃなくて、……うん、念のため念のためだ。


また、誰に対してかわからない言い訳をして、

以前抱いた時の陽向の繊細なそこを思い出して、顔が緩んでしまう。

俺、変態だわ。

いや、男なんて、みんなそーだろ。

そっとバッグのチャックを閉めた。


さ、行こう!

ピアス、綺麗に直ってるといいんだけどな。



玄関に置いてあるデジタル時計が目に入る。

今16時過ぎか……

帰ってくる頃は多分……17時過ぎるかな……

とりあえず時間はっきり読めないから、ピアス受け取ってから陽向に連絡するか。


早く、早く陽向に会いたい。

足が勝手に走り出した。


さすが正月だ。

いつもとは違って、人もまばらな駅の中を走る。

一本でも早い電車に乗っていきたいな。


あ、

陽向の働いているカフェ……


正月休みで電気も消え、ブラインドも降りた店の前を通り過ぎた。


って!!!

え!?

ちょっ!!!ちょっっ!とまれっ!



走っていたせいで

思わず通り過ぎてしまったけれど、

あんな可愛い人は、この世にあいつだけだ。

間違いない!

思い切り急ブレーキをかけて、若干つんのめった。




「陽向!!!!」


やっぱり、やっぱりだ!

驚いた様子で、俺の事をじっと見つめてくる。

可愛い、可愛い。

ああ、抱きしめたい。


「はぁ、はっ、おかえり、陽向!今帰って、来てたんだな」

「秋斗さん!ただいま、です。……すごく、急いでるけど……どこへ……?」


久しぶりに生で聞く、陽向の声。

年末年始中も数回電話してみたけれど、


俺も喋るの苦手だし、陽向も照れてしまって、

業務連絡的な、それ以外はほぼ無言の電話だった。

「へへっ、なんだか俺たち、電話はだめそうですよね、何お話していいかわかんなくなっちゃいます。秋斗さんに、実際に会って話したいなぁ。」

と言ってきた陽向と全く同じ気持ちだった。


でも無言でも、いや、無言だからこそ、耳元に陽向の息遣いが聞こえてきて、布団で寝転んで話しているだろう、そんな衣擦れの音もして

勝手に下半身が熱くなってしまった。

このまま、電話でお互いしたら……なんてエロが暴走した考えが浮かんでしまったけれど、

まだ、俺たち、付き合ってからちゃんとセックスもしていない。

ちゃんとしてから、そういうのを楽しむのが順序だろう……。

てか、今そんな事言い出したりしたら

陽向にドン引きされちまうかもしんないしな。

ただでさえ、色々順序が違っていた俺たちだからこそ、

付き合ってからは、きちんと順序良くいかないと。


まぁ、

電話を切った後に、耳に残る陽向の声をおかずにしたのは

絶対に内緒だ。





嬉しそうに、でも、少し心配した表情で陽向が後退りした。


「って、急いでますよね、じゃあ、あの、これで。

あ、そうだ!あ、あけましておめでとうございますっ、」


帰るつもり!?せっかく会えたのに!

陽向はそれでいいのかよ?


「……っ、陽向、一緒に行こう!」


思い切り陽向の腕を掴んだ。

とりあえず、帰られないように改札の中に入ってしまおう。

俺ってこんな卑怯な考えする奴だったっけ?

でも、そんだけ、陽向と一緒にいたい。

それだけが、俺を動かしていた。


「え、えっ……秋斗さん、ど、どこへ?……あ、はつもうで?」

「初詣……?ははっ、そういや、行ってないわ。いや、頼んでたもんが出来たっていうからさ、早く取りに行きたくて。……別に、時間に追われてるとかじゃないから。」


改札に入ってから、はぁ、はぁ、と切れていた息を整えて、掴んでいた陽向の腕を離す。

久しぶりの生の陽向をまじまじと見た。


ぷるっとした白い頬が、少し紅みを帯びて、赤ちゃんの人形みたいに綺麗だ。

年末に会った時の疲れた表情じゃなくなっている事にほっとした。実家でゆっくりできたんだな。

綺麗に整えられた髪は相変わらず、駅のなんてことない電気にさえ、キラキラと光って、動くたびにさらっと揺れる。

じっと俺を真っ直ぐ見てくれている薄く茶色がかった瞳には、ビー玉でも入ってるかのように、周りの景色を綺麗に反射していた。


可愛い。

どこからどう見ても、可愛い。

てか、ほんと、こんな可愛い生き物が、

今まで誰にも襲われてなかった事が奇跡だわ。

陽向、ちょっと天然入ってるから、周りからそんな目で見られてることに、気がついてなかっただけか?

それが、本当に救いだ。


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