「なんだ! あの大きいドラゴンは?」
あいつが大きな声を出す。
そんなに大きな声を出さなくても見ればわかるわ。
「あいつは確か、アルゲオという氷属性のドラゴンじゃったかな。
氷壁の飛竜とも言われとるはずじゃ」
ねえさま、さすがいろいろ知ってらっしゃる。
「ボクも名前だけは聞いたことあるけど、実際に見るのは初めてだねー」
フォルトナはずいぶん呑気に構えていますわね。
「グォーーーーーー」
氷壁の飛竜アルゲオが一吠えすると、猛吹雪がマリーたちに向かってくる。
風雪に耐えながら、みんなが戦闘態勢を整え始める。
特にねえさまからは闘志がみなぎって見えるわ。
「さてと……
ワシの出番じゃのぅ」
ねえさまが一歩前へ出るところにマリーが割って入ります。
「ねえさま、ここはマリーに任せてほしいの」
やる気まんまんのねえさまだけど、マリーもいいところ見せたいし。
今回はねえさまには悪いけど、マリーに戦わせてほしいわ。
「ん? なんじゃ、マリー。
お前がやるというのか……」
ちょっと怪訝そうな口調でねえさまがマリーを見てきた。
「ねぇ、お願い、ねえさま。
せっかく助けてもらったのだから、少しは役に立ちたいわ」
ねえさまが戦いたいのはわかるけど、任せてばかりでは立つ瀬がないわ。
ここは是非にでもやらせてほしいという思いもあり、今回は一歩も引かないつもり。
「うーん。
仕方ないのぅ。
マリーに任せよう」
マリーの覚悟を受け取ってもらえたみたいで良かったわ。
ねえさまにいいところを見せないとね。
「ねえさま、ありがとう」
ねえさまの胸に飛び込んでお礼を言うと、氷壁の飛竜の前へと向かった。
「なぁ、ゾルダ、マリーに任せて大丈夫なのか?」
あいつが、何か心配をしているようだけど、これぐらいの敵、マリーは大丈夫。
「まぁ、本来の力を出せれば、問題なかろう」
ねえさまはさすがわかってらっしゃるわ。
安心してマリーに任せてね。
「さぁ、氷だらけのドラゴンさん。
マリーが相手しますわ。
かかってらっしゃい」
氷壁の飛竜がマリーの方を向くと、また一吠えする。
「ガォーーーーーー」
そんな遠吠えを何度しても無駄ですわ。
荒れ狂う竜巻のような風雪がマリーの方に来たけど、一向に気にしないわ。
「それだけしか能がないの?
このドラゴンさんは。
それ以外してこないなら、こちらから行くわよ」
ただただ叫んでいるだけならなんともないわ。
反撃させてもらうわ。
「フレイムストーム!!」
炎の渦をアルゲオに向かってぶっ放してあげましたわ。
これで大ダメージよ。
それとも、もう倒れたかしら。
あたり一面の炎が止むと、ほら、ごらんの通り……
って全然ダメージ受けてなさそう。
そこには微塵も溶けていないアルゲオが立っていましたわ。
「えっ……
今の攻撃でなんともないの……
少なくともダメージは与えられたはずなのに……」
あっけにとられてしまいますわ。
いつもなら、これでだいたい片付くはずなのに……
「いつもの力が出ていないようなじゃのぅ
これはちぃっとばっかり危ないかもしれんのぅ」
ねえさまがこちらの様子を見て心配していますわ。
「だ……大丈夫ですわ。
たまたま調子が出なかっただけで、次こそは問題ないですわ」
次に魔法を放てばきっと大丈夫。
「グォッーーーーーー」
アルゲオが翼を広げてこちらに突進してきましたわ。
今度こそ……
「フレイムストーム!!
フレイムストーム!!
フレイムストーム!!」
何度もそう叫びながら炎の嵐をぶっ放しましたわ。
でも効いている様子がありません。
「何がおかしいの?
何で効かないの?」
頭がパニックになり、落ち着いて考えられなくなってしまいました。
アルゲオの突進は止まらずにマリーの方へ来ます。
手と一体になった翼を広げ、マリーへ攻撃をしてきましたわ。
「キャーーーーー」
思わず目を瞑ってしまいましたわ。
「ガキーン」
その時、固いもの同士がぶつかりあう音がしました。
目を開けてみると目の前には、あいつが立って、アルゲオの攻撃を受け止めていました。
「お……お前、何故ここに?」
「いや……なに……
体が……勝手に……動いたというか……
なんというか……」
あいつは攻撃を受け止めるだけで精一杯の様子。
それでも踏ん張って攻撃を受け止めていますわ。
「確か……前にも……ゾルダが……
力があまり出せない……こと……あったな……と」
どうやらあいつはそれを見越していたのか、攻撃を受ける準備はしていたみたい。
まったく余計なお世話なんだから。
「そんなことしなくても、マリーは大丈夫ですぅ」
あいつはアルゲオの攻撃を跳ね返すとマリーに向かってこう言ってきましたわ。
「まぁ、そんなこと言わずに、俺にも手伝わせてよ。
俺自身もたぶんそれなりには強くなっているはず。
ゾルダも俺と会った初めのころは、力を思った通りに出せなかったし、
マリーは今がそれなんじゃないかな」
ふん。
知ったような口を聞かないでほしいわ。
マリーは……マリーのことは自分自身でわかっているわ。
「マリーよ、まだ力は出し切れていないようじゃから。
ここはあやつに任せたらどうじゃ」
ねえさままでもう……
実力の半分も出せていないのに……
これじゃマリーからやらせてほしいと言った意味がないわ。
「もう少し……もう少しだけ……
次はマリーの力が戻るから……」
そうねえさまに懇願しました。
でも、ねえさまは、
「いや、今のマリーには難しいじゃろぅ。
マリーに力がないからではないのじゃ。
封印の所為もあるしのぅ。
力が出せない以上、足手まといじゃ。
わきまえろ、マリー」
と厳しい口調でマリーに言ってきましたわ。
「…………
わかりましたわ」
感情があふれて涙がこぼれてきました。
前だったらこれぐらいの敵、なんてことなかったのに。
「厳しく言うて悪いのぅ。
それもまたマリーのためじゃ」
止まらない涙をぬぐいながら、ねえさまのところへ向かいました。
そしてねえさまの胸元に顔をうずめて泣き続けました。
ねえさまは先ほどの厳しい顔から打って変わって、やさしくマリーの頭を撫でてくれました。