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第215話 洞窟探検



 洞窟の入り口から中に入ると、暫くは松明が焚いてある道が続き。


 意外にも中を歩くには、懐中電灯をつけたりしなくても不自由しないくらいぼんやりと照らされた灯りで歩けるようになっていた。


 人工的に作られた坑道でもあるので、この辺りはきちんと人が歩きやすいように整備されているのだろう。


 だからこそ、この辺りの鉱石が殆ど取り尽くされてしまっていることには頷けた。


 私達と殆ど同じ時間帯にこの中に入っていた冒険者の人達は、私達を追い越して勝手知ったる道を歩くように、するすると入り組んだ洞窟の中を迷うこともなく奥に進んで行っていた。


 あの人達は、もう既に中の地図に関してもある程度把握していて。


 自分たちなりに、目的の鉱石の採れる場所に目星が付いているのだと思う。


「ふむ、ヒューゴ。お前の作成したという地図を、もう一度僕に詳しく見せてくれるか?」


 一応、洞窟の入り口の手前で、ヒューゴが作ってくれたという地図を私達も見せて貰ったのだけど。


 アルが何か考えがあってなのか、ヒューゴに対して再び地図を確認したいと声をかけてくれた。


「あぁっ、此方がこの鉱山内の地図になりますぜ。

 入って暫くの洞窟内のマッピングについては長年、書き足してきたから殆どズレもなく完璧と言ってもいい。

 こっちの丸は鉱石が採掘しやすいと言われている場所、この、赤でペケ印を付けている所は行き止まりです」


 アルに持っていた地図を広げて見せてくれた後で、ヒューゴが地図に付けていた印がどういう意味を持つものなのか、私達に詳しく教えてくれる。


 それを見ながら、アルが『ふむ……』と考えるような素振りを見せたあとで。


「お前の話では確か、限られた時間の中で、進められるだけ奥に行かなければならないんだったよな?

 空気の通り道があるのなら、洞窟内には続きがある証拠だ。

 その流れが沢山ある場所なら、洞穴どうけつもそこまで小さくなく、僕達でも入っていけるだろう。

 そっちに向かって歩いた方がいいだろうな」


 と、声を出してくれる。


「空気の通り道、か。

 そんなもの、目には見えない筈だが。……アルフレッド、お前はそんなことまで分かるのか?」


「うむ。僕は自然の流れに関しては敏感なのでな。

 目に見えないような風の流れなどがどちらに向かって流れているのかなど、僕にかかれば朝飯前だ。

 その辺りに関してはドーンと任せておけっ!」


 お兄さまの問いかけに、アルが声を出して、自信満々にそう言い切ってくれたあと。


 ヒューゴが見せてくれた地図を、もう殆ど確認することも無く、アルが先陣を切って歩いてくれる。


 その足取りには全く迷いがない。


「あーっ、あのォ? 皇太子様に護衛の兄さん。

 そのっ……疑う訳じゃぁ、ねぇんですが、空気の流れとか、一体全体どうやったら感じとる事が出来るって言うんですかねぇ?

