マリーの提案でラヒドへ行くことになったのじゃが……
えーっとメルナール一族じゃったかな。
そいつらがアスビモとやらのことを知っている保証はないじゃがのぅ。
それでも何も情報がないところで探し回っても無駄なのはワシもわかっておる。
藁にも縋るというところではあるし、納得はしておらんが致し方ないかのぅ。
あやつらは呑気に情報をもらえるであろうと考えておるようじゃが……
そう簡単に話してくれる相手なのかのぅ……
マリーの話を聞いてもいまいち思い出せんが、庇護していたということは……
たぶんワシにひれ伏さず、ガツガツと物を言ったり、拒否したりしておったのじゃろう。
そういう奴がワシは好きじゃからのぅ。
それだからこそ、今のワシたちの事はなんとか一族には得がないように思うのじゃが……
今回はあのマリーがいろいろと考えて話してくれたことだしのぅ。
マリーはご機嫌だし、このままマリーの考えで進んでいこうかのぅ。
ラヒドへ向かう道中、ワシはそんなことを思いながら、マリーやあやつの後を着いていった。
ラヒドへ行くには山を越え、しばらく行かないと到着はしないしのぅ。
またしばらく長旅になりそうじゃ。
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ムルデを旅立ち数日が経ったのじゃ。
険しい山の頂を越えると、遠くの方に海が広がって見えてきたのじゃ。
「あれがこの世界の海か……
海はどこの世界でも広いなぁ」
あやつはなんか当たり前のことを言っておるぞ。
海なんぞ、大抵どこでも同じじゃろ。
「おぬしのもといた世界は海は広くないのか?
海は広いのは当たり前じゃろうに」
「俺のもといた世界でも広いけど、建物とかがすごく高かったり大きかったりするからさ。
本当に近くにいかないと広く見えないんだよ」
「ほぅ……
城や貴族の屋敷なんかより高いのか?」
「そうだね。
何十階や何百階もある塔のような建物がいっぱいある。
街の中でひしめき合っているのが俺がいた世界」
「それだけ大きいものを建てているというのは、どれだけ力が強い者を使っているのか気になるのぅ。
是非ともそやつらと一戦交えてみたいものじゃ」
「俺の世界では力は必要ないよ。
すべて機械がやるんだし、俺みたいなのが建てているんだよ」
「では、その機械とやらと……」
「本当にゾルダは戦うことばっかりだな」
あやつが半ば呆れ気味にそう言い放ちおった。
ワシだってそればかり考えているわけではないぞ。
ただ強い者がいたら戦ってみたいと思うのは、ワシらの性じゃと思うのだがのぅ。
そんなことをワシとあやつで話しおると、ふと足元に影が過りおった。
「ん……何じゃ?」
「ねえさま、足元に影が横切ったように思いますわ」
ふと上空を見上げると、1匹、また1匹と飛来物がこちらに近づいてきおった。
「なんだ?
何が起きた?」
あやつは慌ててバタバタとしはじめおった。
「おぬし、落ち着け。
魔物じゃ。
ザコじゃ」
飛来物はさらに数が増え、ワシらを取り囲むように上空を飛び回ってきおった。
そのうちの1匹がワシらの下に降りてきよった。
「オレらは、魔王軍先遣隊の一番槍、ガーゴイル軍だ。
魔王様の命令により、お前らの命を貰う」
ちぃっ……
ゼドの奴、ワシらが復活したことを知りおったな。
……
アスビモとやらかのぅ……
ゼドに話をしたのは。
「このワシをか?
お前らは何も聞いてないのかのぅ。
ワシが誰じゃったかを……」
ガーゴイルたちにワシの事を知っているか聞いてみると
「勇者一行を叩き潰せとの伝達だ。
倒したものは四天王に昇格させるとのお触れだ。
俺たちが倒して、俺たちの司令が四天王になるんだ」
なんじゃ。
ゼドの奴、ワシがおるから自ら来ると思ったのにのぅ。
こんなザコばかりを動かしても無駄なのにのぅ。
「勇者一行とだけ聞いておるのじゃな?
