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第74話 ダルク教解散

 会議が始まって早々に枢機卿が反ミカエル派なのでは? という議題に入った。

 大罪司教達が裏帳簿とそれに関わる男を証人として呼び出したが、ミカエルの覇気にてられて泡を吹いて倒れてしまった。

 枢機卿の一言で男は強制退場させられ、枢機卿を最後まで追い詰める事が出来なかった。

 枢機卿は自分がピンチに陥った腹いせの様に、話題をアル達に向けた。

 なぜこの会議に出席しているのか? なぜ豪奢な法衣やドレスを身に纏っているのか? とミカエルに説明を求める。


 だが、肝心のミカエルは動揺等はしない。むしろよくこの話題にしてくれたと感謝すらしていた。

 だからだろうか、ミカエルは薄く笑っていた。

 その表情を見た枢機卿や大司教、大罪司教達が身震いする。そして、ミカエルからどんな言葉が発せられるのかを固唾をのんで見守る。

 会議室に居る全員が注目する中、ミカエルが口を開く。


「枢機卿、感謝するぞ。これでやっと本題に入れる」

「は……?」


 ミカエルが枢機卿に感謝を述べた事で、他の者はますます訳が分からなくなる。そして、続く言葉を待つ。


「この者達は私と深い関係にある。青年の方は特にな」

「なっ!? ふ、深い関係ですと! 天使であるミカエル様がそんな得たの知れぬ男と関係を持ったという事ですか!?」

「勘違いをするでない。そんな下賎げせんな関係ではないわ!」

「……っ!」


 ミカエルが一喝する。その覇気に圧され枢機卿がドスンと椅子に座った。椅子がなければ床に尻餠をいていただろう。


「今回私が教皇の座を降りると決めたのは彼等の存在があったからだ」


 ミカエルの言葉に会議室がざわつく。

 そんな中、シドが代表して質問する。


「それは、その者達の誰かに教皇の座を譲るということですか?」


 参加者の中で唯一ジブリールとクレアの正体を知っているからこその質問だっただろう。他の者はアル達がそこまでの存在とはまだ認識できていない。


「結論だけを言えば、そうであってそうではない」

「どういう意味なのでしょうか?」

「そうだな、その目で確かめてもらった方が早いか。ジル、良いか?」


 ミカエルがジルと呼んだ女性がスッと立ち上がる。

 そして、その女性が魔力を練り上げると、シド以外の出席者達が目をこれでもかと見開いて驚いている。

 その光景が楽しかったのか、ミカエルは上機嫌で説明する。


「彼女の名前はガブリエル、私の妹であり、四大天使の一柱ひとはしらだ」


 ミカエルの説明を受け、ざわめきが止まらない。

 さっきまでミカエルの覇気に中てられていた枢機卿が我に返り、ミカエルに問いかける。


「ほ、本物なのでしょうか?」


 この場で何とも間抜けな質問だが、信じきれないという気持ちが理解できないミカエルではない。なので、ミカエルも魔力を練ってみせた。


「どうだ? 私の聖魔力とガブリエルの聖魔力は同じ神聖魔力であろう?」


 ミカエルとジブリールの魔力を感じ取ったシドを含めた全員がその場に跪く。


「おっと、驚くのはまだ早いぞ? クレア、頼む」


 クレアもジブリールと同様に立ち上がり、魔力を練る。

 その魔力を感じ取った全員が感動で言葉が出てこなかった。


「このクレアという女性はウリエルと同一化している。この意味が分かるか?」


 ミカエルの問いかけに、シドが仰々しく答える。


「同一化という事は、人の身でありながら天使のくらいに昇ったということ。すなわち、ミカエル様と同等の立場であるということでしょう」

「うむ。クレアは私の妹であるウリエルに選ばれ、今世を導く使命を持って生れたのだ」


 ミカエルの言葉にざわつく一同。

 クレアの正体を知っていたシドでさえ驚いている。それもその筈、クレアの使命に関しては話していなかったからだ。クレアという女性にウリエルが宿っているだけだと思っていただけに、驚きは一番大きいだろう。

 だが、シドはすぐに思考を切り替え、ミカエルに問う。


「四大天使の内、3柱が揃いました。ですが、先程ミカエル様はお二方に教皇の座を譲らないとも取れる発言をしています。その真意をお教えください」

「ふむ、そうだな。ここまで来てもったいぶってもしょうがない。では、アルファード様、宜しくお願いします」


 ついにアルの出番が回ってきた。アルは打ち合わせ通り、何も言わず立ち上がり、ジブリールとクレアがやって見せたように聖魔力を練る。

 すると、シド達ダルク教の者だけでなく、ミカエルまでもがその場に跪く。

 その光景を見たシドや枢機卿達が、これは茶番などではなく、❝本物❞の存在を示していると感じ取る。

 そして、ミカエルがうやうやしく言葉を発する。


「お帰りなさいませ、ルシフェル様」


 ミカエルの口からルシフェルという名前が出たことで、シド達は動揺を隠せなくなった。四大天使ですら今や伝説の大天使である。その上位存在であるルシフェルが眼前の青年だというのだから、開いた口が塞がらない。