 いやっ、こんな小さな子供の言うことですし、ちょっと俄には信じきれないっていうか」


 アルの案内で先へ進んでいく私達にヒューゴが戸惑ったような言葉を出してきたのを感じて、私はヒューゴに向かって安心して貰えるように、にこっと、笑みを溢した。


「ヒューゴ、大丈夫です。

 アルはその生い立ちから色々あって、長い間、自然と一緒に過ごしてきた事情があるんです。

 幼い頃から、そういったことに触れてきているので、植物についても詳しいですし、こういったことはお任せ出来ると思います」


 私の言葉に、ヒューゴが驚いたように目を見開いたのが見えたあと。


 お兄さまも、少しだけ驚いたような表情を見せてきたのが私からも確認出来た。


 因みにこれは、アルのことについて色々と聞かれてしまった時に、お父様にもOKを貰っている言い訳のうちの一つでもある。


 正直、その殆どが事実なので、私からすると説明のしやすい言い訳だった。


 その間にも、アルの足取りは全く止まることなく、道案内に関してはスムーズだった。


 さっき、別の場所へと向かっていた冒険者の方とは正反対の分かれ道を進み。


 その先に4つほど別れている道も、特に迷うことなく曲がっていく。


「……ちょ、ちょっと待ってください、って。

 こっちは、行き止まりの道しかありませんぜっ!」


 それを、ヒューゴが慌てたように地図を開いて見せてくれながら。


 止めてくれようとしたのだけど。


「うむ、大丈夫だ。……問題ない」


 と、アルが自信満々に声を出して辿り着いたその先は、確かにヒューゴの言う通り、行き止まりだった。


 ヒューゴがそれを見て『ほら、やっぱり俺の言った通りだったでしょう!?』という表情を向けてくれたけど。


 私とセオドアはアルの言葉に嘘も偽りも混じっていないことが分かっているし。


 こういう時のアルの判断を、何よりも信用している。


 アルが言うのだから『きっと、何かあるだろう』と、思っていたら……。


「セオドア、この壁、専用の道具で叩いてくれないか?」


 というアルの声かけに


「あぁ、こっちに道があるんだな?」


 と、セオドアも直ぐに同意したように頷いてくれた。


 そこには、お互いに対する信頼関係しかない。


「うむ、一見すると壁があって行き止まりに見えるが、中は空洞で、先に道が続いている。

 この壁は、かなり薄いものだから、つつけば直ぐに壊れると思うぞ」


 そうして、私達にも分かりやすくアルが説明をしてくれたあと。


 私はリュックから、小さなハンマーを取り出して、セオドアに渡した。


 壁に向かって専用のハンマーを、ゴッ、と音を立てて、セオドアが叩いてくれれば。


 直ぐにその周辺の壁がぼろり、と崩れ落ち、その先が続いていることが小さな穴からも確認出来た。


「うわぁ……、マジかよ。こんな所に、本当に道がっ!?」


 驚いたようなヒューゴの言葉を聞きながら。


 あまり力のない私でも、ちょっと叩けば、ぼろぼろと崩れる壁に、この壁自体が上にあるものを支えるとかそういう機能を全く為していなかったことが分かる。


 私達がそれぞれに道具を持って、壁を叩く作業をすること、数分くらいだろうか。


 人、1人くらいは余裕で通れそうな道が開いて、その作業をやめてから。

 暗い洞窟の中を懐中電灯を照らして、進むと。


 また同じような行き止まりの場所があって、私達はさっきと同じようにその壁を壊して先に進む。


 少し進んだ所で、ヒューゴが立ち止まり、慌てた様に地図を広げて私達に見せながら。


「あっ、ちょっ、ちょっと待ってくれっ! ってことは、もしかしたら、この道っ!

 地図に書いてある行き止まりだった、この道と繋がったのかもしれねぇっ!

 ……あぁ、やっぱりっ、ビンゴだっ! コイツは驚いたな。

 本来なら、入り組んだ洞窟内を1時間くらいかけてようやく辿りつけるような場所ですぜっ!

 壁を壊していた時間があるとはいえ、コイツは、これから鉱山を利用する連中にとっても、かなり大きな時間の短縮になる」


 と、その場所に見覚えがあったのか、興奮したように声を出してきた。


 洞窟内部はその殆どが、どれも似たような場所にしか見えなくて。


 私にはこの道がさっきの場所と、どう違うのかさえ判別出来ないけれど。


 この鉱山の内部について、かなり詳しいであろうヒューゴからしてみると、私達が今、ハンマーで叩いて開けた場所が、どの道に続いているのか直ぐに把握することが出来たみたいだった。


 私自身も、みんなで穴を開けて出てきたこの場所が、暗くなく、松明の明かりが灯っていることからも、“人の行き来がある場所”と繋がったんだな、ということは理解することが出来た。


 アルが教えてくれて、みんなで1度目に壁を壊して開けた場所は……。


 当然人が入ったことのない場所で、懐中電灯を付けなければいけない程に、かなり薄暗いものだったから……。


「あぁ、それと皇太子様、皇女様、注意してください。

 この先、野生のコウモリやらが多く出てくる上に、奴ら、長いこと洞窟内で暮らしている所為か、一般的な大きさじゃなくてっ、ちょっとばかし図体がでかい上にかなり狂暴なんで。