そこに元の魔王がいることは、聞いておらぬのかのぅ……」
そうワシが伝えるとともに、一発をお見舞いする。
「
前に出てきたガーゴイルを掠め、上空に放たれた黒い炎はガーゴイルの群れの真ん中に向かっていきおった。
やがて十数匹が黒い炎に包まれ、下へと落ちていったのぅ。
ワシのコントロールは惚れ惚れするのぅ。
「ついでの、元四天王のマリーもいるのもご存じなさそうですわね」
マリーもそう言うと瞬く間に呪文を唱えおった。
「フレイムストーム」
群れに向かい炎の渦が飛び、また数十匹が焼け落ちていきおった。
「元魔王に元四天王?
そんなことは聞いてないぞ?
何故勇者と一緒に……」
「それをワシらに言われてものぅ……
お前らの上司に言え。
伝え方が悪いとな」
ゼドも甘いのぅ。
もっとしっかりと伝えんと犠牲ばかり増やすぞ。
「
ワシが呪文を唱えると、上空に黒い雲が集まってきおった。
その雲から雷が放たれ、ガーゴイルの群れに直撃をする。
さらに数十匹が黒焦げになり落ちていきおった。
「ひっ、怯むな!
全軍突撃しろ!」
ガーゴイルの司令と思われる奴の掛け声でワシらに一斉に襲い掛かってきおった。
ワシとマリーが魔法で多くのガーゴイルたちを撃ち落とし、あやつはそれを回避した奴らを相手にしていった。
あやつも以前よりは多少戦い方がマシになってきたが、まだまだだのぅ。
残党をなんとか倒していきおったが、危なっかしくて仕方がない。
「どりゃぁぁぁぁ
うりゃぁぁぁぁ」
掛け声だけは威勢がいいのぅ。
「ほれ、まだ後ろから来るぞ。
気配をしっかり捕まんと、やられるぞ」
「わ……わかってるよ。
でもこれだけ数が多いと……」
「弱い奴らがいくら多く集まったって有象無象じゃ。
これぐらい軽くあしらわんとのぅ」
あやつのことを気にかけつつ、数に物を言わしているガーゴイルたちを撃ち落としていく。
マリーはマリーで頑張っておる。
さすがワシが認めているだけのことはある。
あやつよりは頼りになる。
それでも、どんどんと押し寄せるガーゴイルの奴ら。
ある意味、これだけ力の差を見つけても、突っ込んでくる勇気は認めようぞ。
「ガーゴイルたちよ。
勇猛果敢じゃのぅ。
それでもまだやるかのぅ……
お前たちの勇気に免じて、ここから立ち去るのであれば、深追いはせんぞ。
安心して立ち去るがよい」
そう伝えると、ガーゴイルたちは一斉に撤退をし始めたのじゃ。
「そうじゃ、そうじゃ。
それが賢明な判断じゃ。
魔王に伝えておけ。
ワシらに中途半端なものを送り込んでも返り討ちするだけじゃと」
しばらくすると、全軍が去っていった。
「ふぅっ……
なんとか去っていったな。
俺、もう疲れた。
あれだけ多いと……」
「何を言っておる。
ほとんどワシとマリーで倒しておるぞ」
「そうですわ。
倒しきれなかったガーゴイルたちだけ倒していったのだから、そこまでではないはずですわ」
「いやいや、そうは言ってもそれでも数はいたぞ」
確かにあやつが言う通り想定外の数ではあった。
それだけ多くの奴をワシらに差し向けるとはゼドも焦っておるのかのぅ。
今後一番の障壁になるのはワシらだと見ているのじゃろぅ。
それでもワシの相手ではないがのぅ。
「おぬしにとってもいい訓練になったじゃろぅ」
「訓練って……
これ実戦だし」
「実践をした方が力はつくので問題なしじゃ。
あぁ、あと、これはゼドにワシらのことが知られておるかのぅ。
これからはこうやってちょくちょくワシらのところに軍を差し向けてくるじゃろうな」
「そういうことか……
ますますラヒドへ行ってしっかりと情報を得ないと」
「あーあ、もうゼドっちに知られちゃったのか。
早かったですわね」
「たぶんじゃが、アスビモとやらじゃろ。
ゼドに伝えたのは」
「そうなると、アスビモも野放しにしておくのもリスクがあるな」
「うむ、そうじゃろぅ」
ゼドとアスビモは繋がっておるという証拠じゃ。
あやつの魔王を倒す目的と、今のワシの目的であるアスビモとやらのへの怒りが一致したのぅ。
これであやつもアスビモをぶっ倒すことを理解してくれるじゃろぅ。