 枢機卿に至っては、先程までの無礼を後悔し、ルシフェルの魔力に中てられ震えている。

 ミカエルがスッと立ち上がり、アルに一礼してから言葉を発する。


「皆、面を上げよ。この青年こそが我等四大天使の生みの親であるルシフェル様の現身である。些細な不敬も許されないと心得よ」

「「「はっ!」」」


 ミカエルの言葉にその場に居る全員が応える。

 それを確認したミカエルが、ようやく本題に入る。


「今、この時を持ってダルク教は解散とする! 今後はルシフェル様をトップとした神聖教に変わる。異論のある者は居るか?」


 突然の宣言に皆が戸惑う。今まで尽くしてきたダルク教が解散となり、神聖教に変わるというのは、すぐには納得できない。

 それが分からないミカエルではないと信じたい気持ちで、シドが恐る恐る挙手をし、発言する。


「いきなりダルク教を解散し、神聖教に変えるとなれば、納得のいかない信徒も多く居るでしょう。この問題はいかがなされるおつもりですか?」


 シドの真っ当な疑問にミカエルが答える。


「だからこそこの場で宣言したのだ。まずは上層部だけに知らせ、徐々に神聖教へと変えていく。その為に教皇の座をこの場に居る誰かに任せたい」

「教皇はルシフェル様がお務めになられるのでは?」

「ルシフェル様は世界を旅して人々を導く使命がある。なので、神聖教の教皇はルシフェル様の名代として神聖教を支えて欲しい」

「では、ミカエル様はどうなされるのですか?」

「私はルシフェル様と一緒に世界を巡る。これは四大天使全員の使命なのだ」

「左様でございますか……」


 ミカエルから説明され、何とか納得しようとしているのが見て取れる。

 だが、枢機卿だけは違った。目をギラつかせ、ミカエルを無視してルシフェルであるアルに言葉を向ける。


「ルシフェル様! どうか、どうかこのわたくしめに教皇を務めさせてください! 必ずやルシフェル様のお役に立ちましょう!」


 枢機卿の暴挙とも言える発言に他の司教達が目を見開く。

 その枢機卿に対してシドがいましめる。


「ペトロ枢機卿! 今はそのような事を発言する場ではないですぞ!」

「シド大司教こそ何を仰る! ルシフェル様のお役に立てるチャンスなのだぞ!」

「それをこの場で直接進言するというのが間違っているのです!」


 枢機卿とシドが言い争っている姿にミカエルが冷たい視線で見つめている。

 そして、「ふぅ」と軽く一息吐いた後に一喝する。


「いい加減にしろ! 誰が教皇になるかはルシフェル様がお決めになる! その様な醜態を晒すでないわ!」

「くっ……申し訳ありません」

「誠に申し訳ありませんでした」


 大人しくなった二人を見て、納得したミカエルが話を進める。


「では、新しい教皇についてだが────」


 バァンッ


 突如会議室の扉が勢いよく開かれ、肩で息をしている聖騎士が転がり込んできた。

 話を途中で邪魔されたミカエルがその聖騎士を問いただす。


「一体何事だ。今は重要な会議中であるぞ」


 ミカエルがそう言葉を発すると、聖騎士が慌てて跪く。

 そして、その状態のままミカエルに進言する。


「緊急ゆえお許しください」

「何かあったのか?」

「隣国、トロメア帝国との国境沿いに魔物の集団が現れました!」

「何! 数はどの程度だ?」

「およそ2000体であります!」

「なんだと!」


 ミカエルと聖騎士のやり取りを聞いていたアル達や司教達の顔色が変わる。

 2000体という数もそうだが、魔素がほとんど無い現在において、それだけの数の魔物が発生するというのがアルの中で引っ掛かった。

 しかし、今はその原因を探るよりも魔物をどうにかしなければならない。

 そう考え、ミカエルにどう動くべきか聞こうとした時、枢機卿が声高に発する。


「皆、安心するのだ! 我々にはミカエル様を含め四大天使様の内、3柱がこの場に揃っているのだ! それに! ルシフェル様までもが顕現したのだ! 何も恐れる事は無い!」


 他の司教達や聖騎士に向けて発言したのだろうが、アルにはミカエルを煽っている様に聞こえた。只の勘違いであれば問題は無い。だが、万が一の時は──。


 枢機卿の言葉で会議室に居る者達の視線はミカエルやアル達に向けられていた。この状況では下手に産個かない方が良いと考え、とりあえすミカエルに確認しなければならない事だけを聞く。


「ミカエルの結界で魔物は防げるか?」

「2000体ともなると、流石に難しいです」

「なら、直接倒すしかないか」


 ミカエルの結界で魔物の侵入を防げるかもと期待していたが、そう上手くいはかないようだ。

 直接魔物と対峙して倒すしかない。

 これが誰かの策略だったとしても放ってはおけない。

 アル達は目で確認し合い、覚悟を決める。

 そして、ミカエルが高らかに宣言する。


「魔物の大群は私達が殲滅する! 私達ダルク教──いや、神聖教の力を世界に見せつけるのだ!」


 ミカエルが高らかに言い放つと、司教や聖騎士達が大きく声を挙げ、会議室は歓声に包まれた。

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