 それに、水が溜まって泥濘ぬかるみがあるような場所には、人の血を吸うヒルなんかも生息してる」


 そうして未だ、地図を広げてくれていて。


 今、私達がいる恐らくの現在地を全員に分かるように指をさして知らせてくれていたヒューゴが、この先、多く発生するのだろう、野生生物についての危険を教えてくれる。


「そうだな、洞窟内だとそれらに遭遇することは避けては通れない道だろう」


 お兄さまがそう言ってくれると、ヒューゴもそれに対してかなり慎重な様子で頷いていた。


【やっぱり洞窟内だし、注意をしなければいけないほど、野生生物も沢山出るものなのかな……?】


 一度もこういった場所に入ったことのない私には想像するくらいしか出来ない。


 洞窟内は依然、松明が焚かれていて、私達人間にとってはまだこれでも、進みやすい道ではあるんだけど。


 それでも普段、王都などでよく見るような煉瓦で舗装された滑らかな道とは違い、でこぼことしたおうとつがあるのは私も感じていて。


 既にこの道だけでも、動きにくいようなものであるのは間違いないし。

 洞窟内に泥濘ぬかるみがあるような場所が出てきたら、更に慎重に進まなければいけなくなってしまうだろう。


 それに加えて野生生物も出てくるとあらば『当然気は抜けない状況が続くなぁ』と思いながら……。


 私はヒューゴの注意喚起に、気を緩めていたつもりはないけれど、更に強く気を引き締めた。


「あぁ、けど、野生生物に関しては問題ねぇと思うぞ。

 アルフレッドが、大体どの生物も好きだっていう特製の餌玉えさだまのレシピを教えてくれたから……。

 朝、皇宮の別荘で働いてるシェフが作ってくれたのをかなり沢山持ってきているし。

 ちょっと可哀想だが、襲ってきたら応戦はして、なるべく殺さないように先に進むしかないな」


「うむ、そうだぞっ。

 そもそも生き物らが此方を襲ってくるのには、自分たちの住処を奪われるかもしれないという警戒心からくるものだと、明確な理由があるからな」


「……っ、護衛の兄さん達、襲ってくる野生生物に対して。

 あまりにも、滅茶苦茶寛容すぎやしませんかねぇ?」


「むぅ……。

 だが、生き物たちの縄張りに勝手に入って、好き勝手をしているのは僕達の方だ。

 互いに喰うか喰われるかで食事にしようと僕達を襲ってくるような生き物や……。

 僕達がその命に責任を持って食べるためというのなら話は別だが、邪魔だからという理由で無下に殺したりするようなことは出来ぬ」


 そうして、セオドアとアルの言葉に驚いた様子でヒューゴが声を出してくると。


 アルが、毅然とした態度でヒューゴにそう答えてくれた。


 確かに、野生生物はこの辺りを住処すみかとしていて、彼らの住居ともいっていい場所に勝手に入り込んでいるのは私達人間の方だ。


 鉱石も含めて自然の恩恵を受けている側なのは、生き物と同等、私達も一緒のことだから。


 アルのその言葉に、ヒューゴが目を白黒させたあとで。


「あぁ、まぁ、確かに。……ソイツはその通りだな」


 と、苦笑しながらも納得したように声を出してくれて。


 その言葉に私もホッと一安心する。


 ヒューゴがそうやって、色々と考えてくれるような人で良かった、と内心で思いながらも。


 私達が、見たこともないような珍しい植物などが生えている場所を『アレは、~~という植物で、具体的にはこういった効能があるものだ』という、それらに精通している医者の人達や、研究者も顔負けしそうな、詳しすぎるアルの解説を聞きながら通りすぎ。


