巨大な金色の鷹は翼を大きく翻し、綾斗に迫る破壊の極意へ突っ込んでいく。
鼓膜が破れそうになるほどの爆発音と共に金色の鷹と数多の魔力砲弾が激突する。空気が弾け、突風を巻き起こし、火花を散らしながらも金色の鷹は綾斗の身を守り続ける。
綾斗もまた押し負けないように右手に空いた左手を添えて両足に踏ん張りを利かせながら、目いっぱい金色の鷹に魔力を注ぎ込む。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
金色の鷹は綾斗の獣のような咆哮に呼応し、翼を大きく羽ばたかせて一息に魔力砲弾を蹴散らしていく。さらに鷹は加速し、そのまま魔力砲弾を放ったマジシャンに真っ直ぐ向かっていく。
盾にして矛。
それがゴルド・シルド・マカバイの本来の用途である。ハイプリエステス戦では使い方を知らないまま複製したため、その反動で綾斗は右腕を危うく失いかけた。
金色の鷹となった盾は相手の攻撃を防ぎつつ、空を恐ろしい速さで飛翔する。そして、その大きくも黄金の輝きを放つ
金色の鷹はマジシャンを前にしても怯むことなく突っ込んでいく。
マジシャンもまさか盾が巨大な鷹に変身し攻撃を防ぎつつ突撃してくるとは思ってもみなかったのだろう。驚愕を露にして空いた左手で顔を隠している。戦いの場に置いて自ら視界を遮るなぞ自殺行為に等しい。それでもマジシャンが顔を覆ってしまったのは、戦闘経験の低さと本当に予期していない攻撃だったからだ。
あと数センチ、いや、数ミリ。
金色の鷹の黄金の嘴がマジシャンに直撃しそうになるまさにその瞬間、マジシャンの姿が
金色の鷹は獲物を見失い、さらに綾斗からの魔力供給が絶たれたことで金色の粒子となって消失してしまった。
「どこだ!」
綾斗は辺りを見回すが姿が見えないどころか気配も感じられない。
『あの時のお返しよ』
突然、背後から声が聞こえたかと思えば綾斗が振り返る余地もなく全身を青黒い稲妻が駆け巡る。
綾斗は一瞬意識を失いそうになるも、あまりの激痛でむしろ意識がはっきりしていた。加えて身体の至る所の筋肉が異常収縮を起こし、その場に倒れてしまう。綾斗の身体からは青黒い火花が飛び散り、未だ体内に流れる微量の電撃が迸っているのが分かる。
それでも身体を動かそうとしているのか、それとも電撃による
冬香はマジシャンを綾斗から距離を取らせようと両手のグロック18Cの銃口を向けるが、直後に反射魔法の魔法陣が展開される。
引き金を引く寸でのところで指の動きが止まり、少女は息を呑む。
もし今魔力弾が放たれていたならば、反射魔法で弾かれ綾斗の身体を撃ち抜いていたかもしれない。そう思うと冬香の背中に悪寒のようなものが走る。
『哀れな子羊ね。終わりよ、フールの坊や!』
マジシャンが止めの一撃を放とうと身の丈ほどある杖を振り上げる。
冬香はそうはさせまいと銃を構えるが、マジシャンは綾斗と自身を囲うように反射魔法の魔法陣を展開している。
ならば迷っている暇はない。
出来る出来ないじゃない。やるんだ。
意を決した冬香は両手のグロック18Cをウエストポーチに納め、新たにグッロク18Cよりも一回り大きな銃を取り出す。
銃の名は『デザートイーグル』と言い、大型自動拳銃にして装填されている魔力弾は五十口径オートマチック用実包のマグナム弾を模したものである。モデルにされた弾丸は実用のオートマチック用拳銃弾としては最高峰の威力を持っているらしい。
冬香は右手でデザートイーグルのグリップを握り、空いた左手は右手に添える。重心はやや前に落としつつ、突き出したデザートイーグルと両肩を線で繋げば二等辺三角形になるようにする。両足は肩幅に広げ、右足は気持ち後ろに下げる。
「マジシャン!」
冬香は今までにない叫び声にも似た大きな声を上げてマジシャンの注意を自身に向ける。
次の瞬間、五発の人間で言う五十口径のマグナム弾が連続して放たれた。身体能力強化を施していても両肩が悲鳴を上げる。それでもやらなければ綾斗が死んでしまう。
今の冬香に自身の身体を心配する余裕もなければ選択肢もない。
放たれた五発のマグナム魔力弾はマジシャンの強力で正確な反射魔法の魔法陣に着弾する。一発二発三発と着弾するごとに魔法陣に
そこへ最後の五発目が着弾する。
ガラスが砕けたような音がサマーバケーションエリアに響き渡る。
反射魔法の魔法陣を粉砕したのだ。だが、まだ別の魔法陣は展開されたままである。
冬香は他の魔法陣が移動させられるより早く装填された残りの二発を連射する。
一発はマジシャンの人間で言う心臓。もう一発はマジシャンの頭部。
弾丸が空を切る。着弾までの時間は一瞬のはずなのに酷く遅く感じる。この二発が綾斗の生死を決めるかもしれない。そう思えば思うほど弾丸の速度が遅くなっていく。
――お願い。当たって!
冬香の心の叫びはマグナム魔力弾に届いた。
かに思えた。
突如、瞬きよりも速く、どこから伸びてきたのかピンク色の帯、いや、
あまりにも突然のことでマジシャンですら呆然と立ち尽くしていた。