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7シーズン(202309~202402)

人助け前に治療したい

『でもさあ、人助けって具体的に何すればいいんだ?』

夕飯後のまったりタイムである。千歳(黒い一反木綿のすがた)にそう聞かれて、俺は首をひねった。

「まあ、身の回りの人に親切にすることからじゃない? 千歳は知り合いの人に普通に優しいから、普通にしてれば結構行けるよ」

『それじゃ今と変わんないじゃないか』

千歳は口をとがらせた。

「まあ、後は、金谷さんとか南さんから心霊系の仕事手伝ってって言われたら、きっちりやり遂げることじゃない? 金谷さんたちの助けにもなるし、金谷さんに相談した人の助けにもなるし」

九さんの言ったことは、多分千歳がいい神様として敬われるようになれ、ということだと思う。そうする近道は、金谷さんや南さん経由で来る心霊系の事件を解決することだろう。

というか。

俺は、千歳の黒い体がしっかり巻き付いた自分の胴体を見下ろした。

「……あのさ、千歳、もしかして寒い?」

さっきから、千歳にべったり巻き付かれているのである。ここ数日、千歳にくっつかれまくっている。九さんの件は一件落着したので、心細いわけでは全然ないはずなのだが。

千歳は少し困った顔をした。

『うーん……寒いのにちょっと似てるんだが……』

「窓閉める?」

最近、夜はエアコン無しで行ける。窓は開けておきたい気温だが。

千歳は困り顔のまま言った。

『なんていうか、空気は寒くないんだけど、なんか体の中のほうが寒い感じがするんだ』

「寒気がするの? 風邪みたいな?」

『風邪じゃないと思うんだが……』

原因がいまいちわからない。千歳に巻き付かれたまま、俺は首をひねった。

「うーん、まさかコロナじゃないよねえ……」

千歳は意外そうな顔をした。

『コロナ、もう終わったんじゃないのか?』

「全然終わってないよ、ニュースでやらなくなっただけ。感染者数的には第9波だよ今」

『そうなのか!?』

「そうだよ、だから俺、おばあちゃんに直接会わせてもらえないんだもん」

一度祖母に直接会いに行きたいのだが、祖母の老人ホームとしては、感染者数のピークが見えない現在、とても外部の人を入れられないとのことだ。まあ、感染対策がしっかりしてるのはいいことだが。

「いや、でも、千歳やけどしないってことは明らかに哺乳類のタンパク質でできてないし、新型コロナだって感染するの無理だよなあ」

『コロナじゃないなら、ワシ、お前にくっついてても移さないよな?』

とりあえずくっつきたいんだな、千歳は。

「まあ、それはそうだけど、ずっと寒いっていうのは心配だよ。何が原因だろ?」

『お前にくっついてたらマシになるからいい。くっついてていいんだろ?』

俺にくっつくの自体は全然いいんだけどさ。

「俺にはいくらでもいいよ、でも他の人に無理にくっつくのはよくないから、寒くても無理にくっついちゃダメだよ」

『それくらいわかってる』

「星野さんにも緑さんにも、ダメだよ」

『無理にそんなことしない、嫌われたくないもん』

千歳はふくれた。

とはいえ、冷えは万病の元だ。千歳に何らかの異変が起こっているなら、どうにかすべきだ。

「あのさ、千歳、話戻すけど、人助けするなら前提として、自分の面倒はちゃんと見れてなきゃダメだよ。誰か助けかけて、でも途中で自分が潰れて助けられなくなりましたじゃ、はしご外すようなもんじゃん」

『それは……まあ、そうだなあ。仕事頼まれたら、ちゃんとしなくちゃいけないしなあ』

千歳はうなずいた。

「だからさ、人助け頑張るのは、その寒気なんとかしてからにしよう?」

『でも、どうしろっていうんだ?』

千歳は首を傾げた。

「とりあえず、去年戸籍の手続きの時に見てもらったお医者さんのところに行こうよ。何かわかるかも知れないしさ」

『あそこ? わかるかあ?』

千歳は、露骨に怪しむ顔になった。まあ、問診ならともかく、千歳には採血も何もできないからな……。

でも、他に思い当たるところもない。俺は南さんに経緯を伝え、高千穂先生のいる病院に予約を取った。

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