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第112話 二人きりでの夕食3

 じっと此方を見て私が話すのを待ってくれているお父様に、話すことが多すぎて、何から話そうか少しだけ迷ったあとで。


「まず、一点目なのですが、どこかの日程で古の森に行く許可を頂きたいです。

 アルも、精霊達の様子を見に行きたいと言っていましたし。

 私も、自分の能力をもう少し自由にコントロール出来るようになっておきたくて……」


 と、一先ずは、精霊関係と、私自身の能力の話から済ませてしまおうと、声に出す。


「ふむ……。古の森か。

 あの方は特別だが、確か、精霊達は古の森からは基本的には出られないんだった、な?」


「はい。……昔は自由に外に出て動き回ることも出来ていたらしいのですが。

 今は、精霊達の力の源である古の森にある泉のような特別な場所でしか暮らせなくなってしまったみたいです。

 アル自身、定期的に精霊の子達とはコンタクトを取っているみたいですが、それでも、子供たちの様子が心配だからそろそろ一度見に行きたいと」


「……承知した。

 あの方が行きたいのだというのならば、そもそも、私にそれを止める権利などない。

 これからもお前が古の森に行く分には問題ないし、一々、許可を取らなくてもいい。

 そうだな。……お前が、定期的に古の森に行く名目は、自然溢れる静かな場所での療養が必要なため、ということにしておこう」


 私の話に、お父様は考える素振りを見せることも無く、それはもう、あっさりと、許可を出してくれた。


 その上、私が王宮から出てしまい、不在になることによって、必然、湧き上がるであろう周囲からの疑問にも、先手を打って、表向きは療養のために行くから許可を出したというていを装ってくれるのだろう。


「ありがとうございます」


 そのことにホッと安堵して、ふわり、と微笑みながら、お礼を口にすれば。


「それで……? 能力の方は、自由にコントロール出来るようになるものなのか?」


 と、お父様の方から質問が飛んできた。


 私は、こくり、とそれに一度頷いてみせて。


「前にも少し話しましたが、今は自分で自発的に能力を使用出来るようにはなっています。

 私の場合は、“時を操る”能力なので、何秒巻き戻すかとか、繊細なコントロールはこれから必要になってくると思いますが……。

 突き詰めていけば、いずれはこの国の役に立てるくらいの力が持てるかもしれません」


 私が魔女の能力を持つことによって、お父様が期待しているのはそこだろうと。


 これから先、役に立てるように努力を惜しまないつもりであることを伝えれば。


 ……意外にも目の前で、お父様は渋い表情をしていて。


「そう、か。……だが、もし万が一にも。

 突発的に能力が出てしまったら、お前は否応なしに命が削られていくだろう?」


 と、お父様からそう言われて私は驚きに目を見開いた。


 それが国のためになることなら、例え何であろうとも、使えるものは使うのがいつものお父様のやり方だ。


 だから、まさか私の命のことをそういう風に言われるとは予想もしていなかったため、一瞬、戸惑ってしまい、直ぐに言葉が出てはこなかったけれど。


「えぇ……、ですが。

 安心して下さいお父様、そのために、古の森に行く予定ですし。

 余程、大変なことが起こらない限り、無理な使い方はしないつもりです」


 私の傍にいるみんなが危険な時とか。


 お父様にこの力を国のために役立てろと言われた時とか、本当に必要な時にだけ能力を使うことは決めている。


 6年後の未来、ローラが私を庇って殺されてしまったあの時のように、同じ道は繰り返したくない。


「それに、私の能力をアルもサポートしてくれていますし。

 いつも、アルが私の事を癒してくれているので……」


 だから、大丈夫ですよ。


 という、意味をこめて、ふわりと笑みを溢せば。


「あぁ、そうだったな」


 と、お父様も納得したように頷いてくれた。


「それで。昨日、図書館に行った時なのですが、魔女の能力について書かれた本を見つけました」


「……王立図書館で、か?」


「はい、本自体に魔力がかかっていて限られた人間にしか見えないような細工がされていたみたいなのです。

 今、そのことについてはアルが調べてくれているのですが、お父様の耳にも入れておいた方がいい話だと思いましたので」


 私の発言に、お父様が驚きに目を見開いたあとで、険しい顔をして、考え込んだあと。


「……そこに書かれているものは、偽りの情報ではなく、信憑性の高いものなのか?」


 と、私に対して聞いてくる。


「まだ、そこまでは把握出来ていませんが、恐らくは。

 “私の能力”についても記述がありましたし。

 本自体に魔力の残滓が残っているらしく、魔女か精霊の力を借りて作られた本である可能性が高いそうです」


「つまりは、魔女や精霊の力を使って限られた人間にしか見えないような細工がされているから、そこに書かれている内容も限りなく信憑性が高いということだな?」


 そうして、お父様のその言葉に、私はこくりと頷いた。


 あの本に書かれている内容は、決して、誰かを混乱させるための偽物の情報ではないだろう。


 それにしては、手が込みすぎている。


「……そうか」


 一言だけ、ぽつりとそう呟いて。


 お父様は、じっくりと考え込むように黙り込んでしまった。


「……お父様?」


 長いこと、考え込むようなお父様のその態度に、違和感を覚えて、その顔を見つめて首を傾げた私に……。


「アリス。お前は、この世界で常識的に行われている魔女の差別が、本当に単なる差別だけで済むものだと思っているか?」


「……っ、?」


 と、お父様から不意に、そう質問されて、その言葉の意味がいまいちよく分からなかった私は動揺したあとで。


「ごめんなさい、質問の意図がよく分からないのですが。

 魔女や、赤を持つ者は忌避される存在であることは、間違いない、ですよね?」


 と、お父様に戸惑いながら言葉を伝えた。


 お父様はそんな私を見てから……。


「……あぁ。まだお前の年齢を考えれば話すには早いと思っていたが、仕方ない。

 魔女の能力というのはな、強い力を持っていれば持っている程にそれだけで、強力な兵器にもなり得るものだ。

 そんな、人間を……、差別して、遠ざけるよりも、密かに囲って軍事力を高めた方が国の為になる」


 一度、そこで言葉を句切って。


「そう考える、国だってあるんだ」


 と、声に出した。




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