 暫く洞窟内部を進んで行くと。


 ヒューゴがさっき教えてくれたように、コウモリが洞穴ほらあなの上にびっしりと住み着いているような割と広いフロアへと出くわした。


 ここまで注意を払って、色々な所に目を配って警戒をしながら進んでくれていたセオドアとお兄さまが、上を見上げて、そっと私達が中に入っていくのを止めてくれる。


 コウモリ達の糞は、人間にとっては害のあるもので。


 吸い込むと病原菌になるような恐れもあることから、私達は布で作った鼻と口を覆える簡易的な防護用のマスクのような物を持ってきていた。


 それを、全員で装着してから。


 すかさず、アルが私のリュックサックから、朝、皇族のシェフに頼んで作って貰った特製の餌玉を取り出してくれて。


 それを広いこのフロアの、入り口を少し入った付近のすみの方に何カ所か置いてくれる。


「うむっ、これで問題はない筈だ。

 暫く僕達にはすることがないからな。……お前達、ここで待機するぞ。

 数分も経てば、どんな生き物もこの餌玉に酔って、正常な判断が出来なくなる筈だっ!」


 そうして、自信満々に、此方に向かってアルがそう言ってくれると、ヒューゴがもの凄く驚いたような表情を浮かべながら


「あー、さっき護衛の兄さんから餌玉って聞いた時は何なのかと思って流してたが……。

 ソイツはっ、確かに何かの団子みたいになってるんだなっ? けど、生き物が酔う、ってのは一体……?」


 と、戸惑ったようにアルに向かって問いかけてくる。


「うむ、それは今から見て貰えば分かるが。

 ほら、猫がマタタビに酔ったりするだろう? 原理は殆どアレと一緒だな。

 アレは実は酔っている訳ではなく中枢神経が麻痺して、酔っ払ったような仕草を見せるものだが。

 大量に摂取しなければ、生き物の身体に害はなく、猫にマタタビを与えた時のように、この餌玉えさだまを食べたり嗅いだりした生き物は警戒心から解放されて、リラックスするような効果が得られるのだ」


