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第17話

「先輩……ひどい……」

 美貴はまだ、しくしく泣いている。

 台風一過、いろいろとメチャクチャである。


「……ったく、なんだったんだ」


(監視されてたんかな?)


「おい、もう泣くな。俺もやりすぎた。ごめんな、美貴。ここはお互い、ちょっと冷静になろうや。な?」


 美貴は、うんうん、とうなづきながらシクシク泣いている。

「……あたしも……ゴメン……」


 和也は美貴の涙を指先でぬぐうと、彼女をぎゅっと抱き締めた。


「俺、別に美貴と別れたいわけじゃない……ただ、過去の自分なんて、今さらどうにも出来ないものと比べられるのが、今の自分を好きな人に見てもらえないのが……つらいんだ。なあ、今なら分かってくれるか?」


 和也は感情的になってしまうような話題を、つとめて優しく話しかけた。

 美貴はこくり、と頷いた。


「なあ、なんで昔の俺にこだわってたの? 教えてくれ……」

「だって和也、あんまりにも変わっちゃったし」

「見た目?」


「……もそうだけど、不良になってるし、タバコ吸ってるし、暗いし、すぐあやまるし……何度もゴメンって言うし……」


「謝るのなんでダメなん?」

「だって……そんな情けない和也、見たくなかった」


 和也はぎりり、と歯ぎしりした。

 それが不可抗力だったとしても、美貴の気持ちも理解出来るから。


「ここ、謝っちゃいけないとこかな」


 腰に回した美貴の手に力がこもる。


「和也にはたくさんつらいことがあって、それでよわよわになっちゃって、だから私が元の和也に戻してあげなきゃって思っちゃって……」


「そういうことか。諦めろ。所詮ヒトなんてバージョン違いだ。ロールバック出来ない以上、バージョンアップで対応するしかねーんだよ」


「……よくわかんない」

「つまり、望ましい形に上書きしていきゃいいんだよ」

「上書き……できる?」


「お前が望むなら、過去に戻る以外のことは何でもする。出来るかどうかは、保証出来ねえけど」


「ごめんね……」

 相変わらず美貴は啜り泣きをやめられない。


(やれやれ……、あ、いいこと思いついたぞ)


「美貴、ちょっと後ろ向いてて」

「うん」


 ――ゴソゴソ……


 和也は、壁に掛かったままの制服を手に取り、手早く着替えた。

 そしてくるりと振り返り、


「見ていいぞ。ほ、ほら、お前の好きな『あの頃』のやつだぞ」

「――!?」


 美貴はピタリと泣き止み、制服姿の和也を凝視した。


「どうだ?」


「あ、ああ……あの頃の……和也だああああ!!」

 美貴は和也にガバっと飛びついた。


「え? え? ちょ お、おう、そんなに喜んでもらえるとは……」


(何なんだ、この反応は、正直ヒクぞ)


「ちっっっとも変わってない!あの頃のまんまの和也ぁ~~~~」

「え、えええ?」


(いやいやいやいや、さっき変わったって言ったばっかだろお前、髪だって染めてるし、背も伸びてるし、顔だってかなりやさぐれてるし、あの頃のまんまなわけねーだろ、っておい正気に戻ってくれ)


「お、おちつけ?」


 スリスリスリスリ……。美貴は一心不乱にスリスリしている。


(も、もしかして、制服という記号で俺を認識してたのか?まさか……)


 スリスリスリスリ……。


(まさか……こ、これが……正解、なのか?)


「あ、あとさ、こっちにもまだ『あの頃』のヤツあるんだよ、見ろよ、これこれ」


 和也はベッドの上のタオルケットをめくった。


「美貴と初めてやった時の血の染み」


 ピタリと美貴のスリスリが止まった。


「やだ!なにキモい!」

「しょうがないだろ、洗っても落ちないんだから」

「じゃあシーツ替えてよ!」


「おま、貧乏人ナメんな。シミ一つでいちいち買い換えるわけないだろ。つか二枚しかねえわ」


「ご、ごめん……」


 和也はくすりと笑った。

「やっと泣き止んだ。ほら、おいで美貴」


「和也ぁ」

 美貴は和也の胸に再度飛び込んだ。


 和也は愛おしそうに美貴の頭を撫でた。

 二人だけの時に見せる、甘えきった顔の美貴がそこにいた。


「じゃ、仲直りのHしよ。あの頃みたくさ」

「バカ……」


 と言いつつ、まんざらでもない美貴。


「でも、和也があたしのことこんなに溺愛してるなんて思わなかった」


「最初からしてたよ。お前が知らないのは俺のこと、ちっとも見てくれなかったからだよ。でも、いいかげん気付いたなら……わかるだろ?」


 美貴はドキリとした。昨今の、火が点いた和也の激しさを知っていたから。

 下腹部に、脈打つ和也の怒張が当たる。


「あ、あ、や、あの、ちょっとまって、えええ、いやああああ」


 美貴は和也に一瞬でベッドの上に組み敷かれた。


「待たない」

「いまはだめえええ」

「だめじゃない」


 かつてこの部屋で睦み合った時の何倍もの激しさで、和也は美貴の口腔を蹂躙する。ふと、キスをしながら美貴の体をまさぐっていた和也が顔を上げた。


「――あれ? どうしたの? 美貴ちゃんこんなにぐっしょり……」

「いやあ、だからイヤだったのにいいぃ」

「制服姿の俺に欲情したのが、そんなに恥ずかしかったのか?」

「しらない、しらない、和也のばかーっ」


 和也は恥ずかしがる美貴の顔を楽しみつつ、ズボンと下着を脱ぎ捨て、手早くゴムを着けた。


「ったく、チョロすぎ。でも、俺はそんなお前が大好きだ」

「わたしも和也だいすき」

「じゃ……いくよ」


 和也の屹立が、美貴の中をゆっくりと進んでいく。

 ふわあ、と軽くのけぞる美貴を押さえつけ、最奥まで埋め込んだ。

 その瞬間、達した美貴がびくんびくんと震えた。


「今日はどうしたんだ? こんなに感じて。動きづらいから制服脱ぐぞ……って聞いてねえな」


(ま、いっか。すげえ喜んでるみたいだし)


 美貴は幸せそうな顔で、和也を思う存分満喫していた。



                       【あの頃の章  了】

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