幼い頃から、たまにこうして熱が出た。
そのたびに僕は何故か、泣きながら同じ夢を見た。
「どうして泣いてるの?」
必ず、この1人の女の子に話しかけられる。
「な、泣いてないよっ」
「嘘。人が泣いてないって言う時は、絶対泣いてる時だって私知ってるもん」
女の子は僕の両頬を優しく包んだ。
「熱い!具合悪いの?」
まつ毛が長くて綺麗な瞳が今にも触れそうな距離でこちらを見つめてくる。
「っ……頭が痛いんだ……いつも……。父さんが言うには、僕の病気は一生治らないんだって。長く生きれないんだって。だからもうどうでもいいんだ。なにもかも……」
女の子の目が大きく見開かれ、表情は強ばっていく。
こんなことを突然言われたら、そりゃあそうだろう。
一生治らない病気なんてきっと、他の子たちと同じように、感染を恐れて逃げていくだろう。
他の子たちと同じように、僕には近寄らなくなる。そして僕はまた……一人ぼっちだ。
僕の頬からゆっくりと手が離れていく。
ほら……ね。
皆誰しも、自分が一番大事なんだ。
けどそれも別にどうでもいい。
「はは……僕っていつ死ぬんだろう。家でも外でもいつも一人ぼっちで生きてる意味ないし、どうせ長く生きれないのなら早く死にたいなぁ……」
「じゃあ一緒に死んであげる」
「っ?え……」
彼女は僕を、橋の上に連れてきた。
下には激しく川が流れている。
途端に足が竦むのがわかった。
「じゃあハイ。ここに立って」
「まっ、待ってっ!」
「どうしたの?死にたいくせに怖いの?」
「……っ」
「生きることも怖くて、死ぬことも怖いんだね。だったら……」
何が起きたのか、一瞬わからなかった。
僕は彼女に抱き締められていた。
「生きなきゃ、ダメでしょ。」
熱のせいか、頭がグラグラとして、目眩がする。
それなのに、彼女の声は耳元でクリアに聞こえる。
「幸せになることを諦めちゃ、ダメでしょ。」
ドクッと大きく鼓動が震えた。
体だけでなく目頭が熱くなり、また涙が溢れてきた。
「絶対に諦めないで。私も諦めないから。」
ギュッとさらに強く抱き締められたのと同時に、限界が来た自分の体の力が抜けた。