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第36話 正体、そして再開

「ホシノ……あなたも大概ですね、底無しを使うなんて」

 私は余裕綽々で立っているホシノに刀の切っ先を向ける

「別に、私の意思ってわけじゃないからね、これが一番最適って思って行動したんだ、よっ!」

 ホシノは言葉と一緒に飛びかかってくるとホルスターから銃を抜いてグリップで殴りつける

「水の逆流は! どういう算段ですかっ? 地下街にあんな水を引くなんてそう出来ることではないも思いますが、大がかりな何かをしたのであれば分かりますが私達がここにいるのを知ってからそんなこをする、時間はなかったはずです!」

 私はそれを刀で受けながら問いただす

 ここを通ることは知らない筈だ

 ゾンビの瞳を通して見つけてからこうしてやってきたにしてもそれでは間に合う筈がない

 かといってここを通るだろうと算段をつけるには情報が少ない

「分からないかなぁ、異能を使えば、そんなこともほらこの通り、ってね」

 銃のグリップから飛び出した刃が私の腕を掠める

「……異能はあくまで身体の構造を作り替えたり、自身の体質を変えたりする程度です、私の場合は分泌物、あなたは脳、あんな量の水をあんな風に流すなんて馬鹿げた魔法みたいな異能、聞いたこともない」

 そう、オメガウイルスは体内の細胞に作用してゾンビを作り出したりするだけだ

 ゾンビイーターの異能だってそれの延長線上でしかなく、例えば火を出したり、雷を落としたり突風を巻き起こしたりなんていう魔法みたいなことが出来るようになるものではない

「変わったんだよ、私達ゾンビイーターも、いまはもう君のいた頃のゾンビイーターじゃない」

 ホシノは言いながら達観した瞳でこちらを見やる

 その、瞳に少し、違和感を覚えた

 だがまだそれは確信ではない

「……成る程、とりあえずあなたを殺して底無しを追います、ウミさんでは底無しに対処できない」

 底無しはゾンビイーターの闇の塊

 私ですら底無しとの真っ向からの相対は避けたいぐらいだ

 もしダイチくんを出したとしてもどうにかなるとは思えない

「させると思う?」

 ニヤリと笑いながら私の行きたい方向をホシノが塞ぐ

「しますよ、あなたは超えてはいけないラインを越えた、だから殺す」

 ホシノはウミさんを害した

 ホシノの報告からウミさんは私の協力者として追われることになり、今度はウミさんが追われることとなった

 私だけを恨むのであれば甘んじて受け入れるがウミさんに対する数々の行いは看過できない

「相変わらず変わらないな君は」

 そんな私を見てホシノの目がふっと優しい色を浮かべた

 本物のホシノであれば絶対に私には向けない瞳

 それで、私は確信した

「……あなた、もしかして」

「あれ? 気付いた?」

 構えを解かないまま聞けば思っていたよりも簡単にその人物は認めた

「シズク……ですね、おかしいとは思ったんです、ゾンビイーター同士群れることを嫌うホシノがここまで大がかりに徒党を組んだこと、殺したいほど恨んでいるウミさんを底無しに当てたことも」

 そう、考えればおかしなことばかりだ

 どれもホシノが好んでやるとは思えないことばかり

「やっぱり付き合い長いとバレるか」

 じわじわと、それはまるでカメレオンが擬態を解くようにシズクの身体が変化していきそこに残ったのは一人の青髪の少女だった

「シズク、なんのつもりでホシノの姿に取って変わっていたんですか」

 付き合いが長いからバレる、なんて言ってはいるが本気でシズクが擬態していれば私ですら見抜ける自信がない

 だから、あえて私にバレるようにしていたとしか思えない

「えー、冷やかし?」

 けろっとした様子でシズクは言ってのける

「……」

 私はシズクを睨む

 こういう掴めないところが昔から苦手なのだ

「冗談、正解は動揺を誘うため、こんなすぐにバレるとは思わなかったけど」

 この言葉だって事実ではないだろう

 何度も言うがシズクの擬態性能はそんな簡単に見抜けるものじゃない

「……じゃあ、あなたと底無しの他にもゾンビイーターが」

 シズク、底無し、そして水を使った不明のゾンビイーター

 三人もしくはそれ以上いるのであればこんな風にのんきに会話している余裕などない

「うーん、今回は、私と底無し、後は水の異能を使ったゾンビイーターの三人だけ、ちなみに水の子は戦闘には参加しないから」

 シズクは持っている銃をくるくると回しながら答える

「聞いたのは私ですがやはりあなたの言葉は信用ならない」

 シズクはいつもひょうひょうとして言うことは嘘ばかり

 自分で聞いておいてこの質問にはなんの意味もないことを察した

 こんなことを聞いてしまうとはやはりそれなりに動揺しているのだろう 

「でしょうね、さて、それじゃあ、殺すね」

 まるでそれはただ挨拶するように殺すと宣言すると距離を詰めて持っていた銃を捨てて私にナイフを振り下ろした

「っ!!」

 慌てて刀でその刃を受け止める

「注意力が散漫だね、ゾンビイーターだった頃より弱くなってる」

 シズクはもう片方の手で何本もの小型のナイフを取り出すとそれを使って刀を弾いた

「だから、なんですかっ!」

 今度は私から切りかかるが両手に何本も扇状に持たれたナイフがそれをとめる

 シズクの獲物は小型ナイフだ

 小型ナイフをなん十本も携帯しておりそれを器用に使いこなす

「別に、ただ、もったいないと思っただけ、ハイスコアラー筆頭だった氷姫が今ではただの一人の人間を守りたいだけのゾンビになり下がったことが」

「あなたは昔から、立場のことばかり気にする」

 これはきっと本音

 シズクはいつだって立場立場でその結果ハイスコアラーになった人物だ

「偉くなければ、地位がなければ何も、得られない、そんなことソラが一番よく分かってたと思ってたんだけどっ」

 シズクは言いながらこちらにナイフを投てきする

「そんなに彼女が大事かな?」

 飛んできたナイフを刀で捌くと距離を詰めていたシズクが言葉と共に左に一閃ナイフを振るう

「っ……」

「あ、ほらまた動揺した」

 シズクはそのままぐっと距離を詰めて私の襟首を掴むと地面に叩きつけ器用にナイフで刀を固定した

「本当に、弱くなったねソラ」

 その瞳からは何を考えているのかは読み取ることが出来ない

「今日は、気分が変わったとか言って帰ってくれる日ではないんですか?」

 前に一度だけ、私がゾンビイーターを抜けてから追っ手としてシズクと対敵したときがあった

 その時は散々戦った後に気分が変わったと言って去っていった

「残念だけど今回は気分は変わらない、ここでソラを殺してウミさんを連れていけばまた私の地位が上がるから」

 シズクはそれだけ言うと私の頭にナイフを突き付ける

「本当に昔から、徹底してますね!」

 私はナイフで固定された刀から手を離すと眼前に迫っていたシズクの顔に向かって拳を振るうがすんでのところで避けられる

「抵抗するんだ」

 シズクは意外そうにそう言った

「しますよ、早くウミさんを追わなければいけませんからね」

「でも、この状態からどうするの?」

「……」

 そう、口では何とでも言える

 だがこの状況を打破する方法が

 思い付かない

「あーあ、みっともないなー、全く見てられないよ」

 自分にそぐわず焦りの感情がせり上げてきた頃、前に一度だけ、聞いたことのある声がした

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