 アルがヒューゴにそう言ってくれた瞬間。


 上にいた大量のコウモリ達が、ばっさ、ばっさと羽を鳴らしながらアルの用意してくれた何カ所かの餌玉の方へと向かってきた。


 集団で降りてくるその姿は、見た目からしたら恐怖以外の何ものでもなく、条件反射で思わず、びくっと身体が震えてしまったけれど。


 そこから、10分くらい経ってから……。


 彼らは自分たちの縄張りでもあるその場所の、入り口付近に立っている私達には目もくれずに。


 アルが置いてくれた餌玉を食べたあとは、また、何ごとも無かったかのように、洞窟の上に静かに上がっていた。


【わぁっ、すごいなっ。……アルから話には聞いていたけど、本当に大人しくなったみたい】


 内心でそう思いながら、私がそっと持っている懐中電灯を上に向けると。

 コウモリ達は、お互いに羽を擦り合わせたり、口を身体に持っていったりしていて身体を舐め、毛繕いをしているみたいだった。


「……いや、もう何て言うかっ……。

 子供だと思って、侮っていて本当に申し訳ねぇっ! コイツらには苦戦している連中が多いし。

 その団子っ、鉱山入り口に出店して売り出せば、冒険者達からは手数多てあまたで……。

 多分それだけで、一生困らないくらいの、一代財産が築けると思うぜっ?」


 そのまま、私達が下の道を通る間、彼らは大人しく。


 何なら、餌を置いてくれたアルのことを、味方だと思っているのか。


 それとも、動物本来の感覚の鋭さで、アルが“”だと気付いているのか……。


 上にいるコウモリの中でも一際大きい“親分”というか。

 ボスっぽいコウモリが“キー、キー”という鳴き声を溢しながら、アルの方へと近寄ってきて羽で飛んだまま、擦り寄るようにアルの頬に頬ずりしてくる。


「うむ、可愛い奴めっ! お前達の住処を邪魔してすまないな!」


 にこにこと笑いながら、かなりの低空飛行で此方に近づいてその状態を維持して、更に懐くような素振りさえ見せるコウモリの背中を撫でていたアルに。


 ヒューゴが、感動したような声を出すのが聞こえて来た。


「コウモリ達はその糞が人間に取っては害のあるようなものに思われることも多いが、基本的には大人しい生き物だ。

 自分たちの縄張りに入られて警戒して上でバサバサと飛ぶ姿を見て、僕達が必要以上に動揺して痛めつけようとするから余計攻撃してくるのだ。

 こういう風になだめてやれば、全く恐くない生き物だし、友達にだってなれるんだぞ」


 そうして、アルが、そう言ってくれるのを聞いて。


「あぁ、いや、確かに。……こうして、実演されると、マジで説得力があるもんだな。

 今まで、全く可愛いとも思えなかった生き物だったが、俺たちが縄張りに入ってきたら、そりゃぁ、警戒もするよなぁ。

 俺等だって自分の家に勝手に人が入ってきたら、泥棒だって、疑うもんな」


 と、その言葉にヒューゴが、まじまじと納得したように頷いてくれる。


 アルの近くを飛んでいた親分のコウモリが、アルから離れて仲間の元に戻っていったあと。


 キー、キー、と鳴いて私達のことを見送ってくれるような仕草さえ、見せてくれるコウモリ達に。


 私達は特に何も苦労することもなく……。


 ヒューゴから洞窟内で“第一関門”なのだと事前に言われていた場所を突破することが出来た。


「いや、しかし本当にすげぇよ。

 ここまで来るのに、こんなにも早く辿り着くことが出来るなんてっ!

 どんなに頑張っても今日中にたどり着けるのは、4つ目の洞窟小屋までが精々だと思っていたが。

 このまま行けば、5つめの洞窟小屋にも辿り着けそうだなっ!」


 そうして、また歩き出した私達に向かって、ヒューゴが弾んだような声でそう言葉を出してくれる。


 というのは、山にある“山小屋”と似たような場所で。


 山小屋が登山者の宿泊や、休憩、避難などの為に建てられているものと同じく。


 鉱山内にも、人が建てた宿泊できるような簡易的な建物が、幾つか分かれて作られている。


 その近くには、鉱山の麓付近と同じように、採掘している間に壊れた道具などの補充にと。


 鉱山用の道具を売っている商人達がいたり。


 お金を払えば、小屋で寝ている間に、付近を警護してくれるようなことを生業なりわいにして生計を立てているような冒険者の人達もいるらしい。


 洞窟内で野宿をするのは危険なので、安全面を考えて、そういった場所を利用する人達が殆どなのだそうだ。


 ヒューゴが事前に説明してくれたこの鉱山内にある洞窟小屋は、全部で6つ。


 2つめまでは比較的、等間隔に置かれ、洞窟入り口からさほど離れていない場所にあるらしいのだけど。


 3つめ、4つめは人が今まで立ち入ったことのあるこの洞窟の最長の場所と、入り口からの距離の大体中間くらいの地点に散らばって置かれ。


 5つめ、6つめは、4つめから、更に等間隔で距離が取られて置かれているらしい。


 ヒューゴも一度だけ、6つめの洞窟小屋まで到達したことがあるらしいけど。


 そもそも6つ目の小屋に到達出来るような人間が珍しく。


 更に、6つ目の小屋から先は。


 まだ未開の地である場所が殆どで、人が進みにくいような小さな穴などもあり、未だ幾つかに分かれているような道はあるものの。


 帰って来られるかどうか分からないということと。


 その先に、宿泊できるような小屋がないということからも、その奥に進むような人はあまりいないのだとか。


 ――それに、洞窟内に滞在している時間が長ければ長いほど、正確な時間の感覚も狂ってくる。


 みんな……。


 長時間、洞窟の中にいればいるほど、不安になってくるようなものらしい。


 更に、こういった鉱山の中はパーティーを組んで何人かで挑戦するような人もいるにはいるけれど、鉱石を売ったをどうするかで大体揉めてしまうため……。


 貴族などで護衛を連れて利用するような人達以外は、1人ソロで採掘する人が殆どなんだとか。


「ヒューゴ、今、私達がいるのは大体、この辺りですか?

 それなら、この地図から行くと、もうすぐ4つ目の洞窟小屋が見えてきそうですね?」


 私が、ヒューゴの広げてくれた地図に視線を向けて。


 今、自分たちが居る場所を確認した上で、そう問いかければ。


「あぁ、アルフレッド、様? のお蔭で、大分時間の短縮が出来たし、2番目の洞窟小屋はそもそも行かなくても飛ばすことが出来た上に、3つ目はここから離れた別方向にありますからね。

 皇女様は洞窟小屋に立ち入るようなこと自体が、初めてでしょう?

 そんな物珍しいようなものがある訳でもねぇが、雰囲気なんかは、昨日鉱山の麓で出ていたランタンの明かりや商人達もいるということは似通っているし。

 更にその奥を進めばなんかもいて、なかなか幻想的で面白いものが見られますぜ」


 と、ヒューゴがこくりと頷いてくれた。


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