「あたいがこの街の、商業ギルドのギルド長、ジェナだ!」
ギルドの応接室に行くなり、大きな声で名乗った。
挨拶は基本だからな。
応接室に行くと2人の女と1人の男がいた。
---- そこから少し前に遡る ----
あたいは本を読みながらのんびりと寛いでいた。
すると、ノックの音がした。
「いいぞ、入って」
ドアを開けて部屋に入ってきたのは、訝しそうな顔をした受付の嬢ちゃんだった。
「あの……ギルド長、今お話よろしいでしょうか?」
「おぅ、なんだ。
受付は笑顔が大事だって言うのにそんな顔して」
「ギルドの受付にギルド長に会いたいと言う人が来ておりまして……
伺ったところ、事前にお約束をしていないとことでしたが、いかがいたしましょうか」
約束もなしに突然の面会希望か。
だいたいそういう輩は礼儀も何もあったもんじゃない。
「どうせ面倒な奴らだろ。
そうだな……
7日後なら空いていると言って、それでも直ぐ会わせろって言うなら追い返してくれ」
「承知しました」
そう言うと受付の嬢ちゃんは再び受付へ戻っていった。
しかし事前に話を通していないし、商いの基本もわかってないやつらだな。
そういうのと関わるとロクなことがないしな。
7日も先で会うと言って、それでも会うというなら会ってやらなくもないがな。
コップに無くなった茶を注ぎ、ふたたび本を読み始めた。
数ページ読み進んだところで、ふたたびノックの音がした。
「今度はなんだ。
今日はゆっくりしたい日なのに」
先ほどの受付の嬢ちゃんが、今度は慌てて入ってきた。
「ギルド長、先ほどの方たちですが……
『ゾルダ』の使いと仰っていて、すぐに会いたいとのことです」
「何?」
『ゾルダ』と言えば……
確かひいひいばあちゃんが残した遺言の中にあったけ。
『ゾルダ様にはメルナール一族の礎を築かせてもらった。
そのゾルダ様から話があった場合は、家訓の是々非々の判断を抜きにして取り組め』
だったかな。
でも本当にそいつらはゾルダの使いなのか……
ゾルダの容姿がわかっている訳ではないし、本当にそいつの使いかはわからんだろう。
ひいひいばあちゃんの遺言は守りたいが……
しばらく考え込むが、これと言ったいい手が浮かばない。
あれこれ悩んでいてもしかたないし……
「わかった。
あたいが今から会う。
会って、本当にそいつらが『ゾルダ』に関係しているか確認してやる」
「今からですか?
承知しました。
その様にお伝えして、応接室にお通ししておきます」
受付の嬢ちゃんは慌てて部屋を出ていった。
ドアも閉めずに……
そこまで慌てなくてもいいのにな。
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と言うことがあって、今に至っている。
どんな面をしているか見てみるか。
1人の女はふんぞり返ってソファーにどかっと座っているな。
これはないわー
その横にいる女は子供のような出で立ちで緊張気味にしているな。
あと男の方は……
背筋を伸ばしてシャキッとしている。
あたいが入ってくるなり、立ち上がって会釈をしている。
商いのことを分かっていそうな雰囲気がするな。
「よぉ、待たせたな。
いろいろと物入りでな。
バタバタしていてすまない」
「お忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます。
私はアグリと申します」
男はきちんとした姿勢で深々とお辞儀をしている。
「たまたま時間を空けることが出来たし、問題ないよ。
さぁ、かけてくれ」
男に座るように促すと、また一礼をして、座った。
どこで教育を受けたのかは知らないが、ビシッとしていて好感が持てる。
それに比べて、女2人は座ったままか……
「で、お前らさんが『ゾルダ』の使いってことでいいんだな」
「はっ、はい……
マリーたちはそうなのですが……」
緊張しきっている女がたどたどしく話始めたとこで、ふてぶてしい態度の女が割って入ってきた。
「ワシがそのゾルダじゃ。
直々に来てやったぞ。
昔、ワシが大変世話したそうでのぅ」
こいつが魔王ゾルダか……
今は魔王が変わったと聞いたから、元か……
「そのゾルダ様が直々に来ていただけたとのことだが……
用向きはなんだ」
「お前、アスビモとやらのこと知っておるか?
知っているなら、どこにいるか全部話すのじゃ」
アスビモのことを知りたがっているのか……
あいつ、何をしたんだ。
喰えない奴とは知っていたが……
ただ、商人として何も無しに情報は渡せない。
それに、こいつが本当にゾルダかもわからない。
「アスビモのことね……
知ってなくもないが……
あんたらの用向きはわかった。
ただあたいにはあんたがゾルダだっていう確証は何もない。
確かに、昔ひいひいばあちゃんが世話になったことは知っているが……
話だけしか聞いてないからな」
「このワシが偽物じゃと言うのか。
見てわからんのか!
本物にしかないこの圧倒的な存在感があるじゃろ」
「ゾルダ……
そんなの見て分からないよ。
それに証拠にもならないし……」
礼儀正しい男はふてぶてしい女に対して、呆れた顔で話をした。
その後に、真面目な顔になり、あたいに
「ジェナさん、それはおっしゃる通りです。
どのようにすれば、信じていただけるでしょうか?」
と言葉を向けた。
「そうだな……
相当強かったとは聞いているから、ある依頼を達成してきてくれたら、信じなくもないかな」
ゾルダは強いと言うのであれば、これから話す依頼ぐらいのことは造作もないはずだ。
「ふんっ……
そんな奴の話が聞けるか。
ワシがワシだとわからん奴のことな……
もういい、帰るぞ」
ふてぶてしい女は機嫌が悪くなり、もう帰ろうとしている。
我慢強くない奴だな。
「ゾルダ、落ち着いて」
礼儀正しい男はふてぶてしい女をなだめながら、あたいに
「それはどんな依頼でしょうか?」
と確認をしてきた。
「この街の沖にドラゴンの巣窟があるんだが……
そこに我が家の秘宝が持っていかれてしまっているんだ。
それを取り返してきてほしい」
以前に街がそのドラゴンに襲われた際に、いろいろな物を持っていかれてしまった。
ドラゴンはどうも気に入ったものを収集する癖があるらしく、我が一族の宝も持っていかれていた。
なんとかしたい思いがあったが、あそこに足を踏み入れるのは相当な猛者じゃないと出来ない。
そういう意味ではゾルダかどうかを確認するにはうってつけだ。
「ドラゴンの巣窟ね……
どうするゾルダ?」
礼儀正しい男はふてぶてしい女に確認をしている。
「どうするも何ものぅ……
気に食わんが、ワシの力を示せればいいんじゃろ?
ドラゴンごときワシに取ったらどうってことない相手じゃ。
これでアスビモとやらのことを聞けるならお安いものじゃ」
「ゾルダが受けるというなら、受けようか」
女2人に礼儀正しい男は確認すると、2人は大きくうなずいた。
「わかった。
ジェナさん、依頼を受けるよ」
「助かるよ。
それじゃ、明日には船を用意しておくから、よろしく!」
そう言い残し、応接室を後にした。
あいつらが本当にゾルダ一行と言うなら、これぐらい容易い話でしょ。
もしあいつらがドラゴンの餌になったとしても、それはそれでゾルダではないってことだ。
それにもし我が家の秘宝が戻ってくるなら戻ってくるでいいし。
どんな風にこの依頼をやってくるか楽しみにして待つとするか。