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第71話崩れた、いいや崩した

 かたん、かたん

 小さな音をたてながら少女はトランプを積み上げる

 少女がトランプを詰み始めてはたしてどれ程の時間が経過しただろうか

 トランプを組み立てながら時おり思い出したように机の上に転がしてあるきれいなオレンジ色の瞳を拾い上げては人工の光にかざしてみたり、何をするでもなく眺めてみたり、それに飽きたらトランプをまた三角形に積み上げる

 少女はいつもそんな、端から見れば何の意味もない行為を続けて一日を終える

 いつだってトランプ、というわけではない、パズルだったり、時にはただの何もかかれていない紙面だったり

 とどのつまりは時間さえ潰せれば彼女にとってはなんでもいいのだ

「フーカ、そろそろ動く気はないのか?」

 そこをたまたま通りかかったもう一人の少女、ヤマトが声をかける

「んー、逆にあると思う?」

 フーカはトランプを積む手を止めることなく生返事を返す

「……昔は、それこそ今でもハイスコアラーに在籍するぐらいに勤勉だったじゃないか」

 そんなフーカの様子にヤマトは呆れたように昔のことを思い出す

「あれはー、そのときの流行り? みたいな、自分一つのことにハマるとなかなか抜け出せなくて、まぁその時の功績のお陰でこうして毎日毎日ダラダラ過ごしていても基本文句言われないからー、その時の自分には感謝してますが」

 けたけたと笑いながらフーカはパッとトランプから手を離す

「なんだそれは」

 話しても無駄だと早々に合点を決めたヤマトはそのまままた歩き去ろうとするがそれをフーカが止める

「まー、そんなこと言いながらー、ちゃーんと実は今働いてるんですよ自分、ほらこれ」

 そしてまるで宝石でも見せびらかすかのようにオレンジ色の瞳を天にかざす

「それは……目か? また気に入って誰かから無理矢理奪ったのか?」

 それを見てヤマトは余計に呆れたように眉根にシワを寄せる 

「いんやー、今回は本人から貰ったの、ちょっとした条件付きで、まぁその条件も無事終わらせたんだけど」

 フーカは大事そうに瞳を机の上に戻すと自分の人差し指をくるくると回す

「ちょっと気になるから、こうしてあの娘、ユウヒに糸を繋げてる」

 天井の照明に反射して一瞬だけ、とても細い糸が可視化される

 普段であればこれ程までに細く細分化された糸はフーカにしか視認できない

 だが本人の意思とその時の状況によってはこうして一瞬だけ糸を視認させることも可能だ

「ユウヒって……お前それユウヒの目玉か!?」

 ヤマトはユウヒという名前を聞いて慌てた様子で叫ぶ

「うんそーだけど」

「そーだけど、じゃないぞ……本人の承諾があったならこちらから何か言うことはないがその癖、直したほうが……」

 本人達の間でちゃんと承諾が取られている、という部分に見るからに固真面目なヤマトはフーカを責めるに責められずにいると途端にフーカが天高く積まれていたトランプタワーをわざと、崩した

「フーカ?」

 また、飽きたのだろうか

 そう思ってヤマトはフーカの名前を呼ぶが決してそうではないことをすぐに知ることになる

「あーあ、糸が焼き切れたってことは……死んじゃったみたいだよ、ユウヒ」

「はぁ!? お前、冗談も大概にしろ、あのユウヒがそうそう死ぬような玉ではないことは…………本当、なんだな」

 淡々と、事務的に伝えられた同僚の死にヤマトは今日何度目かも分からない驚嘆を見せすぐに悪い冗談だろうと考えた

 だがそれが悪い冗談でもなんでもなく本当のことだと信じるにはフーカの様子を見るだけで充分だった

「自分がそんなくだらない嘘吐くと思います? ってまぁ思うだろうけど、残念だけどこれは事実、ユウヒは今、間違いなく、死んだ」

 フーカは断言すると机の上にあったユウヒの瞳をひょいっとつまみ上げる

「っ……なんてことだ、これで二人目じゃないか! シズクに続きユウヒまで……違う、今ゾンビイーターの統括はあたしに任されてるんだ嘆いている場合じゃない、ホシノに関してはもうどこで何をしてるのかも分からんから省くとして、そろそろちゃんと隊を動かさないといけないな、そもそも何で私が……元々あまり、乗り気ではないのだが」

 ヤマトがすでに動きを止めている胃を痛めている間にフーカはどこかから取り出した木箱を取り出して蓋をあけ、その中にユウヒの瞳をしまう

 その箱の中にはすでに色々な色の瞳や指、耳なんかが詰め込まれていた

「……これ、あげる」

 それからフーカは適当なトランプに近くにあったマジックペンですらすらと何かを書き連ねるとヤマトに押し付ける

「? なんだこれは」

「ユウヒに頼まれて糸で探った情報、ウミって子とソラちがいる場所の住所、まぁユウヒが行ったってことはもう何処かに拠点を移してるだろうけどゾンビの目もあるからそんな遠くには行ってない筈、あと、アカネさんも生きてて一緒にいる」

「アカネ先生が生きてる!? ……流石にこれはヨハネさんに報告しないわけにはいかないか……というか珍しいな自分からこんな有益な情報をタダで寄越すなんて」

 フーカの普段は取らないような珍しい行動に感嘆しているヤマトを尻目にフーカはソファから立ち上がると廊下のほうへと歩き出す

「おい、どこ行くんだよ」

 そんなフーカの後ろ姿にヤマトが声をかける

「自分も、強化チートしてもらってくるー」

 だがフーカは振り替えることもなく、ただ手をひらひらと振りながらそのまま部家を出ていった

「……これで、四人の中で強化を受けていないのはあたしだけか、頼むからこれ以上死に急いでくれるなよ」

 そんなフーカを見送りながらヤマトはただ、祈るのだった

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