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終章:不幸体質など気にしないほどの幸せ

第119話 こういうところも好きなのだ


「うわあぁあん、またこれだよぉぉ」



 フランは声を上げながら森の中を走る。二匹のエアウルフが追いかけてくる中、フランは後ろを確認しながら機会を窺う。


 一匹のエアウルフが飛びかかってきたタイミングでフランは立ち止まり、思いっきりロッドを振りかぶった。瞬間、突風が吹き抜けてエアウルフが転がって、後ろにいたもう一匹の仲間を巻き込んだ。


 その隙を逃さずフランは練っていた魔力を使い、風の刃を放つ。襲い来る刃に切り裂かれて、喉元を深く貫かれた二匹のエアウルフが地面に倒れ伏す。


 はぁっと息を吸って周囲に敵がいないことを確認してから、フランは地面についたロッドに身体を寄り掛かる。



「もうどうして私を追い掛け回すかなぁ……。まぁ、アルタイルさんの邪魔にならないように二匹は倒せたからいいですけど……」



 アルタイルから少し離れてしまったなとフランは気づく。迷子になっていないだろうか、自分と。


 この不運にはもうすっかりと慣れてしまっている。またこれだよと思いながらも、ネガティブに考えることはもうない。


 やってしまったとか、迷惑をかけてしまったとか。アルタイルは絶対にそうは思っていないことをフランは知っている。



「とはいえ、アルタイルさんは私を見つけられるかな……。森から出た方が」


「見つけられないかと問われると、そう難しくはないといったところだろうか」


「うわっ! びっくりさせないでくださいよ!」



 背後に立っていたアルタイルにフランは驚きながら振り返る。彼はいたって落ち着いた様子でフランが怪我していないかを確認していた。



「走っていった方向で分かるので問題はない。怪我はないようだな」


「怪我はしてないですね。アルタイルさんのほうは終わったんですか?」


「リーダーは倒したから終わりだ」



 依頼はこれで終わったと聞いてフランはほっと息をつく。何度も依頼をこなしてはいるけれど、終わるまでは気が抜けない。


 後は依頼完遂をギルドに伝えるだけなのでフランは「帰りましょうか」と、ロッドを抱え持つ。


 空を見上げてみえれば太陽が真上を向いていた。すっかりと昼を過ぎた辺りかなとフランが思っていれば、アルタイルから今日の依頼はこれで終わりにすると伝えられる。



「あれ、今日はもう終わるんですね」


「他にもあるがこれが夕方までかかりそうなものばかりだ。明日に回しても問題はないから今日はもう休んでいいだろう」


「それなら午後からはどうしようかな」



 ゆっくり休むのもいいけれど、気分転換をするのもいい気がする。カフェに行くのもいいかもと何をしようか思案していれば、じっとアルタイルに見つめられていた。



「どうかしましたか?」


「ただ眺めていただけだが」


「飽きません?」


「飽きないな」



 可愛いものを眺めるのに飽きるという概念はないのではないか。そんなことを真顔で言うものだからフランは笑ってしまった。


 恥ずかしげもなくアルタイルは言ってくれるので、本心からだというのは伝わってくる。だから、嬉しいし悪い気などもしない。


 これもまた彼の良さなのでフランは好きだった。だから、癒しになるならばと、じっと見つめられても気にしない。



「アルタイルさん、小動物っぽい感じが好きなんですか?」


「フランだから好きなだけだ」


「うーん、直球」



 素直に感情を伝えてくれるのは良いのだが、こういう時の返答に少し困ってしまう。嫌な気はしないのでいいのだけれど。



「フランは午後はどうする予定だ?」


「そうですねぇ。カフェに行こうかなぁと思っているんですけど、一緒にどうですか?」


「行こう」



 勢いある即答にフランはぶれないなと突っ込みつつ、好かれているのを感じて嬉しくなる。少しばかり表情が緩むも、口には出さない。


 アルタイルのように上手く気持ちを伝えられる自信がないフランは不安ではあった。ちゃんと応えられているだろうかと。



「あの、アルタイルさん」


「なんだろうか?」


「えっと、私の気持ちって伝わってますかね?」



 こういうのはちゃんと聞くべきだろう。少し前のフランなら一人で抱え込んでいたかもしれないが、今はそんな弱くはない。


 フランの問いにアルタイルはなんとも不思議そうにしながら「伝わっているが」と答えた。フランの愛はちゃんと伝わっているようだ。



「不安になることはないが……俺がまた言葉が足らなかったか?」


「いや、そんなことはないですよ! ただ、私はアルタイルさんのように気持ちを上手く伝えられないので……」


「フランの気持ちは伝わっている」



 戦闘のことを考えて距離を取ることも、自分の不運を囮に使ったことも、それはフランが自分を信じてくれているからだ。


 一つの愛の形であるのと伝わっている。アルタイルはそう言って手を差し出した。



「だから、安心してほしい」


「はい!」



 ぱっと表情を明るくさせてフランはアルタイルの手を取った。優しく包むようにそっと握って。


  *


「フラン。アナタ、バカップルって言われているの知ってまして?」


「どこが!」


「ハンター様をその無自覚さで何度もダウンさせている光景と、甘い雰囲気」


「それ、バカ要素ないですよ!」



 むすっとしながらフランは果実水を飲む。アルタイルが受付嬢との話が終わるまでフランはメルーナと話をしていたのだが、彼女から自分たちがどう言われているのかを教えられていた。


 別に悪い意味ではないらしく、むしろあのハンターを落とすことができた女性として尊敬されているらしい。



「ちなみにミリヤさんは猛獣使いって言われてますわね」


「カルロさん猛獣認定されてるんだ!」


「あの駄々こねはある意味では猛獣と言えなくはないですわね」



 強いですしとメルーナに言われて確かにと頷いた。ミリヤとカルロは付き合っているわけではないが、よく一緒にいるのでハムレットが「負担が減ったなぁ」と有難がっているのを知っている。


 フラン自身もミリヤとカルロは相性が悪くないのではないかと思っていたので、このまま良い方向に進んでいってほしいとひっそり期待していたりしていた。



「まぁ、わたくしはアナタが幸せなら良いですわよ」


「そうですね。不幸体質が気にならないぐらいには幸せですね」



 こうやってメルーナちゃんとまた仲良くできてますし。フランの言葉にメルーナは「アナタって本当に優しいわよね」と眉を下げた。


 普通ならば酷いことした相手と認識するでしょうにと言われて、それはそうなのだが謝ってくれたしとフランはもう気にしていなかった。


 メルーナはちゃんと変われたのだから。そこまで優しいかなぁとフランは不思議に思うけれど、彼女からしたら善人すぎるらしい。



「気を付けなさいよ。わたくしみたいな人ばかりじゃないのだからね」


「気を付けます」


「まぁ、ハンター様がいらっしゃるから大丈夫でしょうけど。これからカフェデートでしょう。楽しんできなさい」



 ほらとメルーナが指を指す先には丁度、話を終えたアルタイルがいた。あっとフランは駆け寄ろうとしてメルーナへ目を向ける。



「メルーナちゃんありがとうございます!」


「いいのよ、楽しんで」



 ひらひらと手を振るメルーナに返事を返してフランはアルタイルと共にギルドを出て行く。そんな二人をメルーナは微笑ましく見送った。



「私とアルタイルさん、バカップルって言われているらしいですよ」


「夫婦の間違いでは?」


「いつ結婚しましたっけ?」


「実質結婚したのと変わらない」



 どこがというフランの突っ込みはアルタイルには通用しない。飛躍するなぁと思いつつもフランは嫌な気はしなかった。好きということに変わりはないから。



                                    END


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